模擬戦と平常授業 中編 2
「・・・危険色仕掛け、という事はやはりこの学園に仕掛けられたトラップは貴女の仕業ですか」
「ええ、まあね」
と、恵美子は興味無さげに斬人の問いに答えると、おもむろに懐から小さい球体がたくさん入った透明な袋を取り出す。
「それはBB弾?」
「そうね・・・」
少し離れた場所にいた斬人は目を凝らし恵美子の取り出したものを確認し呟く。
しかし、それに対して恵美子は多く語ること無く、ジッパータイプになっている袋を開けてやや乱暴にもう片方の手の平に移し握り込む。
そして次の瞬間、恵美子は手に持った大量のBB弾を斬人に向かってばら撒く。
「!?」
咄嗟のことで恵美子が何故そのような行動をとったのか、斬人には理解することが出来なかった。
だが自分へと向かって飛んでくる無数のBB弾に何らかの危険がある事は理解する事が出来た。
「くっ・・・」
そのため斬人は自分が足に敷いているベール状の混沌物質を素早く抜き取りBB弾の群れに向かって投げつける。
すると混沌物質のベールは大きく広がってBB弾を残さず包み込んでいき、やがで1m程もある巨大な球体へと姿を変える。
「ふう」
危機が去ったことで一息つき、ため息をもらす斬人。
だがその直後、斬人の目に混沌物質の球体の向こうでほくそ笑む恵美子の姿が映し出される。
そして。
ドゴン!!
そんな爆音と共に混沌物質の球体が破裂し、同時に中から先程のBB弾がクラスター爆弾のような要領で飛び出してくる。
「なに!?」
それに驚き咄嗟にバックステップで回避を試みるが時すでに遅し、であった。
斬人の周りには既に高速で飛来するBB弾が大量に存在していて、次の瞬間にはそのBB弾は斬人の身体に触れて無数の魔法陣を生じていた。
そして、目を焼くような光と共に今までとは比べ物にならないほどの爆発が巻き起こった。
「はあはあ・・・」
「あら丈夫ね。・・・と思ったらもう聖剣使っちゃったの」
爆発の中から跪いた状態で現れた黒甲冑を見た恵美子が嘲笑しながら訪ねる。
「まあ、そうですね。満身創痍です」
と拡声器を通したような声で冷静さを装いながら答えた斬人は甲冑が擦れるカチャカチャと音をたてながら立ち上がる。
そしてその後、混沌物質により剣を生成し構える。
「でも、簡単に負ける訳には行かないのでね」
「そう?じゃあ来たら」
重装備の斬人に対して恵美子は構えたりすることなど無く、下を向き何やら足元を確認しながら呟く。
「では、行くぞ!」
そう叫ぶと斬人は重そうな甲冑を付けているにも関わらず軽々とジャンプし、恵美子との距離を1度も地面に足を付けることなく詰め、そのまま斬りかかろうとする。
「なに!?」
だが敵は一瞬の隙に元いた位置から忽然と姿を消してしまっていた。
その状況に僅かに動揺したものの、人ならざる存在である斬人はハーベストの持つ野生の感のようなものを持って敵の気配を探り、すぐさま自身の真後ろの空中に敵がいる事を探り当てる。
「そっちか!」
「!・・・感がいいわね」
振り返り際に混沌物質の剣で恵美子に斬り掛かるが、その攻撃は間一髪の所で敵の腕でガードされてしまい、再び、腕と剣の接触面に魔法陣が出現していた。
しかし。
「混沌物質。形態変化」
斬人がそう呟くと混沌物質の剣はヌルヌルとしたスライムのような形状へと変化して恵美子の腕に巻き付くと再び固まり、腕をしっかいと掴む。
「くっ」
「おら!」
斬人はそのまま背負い投げでもする様に投げ飛ばし、恵美子はそのまま空中を引っ張られて宙を舞う。
そして敵が地面に激突するその1歩手前、斬人が勝ちを確信しかけたその時。
今度は地面と恵美子の間に魔法陣が現れ、そのまま何かを掴んでいた痕跡の残る混沌物質を残し、恵美子は忽然と姿を消してしまう。
そして今度は気配を探している余裕など無いくらいのタイミングで斬人の背中に恵美子の手が触れる。
「いい甲冑ね。でも残念もっと見たかったけれど退場してもらうわ」
そう呟いた恵美子は斬人の背中からそっと手を離す。
すると斬人の背中から今までよりも1周りほど大きな魔法陣が出現する。
「ぐっ!・・・」
ガシャ。
大きな音をたてながら膝をつく斬人。
身体を襲う強烈な疲労と脱力感に何が起こったのか理解できないまま、不意に窓に写った自分の姿を確認する。
「は、花?」
自身の背中の大きめの魔法陣からは、場違いに咲いた小さい花を見た斬人は疑問を感じながら呟く。
「そう綺麗でしょ?それは一輪刺し。私の持っている中でも上級と言えるトラップよ。・・・その花はトラップに引っかかった対象の体力や生命力を無理矢理に吸って開花するんだけど、何せ燃費が最悪でね。そんな小さい花を1輪咲かせるだけでも貴方の体力をほぼ使い切ってしまったでしょう?」
「はあはあ・・・くっ・・・」
バタッ!
今までは満身創痍で膝を着きながらもギリギリで耐えていた斬人であったが、いよいよ体力の限界が訪れ、うつ伏せに倒れ込んでしまった。




