模擬戦と平常授業 中編 1
一方、3年Bクラス教室内にて。
破魔野斬人は廊下や外の様子を伺いながら、自身からは行動を起こすことなく身を潜めていた。
その中で斬人はZクラスのある方向でのトラップによる爆発音とはまた違う、強烈な衝撃で校舎の破壊される音や、学園の私有地の林の中で木がなぎ倒される様子などを見聞きし確認していた。
だがそれでも彼はその場を動く事は無かった。
もしそのどちらかが筵によって起こされたと確証が持てたならば助けに向かう事が出来たであろうし、斬人は間違いなくそうしただろう。
しかし彼の持っている情報では、筵が何処かのトイレにいるという事しか分からなかった。
「ああ、共に戦うことが出来る状況にありながら、貴方の元に馳せ参じる事が出来ない無能な私をお許しください」
机に両肘を付き頭を抱える斬人は小声で嘆く。
がしかし、すぐにハッとして我に返り周りを見渡し自分を撮影しているドローン型のカメラを見る。
「こ、こほん。・・・さあこれからどうしたものか」
明らかに違和感があったものの斬人は咳払いを1つ入れ気持ちをリセットすると、何時もの冷静な表情でメガネの中心部分を人差し指で押し上げる。
学友騎士団に所属していて総合的に優秀な存在である斬人だったが、学園での評価では刀牙やかぐや、あるいは引き抜きに選ばれていない海堂などの他のメンバーに比べても幾分か下な印象を持たれていた。
だが、それにはある理由があった。
斬人の能力であると思われている混沌物質は彼のハーベストとしての種族のデフォルトの能力、つまり人間が知力に優れ、鳥が空を飛び、狼が長時間走り続ける事が出来るというようなその種族ならば誰もが生まれつき持っている物であった。
そして、聖剣だと思われている黒甲冑は、彼がただ真の姿に戻っただけに過ぎない物であった。
つまり斬人はまだ能力も聖剣も使用してはいなかった。
しかし、それ故に懸念すべきこともあった。
それは能力者協会の人々の中で聖剣を覚醒させたと認識されているとはいえ、今見せている斬人の実力を考えると他の学友騎士団のメンバーの方が引き抜きには相応しいと言える事であった。
勿論、伸び代を期待されたという可能性はあるが、同時に斬人の正体に感ずき始めている人物がいるかもしれない事を頭に入れておく必要もあった。
「しかし、能力と聖剣無しで何処までやれるか・・・っ!?」
たたたたた。
自身の実力と先程顔を合わせた敵の事を冷静に分析していると、急に廊下から急ぎ足で歩く物音が聞こえる。
トラップだらけのはずの廊下をそんな様子で進んでいく何者かを警戒し、斬人は音を立てずに廊下から覗いた場合死角になる廊下側の壁に移動し様子を伺う。
すると、その足音は斬人の居る廊下の前で一瞬止まり、恐らく廊下から教室内をさらっと見渡すとそのまま行ってしまう。
「・・・」
そして斬人は無言のまま、数秒間待機しゆっくり教室内から歩き去った人の方を見る。
「・・・ちっ、イライラするわね」
そこには隣の教室を覗き、腹を立てている様子の女性の姿が確認できた。
それは覇亜零を見捨てる選択をして、Zクラスのある校舎から、こちらの新しい校舎に移動してきた恵美子であった。
「・・・廊下のトラップが発動していない。という事はトラップは彼女の能力によるものか?」
斬人はそのように推理し、同時に混沌物質で物質化された闇を使い2本ほど短剣を作り出す。
「勝てるかは分からないがこのトラップは何としても解除しなければならない・・・か」
決意を固めた斬人は教室から身体を乗り出し、手始めに恵美子に向かって短剣を投げる。
そして投げられた短剣そのまま恵美子に高速で接近し、彼女が気づかぬまま腰の辺りに突き刺さろうとしていた。
しかし。
刺さる寸前、短剣と恵美子の身体の間に小さい魔法陣のようなものが生じ、その部分から後方に向かって電気が走ると、その衝撃で2本の短剣は撃ち落とされてしまう。
「ちょ、そっち!?」
驚いた様子で振り返った恵美子は先程、魔法陣が出現した腰の辺りを手で抑える。
そして、攻撃を仕掛けてきた敵を探すのだが、斬人は既にトラップの仕掛けていないと予測される左右の壁を伝って恵美子の間近に迫っていて、その手には混沌物質によって生成された両刃の剣が握られていた。
「はははあぁぁ!!」
「くっ・・・」
斬人の放った斬撃を恵美子は自身の手の甲の辺りで受ける。すると再びそこから魔法陣が生じ斬撃から恵美子を守る。
「巨人の追い散らし」
「なっ!」
その後、魔法陣から巨大な腕が出現し、その腕によって空中にいる斬人は凪払われて後方に飛ばされてしまい、宙を舞って数m先で着地する。・・・だが。
その瞬間、斬人は激しい光に包まれ、その後、地面は爆音と爆炎を上げる。
「・・・まあ、流石に今のでは無理よね」
手の甲を抑えながら斬人の飛ばされた方向から目を離さずに笑う恵美子。
「はあ、はあ」
「やっぱりね」
恵美子は爆煙の中で膝を着きながらも、混沌物質のベールを足元に轢いて身を守っている斬人の姿を確認すると1度頷く。
「まあ、なかなか器用みたいだけど、そんなレア度の低い場違いな普遍能力では私達に傷一つすら付けることはできないわよ。そう特に私の持つ固有能力、危険色仕掛けの前ではね。・・・そうね、丁度さっきムカつく事があったし貴方で憂さ晴らしさせて貰うとしましょうかしら」




