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模擬戦と平常授業 11

 「いくぞ!おらぁ!!」


 半分空元気で叫んだ覇亜零(はあれ)は一瞬の間に筵との間合いを詰める。


 だがそのスピードも、動きを目で追うことも難しかった先程までと比べると格段に遅くなっていて、筵の目にも解毒薬の入ったポケットの逆側から迫る蹴りを目視で確認する事が可能であった。


 「痛ぁー」


 「痛みは感じないのだろう、がっ!」


 蹴りの来る方向に身体を向け、両腕でしっかりと蹴りを受け止める筵。


 そして、同時に手に持っていた毒のナイフを逆手に持ち替え蹴りを加えてきた足に向かって突き立てる。


 スカッ!


 だか筵の斬撃は覇亜零(はあれ)の特攻服をかすめるだけに終わり、気づくと覇亜零(はあれ)は数歩後退した場所で再び構えていた。


 「うおぉら!!」


 「くっ・・・」


 それから筵と覇亜零(はあれ)の攻防が何回か繰り返される。


 だがガスで動きが鈍いのに加え、解毒薬に気を使って戦う覇亜零(はあれ)と、弱っているとはいえ未だに中々のスピードを誇る敵に攻撃を当てることが出来ない筵とで戦いは硬直状態に入ってしまう。


 そして。


 「あああぁ!めんどくせぇ!!」


 遂に覇亜零(はあれ)の忍耐力に限界がくる。


 敵の見た目や今までの態度からして何時かはこの時が来ると感じていたが、それは筵の予想していたよりも遥かに早く、具体的には毒のナイフを使いだしてから僅か1分足らずでの事だった。



 「もう解毒薬なんてどうでもいい!!!」



 覇亜零(はあれ)は叫び声と共に体感で先程までの1.5倍程のスピードで筵に近づくと、蹴りの連打を放ち始める。


 それに対して大きなダメージを避けつつ、何とか受けていた筵であったが、顔への攻撃を腕で受け自身の腕が遮蔽物となり、敵の姿を遮った一瞬、筵は敵の姿を見失う。


 「くらぇやぁ!!」


 次の瞬間、そんな声が後方から響くと筵の後頭部に強い衝撃が走る。そして、筵はそのまま学園の校舎の壁に向けて吹き飛ばされる。


 「まじか」


 吹き飛ばされる最中で、解毒薬が割れてしまう事を恐れない覇亜零(はあれ)の行動に少々驚きながら、筵は試験管の入っているポケットに手を突っ込む。


 そして、そのすぐあとに筵は壁へと激突した。


 「これであとには引けね!だがそれでこそ勝負ってもんだろ!!」


 「・・・ああ、そういう事ね。はあ」


 筵は自身の手に握られている試験管を見下ろし、小声で呟きため息をもらす。


 そして同時に、この男には小細工がほとんど意味を成さない事を察する。


 覇亜零(はあれ)の言葉からして彼自身が、小悪党という言葉が妙にしっくり来る本田筵という人物の本質に気づき、筵が解毒薬を守る事を予見したなどとは考えられなかった。


 せいぜい自分を追い込むという目的で解毒薬を無視した猛攻を仕掛けたと言うのが関の山であろう。


 「どうしたものかね」


 ここで解毒薬が無事である事を敵に示しても、敵としてはそれは既に壊れたものである為、攻撃の手を緩めさせる人質としての意味を成すかは微妙であった。


 それどころか、こちらが率先して解毒薬を守る姿を相手に見せるのは、不利益でしかなかった。


 「本当にこういうタイプは難しいな・・・」


 取り敢えず薬を今自分の居る校舎の壁際に隠し、ゆっくりと立ち上がると、自身の怪我を回復させるため1度心臓を止めた。


 すると筵の身体が光を放ち始める。


 しかし本来ならばその光は一瞬で治まり、怪我を回復した筵が立っているはずであったが、今回は光を放ち続けそのまま光の球体の様な形へと姿を変える。


 「なんだそりゃあ?」


 「・・・」


 光の球はなんの音もなく空中をふわふわと漂っていたが数秒後、突然、俊敏に動き始め覇亜零(はあれ)の元へと向かっていく。


 そして覇亜零(はあれ)の間合いに入った所で急に光が膨張していき、その輪郭は覇亜零(はあれ)の身体へと何かを突き刺している人型に変わる。


 「うおぉ!そういう事か!!」


 「ちっ」


 人型の光が筵へと姿を変える一瞬前に、危機を察知した覇亜零(はあれ)は後方にバックステップし、突き立てられていた毒のナイフから間一髪逃れる。


 「そんなことも出来るのかよ!」


 「まあねっ!」


 と、間髪入れずに再び光の球の状態へと姿を変えた筵はさらに近づいて、実体化し斬りつける。


 しかし今回は、覇亜零(はあれ)の感により、その動きが読まれていて、実体化する瞬間に鳩尾に一発、鋭り蹴りを受けてしまう。


 だが、それにより後方へと蹴り飛ばされる瞬間、筵は再び自身の心臓を止めて、光の球体の状態でその場に浮遊し続け、すぐに実体化し素早い動きで反撃を入れる。


 「やれば出来るじゃねぇか!これだぜ俺の求めていたのは!!」


 さらなる筵の反撃もかわして見せた覇亜零(はあれ)は本当に楽しそうに笑う。


 「元気だね。でも分かってるかい?この技がある限り僕を蹴り飛ばして場外なんて中々できることじゃないよ」


 「確かにな!だが!!」


 そう言うと覇亜零(はあれ)は両腕を地面につき、クラウチングスタートの様な姿勢をとる。


 乱戦の中で筵と覇亜零(はあれ)の位置関係は学園の校舎と林が左右にある状態になっていたが、それでも学園の敷地外までは数百mはあった。


 「一瞬で場外まで蹴り飛ばせばいいんだろう!おお!!丁度身体も本調子になってきたぜ!!!」


 「もうかい?化け物じみてるね」


 獣のような姿勢で構える覇亜零(はあれ)は肉食動物のオーラが背後に見える勢いで気を高めていて、それより彼の周りには突風が吹き荒れていた。


 「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 だが尚も覇亜零(はあれ)の力は上昇を続ける。


 その迫力に筵は、先程覇亜零(はあれ)が言った"一瞬で場外まで蹴り飛す"という言葉があながち嘘ではない事を悟る。


 それ故に、そんなものを真っ向から対峙するギリはないと冷静に判断した筵は再び光の球体に姿を変え、校舎の中にでも隠れようかと思考を巡らす。


 

 だがしかし。



 「鬼塚の攻撃を避けるんじゃないわよ本田筵。ここがどこか分かるでしょう」



 そんな声が校舎の4階付近から響く。


 その声に筵と覇亜零(はあれ)が同時にそちらを向く。

 

 「大人しくしないとトラップが作動しちゃうかもしれないからね」


 先程までの筵たちの試合を観戦していた敵チームの能力者である美和子はさっきまで居た教室から少し移動した場所にいた。


 そこは筵にとって何よりも掛け替えの無い場所であり、筵に対する脅しとしては上出来過ぎる程であった。


 「・・・」


 美和子の言葉を受け筵は光の球体に姿を変えて難を逃れるという作戦を白紙に戻した。


 「美和子さん!手を出すなって言っただろ!!ちっ、おい本田筵!!!試合の後は民間の修復能力者が校舎を直すことになっている、だから気にするんじゃね!!!!それよりも今は本気で勝負だ!!!!!」


 「鬼塚、無駄よ。そいつはこれで何も出来ないわ。さっさとやっちゃなさい」


 そんな覇亜零(はあれ)と美和子の言葉は筵にしっかりと届いてはいた。だがしかし筵はそれを理解しようとすら思わなかった。


 それからポケットに忍ばせ温存していた、出来ることならまだ使いたくはない物をポケットの中で手に取る。



 そして呟いた。



 「あと10秒だけ(クロノスタシス)・・・」



 それにより一瞬だけポケットから光がもれる。

  

 そして次の瞬間。


 そこには足を斬られ毒による激痛から叫び声を上げ蹲る覇亜零(はあれ)の姿があった。

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