天使再臨で・・・ 5
譜緒流手は市民が避難して誰もいない街を、能力を用いて家や柵や壁などをすり抜けながら、文字通り真っ直ぐに学園へ向かった。
そして、学園についた譜緒流手は異様な光景を目撃していた。学園を挟むように2つのワープホールが発生していたのだ。
その2つのワープホールの付近には、両方の共に数百の天使型ハーベストが存在しているのが見えるだけで、その戦況まで伺うことは出来なかった。
「どちらが当たりなんだ?」
譜緒流手は呟き、2つの天使型ハーベストの集団を交互に見た。
「こっちだな」
譜緒流手は少し考えたが、やはり、近い方の集団に向かう事に決め、急ぎ足で向かって行った。
学園側は挟み撃ちでの攻撃を予測していなかったようで、譜緒流手が向かった方は手薄になっていた。
学友騎士団の何人かと海堂は善戦しているものの、その他の生徒は天使型ハーベストに防戦一方となっている。
天使型ハーベストの戦闘能力は学園で言うところの、AからCクラスほどの実力がある上に、誰もが羽を用いて空を飛ぶことが出来る、能力の性能は同じでも回避性能に大きな差があった。
そして、量産型の天使型ハーベストの中心には、10mほどの十字架にくくり付けられている天使のような形を模した機械なのか生態兵器なのかわからない者が陣取っているのが確認できた。
おそらくこの十字架型ハーベストが、この集団のボスなのだろう。
「アビリティ、グランドポーションを選択、発動します」
機械音のような声とともに、十字架型ハーベストの後方に魔法陣の様なものが発生し、その直後、緑色の閃光がその場を駆け巡り、ダメージを受けていた天使型ハーベストの傷はみるみるうちに回復していった。
「海堂先輩、敵ハーベストが・・・」
倒したと思っていたハーベストが復活して戦闘に戻っている様子を見た学友騎士団のメンバーが学園側のリーダーである海堂に不安そうな顔で報告をする。
「作戦変更だ。先にあの十字架型ハーベストを始末する」
海堂は戦闘に参加している学園側の全ての人に聞こえるように叫び、命令を下した。
そして学園側の生徒は一斉に十字架型ハーベストに攻撃を仕掛ける。
「ダメです。奴は自分の周囲に強力なシールドの様なものを張っているようで攻撃が通りません」
攻撃に参加した男の1人が状況を報告した。その男の言う通り、学園側の一斉攻撃を受けても、十字架型ハーベストは無傷の状態で浮かんでいた。
「アビリティ、エフェクトアッパーを選択、発動します」
十字架型ハーベストから再び機械音のような声が発声され、今度はオレンジ色の閃光が発生した。
その閃光を浴びた天使型ハーベストたちは、先ほどよりも強化された能力で学園の生徒の十字架型ハーベストへ攻撃を妨害する。
「お前達は離れていろ、俺がやる」
海堂は学園の生徒に避難を促した。
「いくぞ、ハーベスト」
海堂が力をためて、飛び上がり、十字架型ハーベストの前までたどり着いた。
すると、海堂の背後に魔人のような者が姿を表し、魔人は思いっきり振りかぶり十字架型ハーベストに殴りかかった。
しかし、その攻撃もシールドに阻まれてしまい、せめぎ合いが続いている。
「うおおおおお!!」
海堂がさらに力をこめると、魔人の両肩の当たりからもう一本づつ手が生えてくる。そして、魔人は手に光の様なものをためてそのまま殴りかかった。
ビキビキ
先程まで、何をしても傷一つつく事が無かった、十字架型ハーベストのシールドにヒビが入った音が響き渡る。
「くっ!!」
しかし、海堂の全力の攻撃も、シールドにヒビを入れるだけに終わってしまい破壊には至らなかった。
一回転して地面に着地する海堂、堅物で人に弱みを見せない彼だが、息を乱して肩で呼吸している。
「破損確認、シールドを再構築します」
十字架型ハーベストは機械音声とともにシールドの修復を始めた。
「そ、そんな、海堂先輩の、学園最強の攻撃力を持ってしても壊せないなんて、それに、もうあんなに修復されている」
学友騎士団の1人が絶望したような弱い声で言った。
海堂も何も言わず、ただ無言で威圧してくる十字架型ハーベストを見上げるしかなかった。
「オレがやるしかないか」
譜緒流手は人知れず、十字架型ハーベストの真後ろに回り込んでいた。
好都合なことに十字架型ハーベストの後ろ側には学園側の生徒もおらず、誰にもバレずに十字架型ハーベストを攻撃をするのにはピッタリだった。
譜緒流手の手元に黒く禍々しい闇のようなが集り、譜緒流手よりも大きい大剣の形に変わっていく。
「海堂先輩には悪いですけど、学園最強の攻撃力の称号はオレのものになっちゃうな」
譜緒流手は独り言を呟くと、見るからに重そうなその大剣を軽々と持ち上げた。
「この魔剣、仙刀 山双は、相手の攻撃を避けることが出来なくなる事をリスクとして強力な力を所持者にもたらす」
山双の周りに黒い粒子の様なものが集まり、ただでさえ大きな大剣の延長線上に剣の虚像の様なものが出来た。
「なんかこのポーズ、エクスカリバーって叫びたくなるな、・・・まあ、いいか、うーん名前どうしようかな?まあ何でもいいか、大山鳴動斬!!・・・てね」
譜緒流手は適当に考えた技名とともに山双を振り下ろした。
山双から発せられた黒い斬撃は、一瞬にして十字架型ハーベストのシールドを両断し、十字架型ハーベスト本体おも真っ二つにしてしまった。
そしてそれから、少し時間を開けてその周囲に突風を巻き起こした。
敵と味方がその突風に目を抑えている間に、譜緒流手はその場から姿を暗まし建物の影に隠れた。
「ふう、こんな物が近くの低い山の洞窟にあるなんて、誰かの陰謀としか思えないね」
譜緒流手は優しい目で山双を眺めながら呟いた。