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模擬戦と平常授業 8

 それから数分、廊下の端までたどり着いた筵は実体験により得た情報を頭の中で整理する。


 廊下に仕掛けられていたトラップは14個、筵が歩いてきた廊下はだいたい100mほどであったため、トラップは約7mほどの間隔で仕掛けられていた。


 そして同時に地面に仕掛けられていたこれらのトラップは中心からだいたい1mほどまでが作動する範囲である事も突き止めることが出来た。


 「運営が仕掛けたにしては多い気がする・・・ここまで仕掛けられるとそもそも勝負が成立しにくい。今の所は敵が仕掛けたと考えて動いた方がいいかな」


 そう小声で呟いた筵は1度辺りの様子を見て、敵が居ないことを確認すると今いる場所から一番近くの教室へと入り、軽く1周程度教室内を歩き、そこにはトラップが仕掛けていない事を確認すると、最初に目について椅子へと腰掛ける。


 ここは普段はあまり使われていない教室で、恐らくはもともと美術室や図工室であったと思われた。そしてここはある意味で筵に馴染みのある場所でもあった。


 「ここはZクラスの近くか・・・これはちょっとばかり合流は難しそうだね」


 筵は先程の斬人との会話を思い出し独り言を呟く。


 斬人が居ると言っていた3年Bクラスの教室などのある校舎とZクラスのあるこの半分旧校舎と化している建物は辛うじて通路で繋がっているものの、ほとんど別の建物と言っていい配置になっていた。



 "なぜ?あの様な危険を犯した?"



 すると突然、筵の所持する魔剣、大皿喰らいが先程トラップをわざと発動させた事に関して問う。


 それを受けて筵は1度自分を映すドローン型のカメラの位置を確認し、口元を撮られないように手で口を覆うと小声にて喋り始める。


 「確かに今回は制限時間があるから、あのままずっとトイレに隠れている方が利口だったかもしれないね」


 "では何故しなかった?"


 「・・・」


 ・・・そう今回は普段の対人戦とは違い、もし天理の力で自害を封じられ捕えられてしまったり、(つづり)の能力でこの学園内から強制退場させられてしまったらその瞬間、筵の敗退が決まってしまう。


 また時間制限がある試合であるため、戦闘は残りのチームメンバーに任せて、確実に生き残る事を考える事も勿論ありではあった。


 しかし、筵はそれを選択しなかった。

 

 「ははは、だってあれだろ?1時間ずっとトイレに籠っていたら、小学生みたいなあだ名を付けられてしまいかねないだろ?それは僕のプライドが許さないね」


 "・・・お前にプライドなどあるのか?"


 「それはあるよ。"プライド低く。しかし捨てるな"がモットーってやつだからね」


 "・・・"


 「・・・と、まあそれは冗談として。本当の所はきっと斎賀くんが何かしら仕掛けてきていると考えたからさ。日室くんも成長してきているとはいえ、まだそういう悪意には疎そうだからね。ここは僕の役目だと思ったんだよ」


 "ふっ、で、やっはり、あのトラップは敵の仕掛けだと思うか"


 「そりゃ、まあね。だから片っ端から踏んだんだよ。これで敵が誤作動を疑ってくれればっ!?・・・し、ちょっと静かに」


 話の途中で筵は突如として会話を止め、口元を隠していた手を耳の辺りに添える。


 すると微かにカツカツという足音が鳴っている事に気づく。


 そして、次の瞬間には僅かに床が(きし)む音が鳴り響き、筵は同時にそれが天井から聞こえて来ていると察する。 



 だが次の瞬間。



 「うおぉらららあぁあ!!」



 叫び声と共に突如、天井が崩壊し1人の特攻服を着た男が筵のいる場所から僅か2、3mほど離れた場所に降りて来て、そのまま教室の地面にかかと落としを加える。


 「くそおおお!外したかぁ!!だがな!!!」


 その男は崩壊する教室の中で筵を睨みつける。


 そして気づくと床が崩れバランスを崩している筵の目の前まで一瞬で移動し鳩尾(みぞおち)辺りに強烈な蹴りを入れ、そのまま2人は窓を突き破り校舎から飛び出す。


 「まだだぜ!」


 「っく!!」


 敵の男は続け様に空中で身体を捻り、無防備に空中に投げ出された筵の身体へかかと落としをきめ、3階ほどの高さから地面に叩きつける。


 「ふはははぁ!ちょっとやりすぎたか!!?」


 地面へと激突した筵が巻き上げた砂煙を少し遠くに着地した男が眺め笑う。 



 「油断しないで、そいつが本田筵よ。すぐに回復してくるわ」



 と先程、特攻服の男が壊した4階の教室の隣の教室の窓からOL風の女性が顔を覗かせる。


 「ここは2人でやりましょう。私も行くわ」


 「って、ちょっと、待ってくださいよ美和子さん。そいつは卑怯ってやつっすよ!!」


 「ちょっと何言ってんのあなた?」

  

 「これは男同士のタイマン勝負!たとえ仲間でも邪魔したら容赦しませんぜ!!」


 「・・・はあ、始まった。・・・分かったわ見学してる。ただ忠告を受けた事は忘れないで」


 美和子と呼ばれていた女は呆れたように額に手を当てため息をもらし、もう片方の手の肘を窓枠にのせ頬ずえをつくと、完全に見学の態勢をとる。


 「分かってますぜ!場外まで蹴り飛ばしてやりますよ!!」


 男は無駄に大きな声で叫び、砂煙の方向を再び見る。


 すると。


 パチパチパチ。


 と拍手の音が砂煙の中から響きわたり、案の定、1度死んで怪我を治した筵が飄々とした様子で姿を現す。


 「すげぇぜ!まさか本当に無傷とはな!!」


 「いやいや、全身の骨がバッキバキで、糸の切れたマリオネットみたいになってましたけどね」


 敵の男の騒々しさに半笑いで答える筵。


 「そりゃー悪かったな!ほんじゃあまあ手始めに!!」


 「!?」


 その威勢のいい敵の言葉に一瞬身構える・・・がよく見ると男は姿勢を正し腕を後に組み直していた。


 「コホン!俺の名は鬼塚覇亜零(はあれ)!!普段は走り屋を生業としているが今回、斎賀天理にスカウトされここに立っている!!!そして、この俺の能力、世界一蹴(スモールワールド)は他の追随を許さないスピード、脚力、瞬発力をこの足に与える力だぁ!!!!さあお前も名乗るがいい!!!!!」


 それは学園中に響き渡るほどの騒がしい名乗りであった。

 

 だが、それを見た筵はさほど驚いた様子なく、自身の能力を簡単にばらしてしまうその男の性格を冷静に分析し、男に乗っかり自身も自己紹介を始める。


 「・・・えー、本田筵です。能力は・・・超再生。でも正直蹴られたりしたら滅茶苦茶痛いし、こちらからは大した攻撃手段も無いです。だから正直今すぐにでも降参したいと思っているんですけど、そんな事をしたらうちのリーダーの日室くんに後で何をされるか分からないんです・・・だから出来れば手加減とかしてくれると嬉しいです」


 「な、なに!なんだそれは!!そんな奴と戦えというのか!!?」

 

 筵の嘘に覇亜零(はあれ)は易々と騙され動揺した様子で4階の美和子の方を向く。


 「はあ、嘘に決まってるでしょ。そいつはそういう奴って言われたでしょ?」


 「な!なに!!」


 嘘をつかれたと気づき、鋭い目付きで筵を睨みつけてくる覇亜零(はあれ)


 「ちっ、だめか」


 そして敵の様子からこの作戦には無理があると悟った筵はゆっくりとサバイバルナイフを取り出し、それを覇亜零(はあれ)に向けて構えた。

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