模擬戦と平常授業 6
試合開始場所である、コロッセオの様な形の戦闘訓練を行う施設に集まった筵達6人は既に中央にスタンバイしているレフェリーと、天理側の6人の向かいに立つと、お互いに睨みを効かせ合う。
この施設は筵たちのいる中心部分を見下ろすような形で観客席が設けられていて、そこには学園の生徒達のみならず、多くの大人や一般人と思われる者達の姿が確認出来た。
それと言うのも、今回のこの模擬戦は表向きはハーベスト教団との戦闘を想定したものとなっているため、本当の事情を知らぬ者達がデータを取るという目的や単純な興味から多く集まってしまったのであった。
「はあ」
筵はそんな周りの様子をざっと見渡すとため息をもらし、視線を再び天理たちの方へと向ける。
敵は天理を筆頭に、ゴスロリの衣装を身に纏った以前に筵を能力で閉じ込めようとした綴と呼ばれていた少女、それに身長が2m程もある修行僧のような大男、ヴィジュアル系バンドマン風の男、特攻服を着た暴走族のような見た目の男にキャリアウーマン風の女性で構成されていた。
「これはこれは、随分なメンバーが揃っていますわね」
「□□□?」
スチュワートの独り言に対して、有名な能力者などの情報に疎い刀牙がその詳細を尋ねる。
「天理さんは・・・まあ分かっていると思いますので省きますが、まずあのゴスロリの服に身を包んだ少女、彼女は日本能力者ランキング32位、葉原綴さんですわね。天理さんと同様にお若い頃から協会で働く、秀才であると聞き及んでいます。そして隣の修行僧の方は"不動の縁暦"の2つ名で知られる西園寺縁暦さんですね、でその横のバンドマンの様な見た目の方は大岡雷堂さん、本職の音楽活動の方は今一歩、芽が出ない様ですが強さは本物でどちらも100位までのランキングに載っているのを見たことがあります。・・・それであとの2人は・・・すみません、私は存じ上げていません。しかし天理さんの集めた方達です。どちらも優秀な能力なのは間違いないでしょう」
スチュワートは天理のチームメンバーを指して、彼らについて知り得る情報を述べていく。
「僕としては2つ名とか、プライベートな情報とかよりも出来れば能力とかを知りたかったのだけれど?」
スチュワートの情報に聞き耳を立てていた筵は思わず口が滑べらせてしまう。
「っ!?仕方が無いでしょう!ランキング上位の方の能力は基本的には非公開なんですから・・・そりゃ、まあ調べようとすれば学生時代の事とかもネット上にあるかも知れませんが、そこまではしていませんから・・・というかする気もありません」
「・・・まあこっちの情報は向こうに筒抜けだけどね」
筵はそう言うとポケットから携帯を取り出して、いそいそと相手の名前を検索する。
しかし。
「・・・ダメだねこれは」
敵の能力をネットで調べようとした筵であったが、検索して出てきた能力は1人の人間に対して無数に存在していた。
要するにランキング上位の人間の能力を隠す為に無数のガセネタを敢えてネットにばら撒いていたのだ。
それにより、たとえ本当の能力が何者かによって暴露されてしまったとしても、それは無数に存在するガセネタの1つと認識される、という仕組みであった。
もちろん、深く調べていけば能力を使っている映像なども出てくるかもしれないが、そんな時間は今の筵達には無かった。
「は?敵がどんな能力者とか関係ねーだろ?ただ立ち塞がって来たのを潰すだけ、違うかよ?」
「ははは、聖くん、見た目とは裏腹にとても熱血な事を言うんだね」
筵は諦めて携帯電話をしまうと、熱血とは少し違うニュアンス放たれた聖の言葉を茶化すように呟く。
そして、そのことに関して殺意の目を向けてくる聖を横目に、筵は続いて天理の方に目を向ける。
すると丁度天理も筵の方を向いていて、偶然にも目を合わせてしまう。
それにより、それまで協会側の代表として平然とした様子でいた天理は少しだけ顔を歪める。
そして数歩筵の方へと近づき、中央に集まった数名の人物にだけ聞こえるくらいの声で話し始める。
「本田筵。さっきの蝶の仮面の女はどういう事だ?ヒントでも出しているつもりか?」
「はて、なんの事ですか?」
比較的冷静な様子で尋ねる天理に対して、とぼけて半笑いを浮かべる筵。
しかし、もちろんそれは筵と蝶蝶が計画した作戦の一環であり、天理の言葉通り、それは孵の居場所のヒントを与える物であった。
「・・・まあいい"孵は今、孵の居たいと思っている所にいる"などと謎謎めいた事を言い、ゲームのつもりなのかは分からないが、必ず尻尾を掴んでやるからな」
「謎謎めいたね〜、まあいいか。・・・うん、なんの事かはさっぱり分からないけど頑張ってね」
蝶蝶によって天理にもたらされたヒントは本当は謎謎等ではなく、言葉通りの意味なのだが、そこまで教えては意味が無いと思い至り再びとぼけて見せる。
「では、そろそろ両チーム整列してください」
とここでレフェリーが両チームに声をかけ、列を乱していた筵と天理をしっかりと整列させる。
「それではこれより能力者協会チームと学園チームでの6対6のチーム戦を行います。制限時間は1時間。降参するか戦闘不能になる、あるいは学園の敷地内から出てしまった者は失格となり、最終的にチームメンバーがより多く残っていたチームの勝利となります。また参加者は最初にこちらが無作為に指定した学園内のどこかへとテレポートされ、テレポートが完了したその瞬間からバトルスタートとなります。それでは両チーム用意はよろしいですか?」
レフェリーの問いかけに、何人かは首を小さく頷かせ、他の者も動きはしないもののスタートの合図に備える。
「それではバトルスタート!!」
レフェリーは会場にこだまする程の大声で叫び、それと同時に、中央に集まっていた12人は姿を消した。
そして同時に、会場の数台の大きなモニターに次々と学園内の何処かにテレポートされた選手の姿が映し出された。




