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模擬戦と平常授業 4

 「貴女も薄々は気付いているとは思うけど、貴女やワタシ達は普通の能力者とは違う。・・・そしてワタシ達はそれを"呪い"と、そう呼んでいるのね」


 続いて蝶蝶が孵を助けに来た理由について語り始める。


 「"呪い"は寄生虫のように対象者に取り付き、最優先として対象者を守るように働く。そして呪いは他の人の、所謂一般的な能力とは違い枯渇が無い。つまりほぼ無限に使い続ける事が出来る。・・・それはワタシの出来事を夢に変えてしまう呪い胡蝶よ華よエレクトリカルバタフライも貴女の前衛的前衛の背後霊アンチェインドゴーストも普通の人から見たら規格外の力ってことなの」


 蝶蝶は語りながら段々と孵に近づいていき、同時に自身の歩行による地面への衝撃と地面からの足に掛かる反発を光の蝶に変えていく。


 そして孵の肩に軽く手を乗せ、再び柔らかい言葉使いで続きを口にする。


 「でもそんな力には当然の様にリスクが伴う。それは人によってそれぞれ違うモノではあるけれど、でもそのリスクは確かに存在しワタシたちを蝕んでいるの。貴女の目がそれなのかはまだ分からない、けれど、ワタシは貴女がワタシ達と同じ呪いの被害者であると確信した。そしてそんな同胞が非人道的実験に利用されていると知り救い出そうと決めたの・・・どう?ワタシ達と一緒にここを出ない?」


 そう言って蝶蝶は首を傾げ、肩に置いている方の手とは逆の手で孵の手を握る。


 そして、蝶蝶の提案を受けた孵は少しの間考え、それから数秒も経たないうちに口を開く。



 「んー、いいや止めとく」



 孵の素早い返答で、その場に一瞬だけ無音の時が流れる。


 「っ!?いや、でもね・・・」


 「待って、ちょっと僕に代わってくれるかな?」


 「・・・分かった」


 少しだけ熱くなって次なる勧誘の言葉を口にしようとする蝶蝶の肩を掴み、一旦静止させた筵。


 そして蝶蝶も私情を持ち込もうとしてしまった事を反省し、その場を一旦筵に託し一歩後ろへ下がる。


 「孵ちゃん、良ければ理由を聞かせてもらっていいかな?・・・いやね、僕達としては出来る限りでは孵ちゃんの意思を尊重したいのだけど、それだけでは"上"は納得しないんだよ。保護しない事にもしっかりとした理由が必要ってやつなんだ」


 筵は嘘と本当を織り交ぜつつそう言い、孵の顔を真っ直ぐに見つめた。


 しかし筵にとって孵がここから一緒に脱出しようという提案を拒否することは全く予想出来ないもの、という訳ではなかった。


 と言うよりも、殺風景だが整理されたこの部屋と不自由していなさそうな彼女の様子を観察すれば彼女の返答は推理する事が可能であった、と言う方が正しかった。


 「ほら断片的な情報だけで言えば、ここの人達は君のいる部屋に毒ガスを散布したり、放射能汚染された地域に君を送り込んだりと普通の神経では到底理解し難い行いばかりしているだろ?それについて、こちらの中には君がマインドコントロールでもされているのでは無いかと不安視する声も多くてね。だからどうか君の素直な言葉で僕達を安心させて欲しいんだよ。どう、いいかな?」


 「え?別に。苦痛な事も無いし。···それにお兄ちゃんの仕事の手助けもしないといけないから、ほら私達この"世界"を変えないといけないからさ」


 筵の質問に対し孵は少し疑問に思いながらも、ほぼノータイムで返事を返し、さぞ当たり前のことを言っている様に無邪気に笑って見せる。


 そして、その様子を観察しても彼女が嘘をついている様子は感じず、マインドコントロールや脅しを受けている痕跡も伺う事は出来なかった。


 「なるほどね〜」


 筵は当初、孵は自分に対してどのような実験が行われているのかを知らされていないのでは、と考えていた。


 しかし、先程の筵の問で何気なく実験内容について口にしても孵には驚いた様子はなかった。


 もちろんそれは彼女が己の"呪い"の万能性に慢心しているが故の余裕なのかもしれなかった。しかしそれでも彼女は自ら兄の手助けをしなくてはいけないと語った。


 そして、おそらくそれが彼女の本心である事は間違いが無かった。


 「と言っているけど、どうするの筵?ここの奴らに任せるべき?」


 「んー、そうだねー」


 孵に内容がバレない程度の小声で蝶蝶が筵に問い、筵は少し煮え切らない様子でそれに答える。


 この会話で孵の本心はだいたい理解出来た。そして、それだけで考えれば彼女をここに置いておくという選択は十分に有りではあった。


 しかし、そうなると筵達には、もう1人真意を確かめなくてはならない人物が出来てくる。


 「どうかした?急に二人で話して?」


 「いや、なんでもないよ。・・・うん、君の事はよく分かった。そしてそれだけならば君をここに置いていてもいいかもしれないと、そう思ったよ。ただ・・・」


 「ただ?」


 「君の兄である斎賀天理くん、いや宮前才牙(さいが)くんの意思も知りたいんだ。彼が君を本当はどんな風に思っているのか、それを知らない限りはやはり不安で、ここに君を置いておくことは了承できない」


 「・・・お兄ちゃんが私をどう思っているか?」


 「そう、その通り。もちろん僕も君のお兄ちゃんがこの国をハーベストから守るために頑張っている事は知っているし、彼に限って、とは思うよ。だけど君は僕達にとって数少ない同胞なんだ。だから彼が君を任せるに値する人物であるかは、彼の実績やデータからではなく、この目で確かめたいんだ。どうか協力してくれないかな?」


 「・・・確かにお兄ちゃんが私をどう思っているかは、少し気になるけど、でもどうやって?」


 孵が自身の話に興味を示し、乗ってきた事に対して、筵は小さく笑う。


 それは名探偵が真実を掴んだ時のような微笑であり、同時に小悪党が相手を陥れた時のそれのようでもあった。


 そして、その微笑を即座にいつもの半笑いへと変えた筵は飄々とした様子と口調で喋り始める。


 「僕にいい提案があるんだ。ちょっと話を聞いてみないかい?」

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