模擬戦と平常授業 3
そうして気がつくと筵と蝶蝶は暖色系の暖かい色合いの光が微かにともされた白い部屋に立っていた。
その部屋にはベットと壁に埋め込まれたテレビ、小さな棚と1本の観葉植物が存在しているのみであり、まるで人形の部屋のセットのように整頓されていて、生活感はあまり感じることが出来なかった。
「誰?」
筵たちが辺りを観察していると、幼い少女の、まるでサンタにでも話しかけているような純粋そうな声がする。
「・・・んー、君にとっての泥棒以上でサンタ未満の男と言っておこうかな?」
筵は少し間を開けた後、そのように答えると、ベットに座りながらこちらを見て首を傾げる少女と目を合わせて微笑みを返す。
しかし、正確には"目を合わせて"というのは少し違い、筵の目に映る小学校高学年ほどの見た目の少女の目は閉じられていた。
そして、その事からもその少女が、盲目であるという前情報のある宮前孵本人であると推測できた。
「という事は泥棒かも知れないってこと?」
「あ、この子頭いい」
孵の鋭い指摘に対して、蝶蝶が関心した様子で呟く。
そして確信をつかれた当の本人である筵は再び笑顔を浮かべる。
「それには否定も肯定もできないかな。なぜならそれは君の今後の選択によるものだからね」
「ふーん、そうなんだー」
筵は少し含みのある言い回しで言ったのだが、孵は筵の言葉に怯える様子は全くなかった。
それには彼女の持つ能力、蝶蝶風に言えば"呪い"が深く関係していた。
孵の呪い、前衛的前衛の背後霊は孵に対して危害を加えるモノ、あるいは危害を加えようとするモノから孵を、孵の意思とは関係無しに守るという能力であった。
よって今、筵と蝶蝶が前衛的前衛の背後霊に攻撃されていないという事は筵達には孵を傷つける意思が無いという事を暗に表していて、また孵自身も経験的にそれを理解し、筵達と接していた。
それが見ず知らずの人間が突然目の前に現れても平然とした様子でいる事が出来る理由であった。
「で、そっちらのお姉ちゃんはだーれ?」
孵は続いて蝶蝶にたずねる。それに対して蝶蝶は少しだけ考えた後、腰に手を当て胸を張る。
「ん?そだね〜、・・・"貴女の悲痛な叫びがワタシをここへと呼び寄せるバタフライエフェクト!!"みたいな感じでやってきた、貴女の同類であり仲間・・・かな。ああ、因みにこっちの人もね」
「ふーん、そうなんだ。よく分かんないけど」
蝶蝶の訳の分からぬ自己紹介を受けて、孵は再び無邪気に笑った。
「・・・さあ、という訳でそろそろ本題に入りたいんだけど・・・でもちょっとごめんね。ここは少しばかり薄暗いから灯をつけていいかな?」
「ああ、そうなんだ。うん、別にいいよ」
「ありがとね」
筵はそう言うと手に持ったままであった万年筆型の魔剣サンスティロにコップいっぱい程の血を吸わせる。
そしてそれらをペン先から分泌させると、それらは筵の手元で小さめの魔法陣を生じる。
「あの日あの時の春日」
すると魔法陣は段々と拡張されながら天井の方へと登っていき、春の日差しのように柔らかな光と共に、程よい暖かさを放ち始める。
「おお、明るい」
「そうなんですか?ああ、でも暖かくなって来たかも」
サンスティロによって変化した状況を感じ、蝶蝶と孵は関心したような声をもらす。
「じゃあ早速だけれど本題に移ろうか」
その後、光に満ちたシンプルなデザインの部屋を1度見渡した筵は、続けてパジャマ姿の孵へと目を向ける。
先程までは薄暗く、声の抑揚を通してしか孵の表情を伺えなかったが、明かりで満たされた今はハッキリと孵のリラックス仕切った表情を確認する事が出来た。
そして、筵は咳払いを1つ入れた後、自分達がここに来た本題を告げ始める。
「僕達は君がここに監禁され実験台にされているという情報を得て、君を助けに来たんだ。・・・どうだい?一緒にここを抜け出さないかい?」




