模擬戦と平常授業 2
"どうしてもっと徹底的にやらない?"
筵が会場へと向かう最中、そのような言葉が筵の脳内に直接響く。
「僕らしく無い、とでも言いたいのかい?」
筵は脳内に響く魔剣、大皿喰らいの声に周りから怪しまれない程度の声で返事を返し、同時に何食わぬ顔で歩き続ける。
"いやお前らしくはあるとは思うが・・・"
筵の問に大皿喰らいは歯切れ悪そうにそう答える。
そして、大皿喰らいの反応を受けた筵は1度小さくほくそ笑むと淡々と答えを述べ始める。
「うん、まあそうだね、君の言いたいことは分かるよ。やろうと思えば、こんな戦いになる前にどうにかする事は可能だったろうね」
"・・・では何故しない?余裕の現れというやつか?"
「うん、4割くらいはそれかもね。・・・ただ残りは少しだけ違うかな」
"どういうことだ?"
大皿喰らいの問を受け、筵は少し黙り、同時に今回は仲間として戦いに参加する事になっているあの男の事を考える。
「まあ良い言い方をするなら"実験"、悪い言い方ならば"期待"って感じだね。彼は何時も僕とは違うやり方で僕の出せる結果以上のものを出してきているからさ、リスクの少ない今回みたいなタイミングで実験をしようとしているんだよ」
"彼?・・・ああ、なるほどな"
「そうそう。・・・ああ、でも僕の名誉の為に言わせてもらうと、期待というよりは彼の邪魔をしたくはないという感情が強いかな」
"・・・ふっ、まあなんというかあれだな。本当にお前は、いいご身分だな"
「ははは、確かに、いつかしっぺ返しを食らわないように気をつけなければいけないね」
最後に筵がそう言って笑うと、ここで一旦、2人の会話は途切れる。そして筵は静かに、それでいて飄々とした立ち居振る舞いでゆっくりと会場の入口を潜っていった。
前日深夜、倉庫にて。
「さあ、では作戦を始めようか?」
「おーー!」
「・・・はあ、これ本当にやる意味はあるのですかぁ?大体その娘は斎賀天理の妹で、尚且つ、国家レベルの機密でもあるのですよ。下手に手を出して、足がつく様な事になったら貴方も困るのではないですか?」
筵の問に対して、そこに集まった筵を除く2人の人物の内の1人で作戦の発案者でもあった蝶蝶は何時ものダウナーな口調ながらやる気のある返事を返し、もう1人であったフランはそれとは対象的に作戦を実行するリスクについて再び問い直す。
「心配してくれるのは有難いけれど、これも約束だからね。それに僕は引き際を弁えるのは結構得意なんだよ?」
「・・・・・・はあ」
筵はいつも通りの半笑いでフランに向かって首を傾げ、それを見つめていたフランは何かを諦め、ため息をつく。
「まあこれ以上は何を言っても無駄でしょうから、もう何も言いませんよ。それによく考えたら、貴方を私と同じ前科持ちにするチャンスですからね、自ら棒に振るのも馬鹿らしいです」
「ははは、もしそうなったら同じ牢屋に入れるといいね?」
「はいはい、そうですねぇ」
筵の言葉を軽く流したフランはそのままダルそうにパソコンの置かれた机の前のソファーへと腰掛ける。
そして、キーボードをカタカタと中々の速度で叩き始め、しばらくした所でその画面を筵と蝶蝶の方へと向ける。
すると、そこにはある施設の内部に仕掛けられている無数の監視カメラの映像が映されていた。
「宇宙主義のおかげで侵入が簡単になりましたのでこの通りですよ。今からこの映像を偽物と差し替えますので、その間にさっさと攫ってきてくださいよ」
フランはそう言うと人差し指を垂直にEnterキーへと突き立ててそのまま押し込む。すると、監視カメラの映像がほんの一瞬だけ真っ暗になり、再び何事も無かったかのように映像を映し出した。
「ありがとうね」
筵は、自分の役目が終えソファーに転がるフランに礼を言い、続けて、自身の手元に万年筆型の魔剣サンスティロを呼び出すと、そのまま血を吸わせていく。
そして、1、2回ほどの死を経て、サンスティロの腹部が50cmほどまで膨れ上がっていくと、それと同時にペン先から血液を分泌し、それらは徐々に魔法陣を形成していく。
「さあ、では行こうか?」
「そだね」
筵は蝶蝶とアイコンタクトを交わすと、血で描かれた魔法陣から地図のようなものが空中に投影される。
そして筵は、その地図を細かく動かして行き、ある1点にサンスティロのペン先を押し付ける。
「抜け道捜し」
そう呟いた筵はサンスティロのペン先から残りの血液を分泌させる。
すると、その1点が突如として光を放ち出し、それから筵とその隣にいた蝶蝶は、筵の刺した1点へと吸い込まれていくようにして、綺麗さっぱり消えて行ってしまった。




