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裏工作と平常授業 5

 「えっ、腹上死、知らないかい?ほら、アレの途中に死んじゃうやつだよ」


 唖然としてしまっている天理と(つづり)をよそに、筵は両手を軽くあげて首を傾げる。


 「そ、そんな下らないもの・・・」


 しばらく沈黙が続いた後、天理はようやく筵の言葉に対して反論をする。


 「そう、そこだよ。当の本人は真剣だっただろうに、見知らぬ人から見下され、最悪の場合、身内からも一族の恥のような扱いをされてしまいそうな所が、実に可哀想で、そして、無様な死に様だと僕は思うよ?・・・ただ勿論、異論は認めるけどね。だからほら、言ってごらんよ。君の思う答えって奴をさ?」


 「・・・」


 綴の召喚したモンスターの一体をサンスティロで完全に縛り付けた状態のままで全員が硬直している中、言葉での争いは続いていく。


 「・・・まあ君の性格とか、1人は全体の幸福のために努めるべきと言うようなその考え方なども含めて想像するに、君の思う無様な死に様とは、恐らくは、"(なに)の役にもたつ事のなかった無意味な死"とかではないかな?」


 筵はあらかじめ下調べをして知り得ている情報を、さも、今思いついた事のように推理しているフリをしながら語っていく。


 そして、筵のその推理を聞いた天理は流石に動揺を隠しきれないようで、唖然としてしまう。


 「・・・お前は、どこまで調べている」


 「ん?そりゃあ、まあ、出来うる限りでね。・・・僕はとても心配症なんだよ?だから、こう言うのは結構準備してから臨む方なんだ。意外だったかい?」


 「・・・」


 「・・・という訳で僕は、君の父親に何があったのかも、君がその父親からどういう風に教育されたかも知っている。それに準魔王型の事件の事も、もちろん知っているよ。そう、場合によっては君よりもね?・・・だからこそ、身内の名誉のために、これは言わせてもらうけれど、全滅してしまった戦闘員の命は、母さんが重い腰を上げるまでに費やされたものではなく、君の今所属している能力者協会の、強情でのんびり屋な君の上司が、母さんに頭を下げるまでに費やされたものである事を忘れるんじゃねぇぞ?」


 筵は言葉自体は少し荒れながらも、口調や喋り方はいつも通りの飄々とした感じで、これまたいつも通りに笑って見せる。


 しかし、それは十分に天理たちへの威嚇になったようで、彼らは無意識に一歩だけ後退りをする。


 「あと極論を言ってしまえば、色々な事情から母さんにあまり頼りたくないと考えている能力者協会に頭を下げさせたんだから、準魔王型ハーベストにまったく歯が立たなかったとはいえ、君のお父さん達の死は無意味なんかでは無かったんじゃないかい?・・・それに、そこでの不条理や悔しさなんかをバネにして、君は今の地位まで伸し上がって来たんだろ?だったら、君が今、そこでそうしている事が彼らの死が無駄では無かったという証明だろう?まあ、だからと言って君の好きにさせて上げるわけでは無いんだけどさー。そうやって彼らの思いは脈々と今へと受け継がれていると考えると、とても感動してしまうよね?」


 そう言うと、筵は再びサンスティロに血を与えていく。


 そしてサンスティロがバスケットボール程の大きさまで膨れ上がると、筵は1度心臓を止めて再び能力で復活する。


 「き、貴様っ・・・」

  

 対する天理も怒りに震えながら聖剣を呼び出して、直ぐに斬りかかりたい気持ちを抑えながら、何をしてくるか分からない筵に対して一定の距離を保ちつつ、お互いに隙を伺い合う。


 「はあ・・・」


 だが、その硬直状態は筵のため息とともに終わりを迎える。


 筵はサンスティロから血を分泌させ、先程とは違う形の、魔法陣を一瞬で生成する。


 すると、その魔法陣の中から光の矢のようなものの先端が姿を現す。


 「運命還(さだめかえ)・・・」


 「っ!?」

 

 そして、筵が言葉を呟き、天理が放たれるであろう光の矢に備えて、聖剣を構えたその瞬間。


 

 ♪♪♪


 

 聞き慣れたハーベスト襲撃時の警報が鳴り響く。


 そして、少しの時間2人がその警報に気を取られている間に、気づくと、誰もいなかった廊下には忙しなく人の行き交う足音が響き始める。


 「なるほど、これはラッキーだね」


 「貴様、逃げるつもりか?」


 「ん?そうだけど?・・・まさか、君もこの状況で続きをする程、元気な性格はしていないだろ?」


 筵は半笑いを浮かべながら振り向き、ドアの前の"溺愛の腕"で縛られているモンスターの横を通り過ぎ、ドアを開ける。


 「まあ、今回はお互いに痛み分けということにしようよ?」


 最後に筵はそう言うと、サンスティロを収納して、代わりにスマートフォンを手に持って強調する。


 そして、騒がしく人の行き交う、廊下へに消えていった。





 ♪♪♪


 生徒会室を出て数秒後、筵のスマートフォンに電話が入いり、着信音が鳴り響く。


 「もしもし?」


 「筵ですか?一応、メールの通りにしましたけど、これで良かったんですか?」


 「ああ、とても助かったよ。ありがとうポリたん」


 「まあいいですけど、なんですかこの"助けて、ポリえもーん。現在、今までに無いくらいに、色々な意味でピンチだよー(泣)。協会のネットワークに忍び込んで、ハーベスト警報を誤報させてーorz"って?舐めてるんですか?それともイタズラですか?」


 「いやいや、違うよ。本当に今までに無いくらいに危なかったんだよ。そりゃあもう、死なない僕が生命の危機を感じる位にね」


 「まあ、どうでもいいですけどね。でも、もしこれで我々たちに待機命令とかが出たりしたら恨みますからね」


 「ははは、もしそうなったら、一緒に帰るために待ってるからさ。許してよ」

  

 それから、筵と宇宙主義(コスモポリタン)は共に笑い合い、取止めのない会話を数分間程続けた。

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