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裏工作と平常授業 4

 「呪い・・・だと?」


 「ああ、あくまで僕の友人が言っているだけなんだけどね・・・まあ、それはどうでもいい事として、善良なる一般生徒である僕を殺そうとした、というか殺した落とし前はどうつけるつもりなんだい?」


 「・・・くっ」


 何気なく、ポケットからスマートフォンを取り出し、無言の圧力を掛けつつ尋ねる筵に対して、天理は動揺を抑えながら対峙する。


 「・・・神は人に乗り越えられる試練しか与えない、とは言うけど、きっと乗り越えられなかった人は、もうこの世界には居なくて、その不条理について発言する権利を持てないんだよね。だから死んでも蘇ることが出来る僕としては、そんな神々の不正について異を唱えていきたい所存なわけだよ」


 余裕のある表情で皮肉を込めて、そう発言した筵は手に持ったスマートフォンを弄ぶ。


 「天理、こいつは危険だ。一生私のダンジョンに閉じ込めよう」


 「・・・」


 「なるほど。それは悪くない判断だね」


 「ちっ、来て、第40階層ボス、フォル・ヴァンテ。45階層ボス、エル・マクタール」


 綴は再び手を前にかざし、自身の背後と筵の背後に魔法陣を生み出す。


 そして、自身の背後には教室の天井ほどの身長を持つ、全身に炎を纏い、大剣をもった魔人を、筵の背後には同じような姿形(すがたかたち)を持ち、炎が冷気に変わった様な姿の魔人を召喚する。


 そして、その魔人たちは手に持った大剣を筵へと向ける。


 「・・・困るね」


 その状況に筵はため息をもらし、ちらと背後の魔人を確認する。そして、その他の情報を整理する。


 今の時間は大体どのクラスも6時限目を行っている。恐らくはこの部屋の外の廊下には生徒の姿は無いだろう。それに多くの生徒に目撃されたならともかく、2、3人なら筵と一緒に排除されてしまうかもしれなかった。


 さらに、もしもまた自殺や痛覚遮断を封じられてしまったら、かなり逃げにくくなってしまうのは事実であった。それに綴の能力は恐らくはダンジョンという所に相手を引き摺り混んでからが本番であると推測できる。


 結果的にそれらの考察から筵は、いくら死なないと言っても自身の魔剣などが通用するか不明な異空間に飛ばされてしまうのは大いに危険であると判断した。


 そして。


 「来い、サン・スティロ」


 筵がそう呟くと、手の周りに黒い煙の様なものが出現する。


 すると、その煙は徐々に30cmほどの大きさの虫の様な形へと姿を変えていき、完全に姿を表すと、顔の部分から伸びた針を手首に突き刺し、万年筆の様な形の尻尾の部分を本物のペンを持つように指で摘む。


 「そ、それは魔剣か?」


 「そうなるね。どうこれ?ちょっと不気味かい?」


 と、筵は天理の問に答えつつ、サンスティロを色々な角度に変えながら、天理たちに見せつけるように動かす。


 「・・・っ!まずい綴、奴に攻撃を!!」


 「ちょっと遅いね」


 この筵の無駄な行動が、サンスティロに血を与える時間稼ぎである事に気づいた天理は綴に攻撃の指示を出すが、少しだけ遅かった。


 サンスティロのお腹の部分は、ダニが人の血を吸った時のように、誰が見てもハッキリ分かるほどに肥大化していて、冷気を纏った魔人の斬撃を受けるよりも先に、サンスティロのペン先を魔人へと向ける。


 「"溺愛の腕"」


 筵がそう呟くと、サンスティロのペン先から血を分泌され、一瞬で真っ赤な魔法陣を生じる。


 さらにその魔法陣の中から大量の腕が現れて、冷気を纏った魔人の体に絡みつき、瞬く間に拘束してしまう。


 「そんなのを隠し持っていたのか・・・」


 「まあ、あまり見せびらかしたくは無かったけどね」


 天理の質問に答えた筵はサンスティロで消費した血を補充する為に能力により1度、心臓を止めて再生する。


 「なるほど、相性は最高というわけか・・・」


 天理は筵の能力とサンスティロの特性を考察し、そのように小声で呟く。そして。


 

 「ふざけるな!!」



 今までは、不測の事態にも比較的冷静に対応していた天理が今回ばかりは、声を荒らげ、敵意丸出しの様子で筵を睨みつける。


 「その能力、そしてその魔剣の力を何故世界の為に使おうとしない?お前がそれを使って戦っていれば、今まで一体何人の命が失われずに済んだと思う?お前も、(あの女)もお前ら家族は揃いも揃って皆、怠惰だ。□□□だってあの女がもっと早く戦っていれば死なずに・・・くっ・・・お前にこの世界でもっとも無様な死に様とは何か分かるか?」


 天理は尚も、怒りを顕にしながら筵に問いかける。


 しかし、天理のプロフィールを覗いていた筵には、何故、天理が栖に対して敵意を示しているのか、そして同時に天理が言っているエピソードが10年ほど前の準魔王ハーベストの出現時の事だと推測することが出来た。


 通常、栖は魔王型ハーベスト出現時以外はハーベストとの戦闘を行わないと国と契約を交わしている。


 しかし、10年ほど前のこの事件で準魔王型ハーベストと戦っていた協会の戦闘員が全滅してしまい、増援も難しい状況に陥った事で、栖はこのハーベストの抹殺を協会側に懇願されてしまった。


 そして今回だけという約束で、仕方なくそれを承諾した栖によって準魔王型ハーベストはいとも容易く駆逐されていき、敵が全滅したのは、承諾から約数十秒後の事だったという。

 

 これらの話から推理すれば、天理の考える、最も無様な死に様についての答えも容易に検討がついた。


 


 「・・・んー、何だろう。とても難しい問だね。人それぞれとしか言いようが無い。だけど、そうだな〜、あえて言うなら、"腹上死"とかかな?」

 

 


 しかし、答えが分かる事とその言葉を実際に口にするかは全く別の話であった。

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