裏工作と平常授業 3
「改革は何かの犠牲なしには成立しない。お前にも分かるだろう」
「ああ、それはまあ、理解は出来るよ。それに今回みたいに学園のトップの能力者を引き抜けば、嫌でも全体的に能力者の力の底上げが出来て、尚且つ、弱いものを亡き者にする事ができる。能力者に対する補助金やら何やらがそれなりに高いことを考えると一石二鳥のいい試みだと言えるね」
「・・・」
「だから、僕はこの学園以外の所でその実験をする事までやめろとは言っていないし、なにも刀牙君と1体1で戦って無様に敗北しろとも言っていないんだよ?・・・そうだな〜、例えば最初に"全員でかかってこい"とか言っておいて、接戦の末にギリギリで負ける、その後"それでも負けは負けだ"と生徒側には潔く引く姿を見せておい、裏では上司とかに"この学園の者達は言うことを聞かないから他の場所で導入させてくれ"と掛け合ったりしてみる。・・・なんて筋書きはどうかな?」
「・・・お前は・・・」
天理は苦虫を噛み潰したその苦味を必死に押し殺した様な表情で筵を睨らみ、その後小さく深呼吸をして調子を整える。
そして何かを決断し突っかかりが取れた時の様な表情で小さく笑う。
対する筵は、その僅かな変化には気づいていたものの、あまり気にする様子は無く言葉を続ける。
「まあ、つまり僕が何を言いたいかと言うと、もう僕の出せる譲歩は出し切っているという事さ。・・・すぐに返事は出さなくていいから、数日考えてみてくれよ」
筵はそう言うと振り返り、天理に向かって手を軽く挙げながら、出口へ向けて歩き出す。
そしてゆっくりと1歩、そして、2歩目を出したその瞬間、後方から筵の腰の辺りへと衝撃が伝わる。
ザクッ!!
衝撃と同時にそんな鈍い音が教室内に響き、それにより筵は自分の腹部の辺りを見下ろす。
「全く、強行手段に出たものだね・・・」
「・・・」
そこには、恐らくは腰の辺りから貫通しているであろうと予測される西洋の剣の刀身が存在していた。
「僕は、死んでも直ぐに蘇ることが出来るんだよ?こんな事をしても・・・っ!!」
先程まで、普通に喋っていたはずの筵が突然、膝から崩れ落ち、呼吸を荒くしながら、少しだけ苦しそうな表情で倒れ込む。
「それは問題では無い。・・・だが、これをしてしまった事でのあの女の出方がいささか心配だな・・・」
比較的冷静な様子でそう言うと天理は筵の背中に刺さった剣を引き抜き、恐らくは聖剣であると推測できるその剣を光に変えて空中に溶かしていく。
そして、まだ息がある筵を見下ろした。
「俺の能力でお前の能力を弄らせて貰った。これでお前は死ぬ事が出来るだろう。・・・すまないとは思うがお前には、より良い世界の為の礎となってもらう」
「そ、それはそれは、どれほどいいものにしてくれるのか、み、見れないのが残念ですね」
筵は苦しそうにそう言い残すとそのまま意識を失ってしまった。
「天理、終わった?」
先程、筵が退出しようとしたドアがゆっくりと開き、ゴスロリに身を包んだ少女が現れると天理に声を掛ける。
「ああ、わざわざ呼び出してすまない綴」
「ホントだよ。それにこれって、また私のダンジョンを死体処理施設に使うつもり?」
綴と呼ばれていた少女は呆れた様に倒れている筵を見ながら呟き、それから、その横を通り抜け天理の隣まで来る。
「で、この人死んでるの?」
「恐らくはな。まあ例え、生きていたとしてもそれは誤差の様なものだ。その内に死ぬ」
天理の言葉を聞き、綴はその場にしゃがみこみ筵の様子をよく観察する。
「ふーん。・・・って、この人、アレの息子でしょ?大丈夫なの?」
「いや危険だ。だから君を呼んでいる」
「はあ、まったく。・・・分かったよ。欠片たりと証拠は残さないから」
諦めた様に肩を落とした綴は立ち上がり、両手を前に突き出し構える。すると、倒れている筵の周りが黒い沼のように変化する。
「実質的無限回廊!来て。"脚引きの亡者"」
そして、その声と同時に沼からドス黒い骸骨が無数に現れ、筵の死体を沼の中へと引き摺り込んでいく。
「こいつが居なければ、後はどうとでも丸め込める。彼等には世界の為にしっかりと働いてもらうよ」
徐々に姿が見えなくなっていく筵を眺めながら、尚も勝ち誇る様子なく、あくまでも冷静に呟く天理。
しかし。
「な、なに・・・」
天理は目の前の出来事に唖然としてしまう。
そこには、沼に飲み込まれる寸前に煌々と輝きを放ち始める筵の姿があった。
そして、その死体は骸骨たちの手をすり抜け、光の球体となり少しの間、教室内を浮遊する。
「ど、どういうこと?天理、ちゃんと能力は改竄したんだよね」
「ああ、確かにしたはずだ。それなのに何故?」
驚いている2人をよそに光の球体は徐々に人の形へと姿を変えていく。
「ああ、途中までは出来ていたよ?久々に痛みも感じたし、それに心臓を止めることも出来なかった。でも肝心な所は及ばなかったみたいだね」
そして、天理側からしたら忌々しいと言えるあの半笑いを浮かべ、例によって無傷な状態の筵が天理たちの前に立つ。
「ば、馬鹿な・・・」
尚も目の前の出来事が信じられないという様子の天理に対して、筵はゆっくりとした口調でその疑問に答え始める。
「死んだら10秒以内に蘇らなければならないという、この極めて強制度の高い能力。宿主を死なせないという事を何よりも優先した、この寄生虫のような能力を僕の友人はこう言っていた。・・・"呪い"だとね」




