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裏工作と平常授業 2

 それからさらに数日が経ち、いよいよ刀牙たちと合同で進めていた作戦を実行に移す時がやって来た。


 再び、天理によって生徒会室に引き抜き対象者のメンバーたちが集められたタイミングで、スチュワートを中心とする学友騎士団のメンバーはおもむろに立ち上がり、後方の席で様子を伺っている筵達をよそに天理の座っている前の教卓の前に立つ。


 そして、少しだけ強い力で教卓に何枚かの紙を叩きつける。


 「何だいこれは?」


 その紙の正体に天理はうすうすは気づいていたが、非常に落ち着いた様子で、あえてその様に尋ね返す。


 「私達がこの学園を離れる事に反対する署名です。どうかご検討を」


 「なかなかの数を集めたものだね。・・・分かった"検討"しておこう」


 天理はとても信用ならない言葉を使い、その紙を手に取り雑に4つ折りにすると自分のポケットの中へとしまう。


 「・・・」


 「さあ、席につきたまえ、始めるぞ」


 何事も無かったかのように説明を始めようとする天理に対してスチュワートは大いに不服そうな表情を浮べる。


 もっとも、せっかく集めた署名をあれだけ雑に扱われたとあっては、怒りを感じることは人として当然の反応ではあった。


 しかし今回のスチュワートの表情の理由はそれとは全く異なるものだった。


 「・・・ああ、すみません。まだ署名が何枚か残っていました」


 スチュワートは少しだけ間を開けた後、そう言って1度、自分の席に戻り鞄を持って帰ってくる。


 「こちらになります」


 そして今度は先程の約2倍の量の紙を天理へと差し出す。


 「・・・あ、ああ」 

 

 「それでこれが、今回の引き抜きの問題点について私達がまとめさせてもらった資料です。・・・あとこちらが新しい訓練の方法についての問題点、こっちは新しいカリキュラムに変更する上で起こりえるリスクを記したものになります」


 さらに、スチュワートたちはそれからもどんどんと資料を教卓の上に置いていき、後半の方は殆どが質よりも量と言った感じにはなっていたものの、最終的にその資料の束は30cmほどに積み上がっていた。


 「くっ」


 天理もさすがにそれにはイラッときたのか、それを指導したと思われる男の方を1度睨む。


 だがしかし、すぐに浅く深呼吸をして立て直す。


 そして、良い悪いはあれど、これだけ量の資料と署名を上司に報告してしまったら、上が保身に走ってしまうかも知れないと、あくまでも冷静に判断した天理はここでそれらを一蹴するという結論に至り、その資料に手を掛けて、そのまま床にばらまこうと力を入れる。


 しかし。


 「□□□」


 そこにすかさず刀牙が1歩前に出て、プリントの上に手を置き押さえつけてそれを阻止する。


 そして、これは学園全体の総意である事、またその思いの篭ったものに対して今、天理がしようとしている様なことは絶対にさせないとひたすらに真っ直ぐな表情で語る。


 「ここにはこの学園の生徒の約3/4に当るの署名があるわ。もしもこれが受け入れられないとなると私達は、こう言ってあなたに文句を付けるしかなくなるわね。"自分達よりも現場経験が少なく、自分達よりも弱いのの下では働けない。もし私達を引き抜きたいのならばその力を示してみてください"と」


 続いて、かぐやが今回の本命の作戦を天理に伝える。


 「資料を読んで精査するか、力で私達をねじ伏せるか、どちらかのお返事が頂けるまで私達は今後の招集には応じませんのでよろしくお願いします」


 最後にスチュワートがそのように明確な2択を示し、学園友騎士団の面々はそのまま生徒会室を後にする。


 「じゃあ僕達も帰ろうか」


 そして、筵もそれをしっかりと見届けた後に、ゆっくりと立ち上がり、天理にいつもの半笑いを向け、紙を何枚か捲るようなジェスチャーを送りながら、れん子、淵と共に生徒会室を出ていった。


 





 「くそが!!」


 誰も居なくなった生徒会室で天理は、先程、刀牙に阻まれた行為を行いながら叫ぶ。


 「はあはあ・・・」


 しかし、さすがと言うべきか、天理はわずか数秒で冷静さを取り戻し呼吸を整える。


 そして、自らが散らかしたプリントを拾い始めながら、同時にいくつかの対処法を頭の中で考えていく。


 「!?」


 だが、天理はその最中(さなか)に気づいてしまう。拾い集めているプリントの中に考えていた対処法を全て台無しにしてしまう、あるものが含まれている事に。








 「こんな所に呼び出してどうしたんですか?」


 それから数時間後、再び生徒会室に呼び出された筵は白々しく首を傾げる。

 

 「目的は何だ?お前はどこまで知っている?」


 天理は表面上はあくまで冷静な様子で筵に向けて1枚の紙を突き出す。


 それはなにかのホームページをそのままコピーしたような紙であり、そこには内部告発風に能力者協会のある非人道的な実験の事が書かれていた。

 

 「ああ、もしかしてあの資料の中に紛れ込んでいたんですか?」


 「は?」


 「それは僕が"たまたま"個人の趣味で調べていたものですね。僕って実は都市伝説とか結構好きなんですよね〜。いや〜そこにあったんだ」


 「・・・」


 「で?なにか?」


 尚も筵はシラを切り続けながら、天理の言葉を待つ。


 「・・・君たちZクラスの引き抜きは取り止めることにする事にした。それを伝える為に呼んだんだ」


 「それだけですか?」


 「ああ」


 それからお互いに様子を伺っているように、数秒間静止する。


 しかし、その静止状態は筵のため息を皮切りに少しづつ動き始める。


 「はあ・・・全然足りないね」


 「なっ・・・」


 「な?」


 「ま、まさか、彼らを引き抜きもやめろと言うのか?・・・普段のお前ならば・・・」


 「ええ、その通り。普段の僕なら最初の条件だけで納得するかも知らない。でも今回は彼らと色々取り引きみたいな事をしているからね・・・それに」


 筵はそう言うと不敵に笑い、たっぷり間をとって続きを話し始める。




 「僕が君に要求しているのはそれだけではないよ。僕は君に"日室くん達と戦い、わざと負けて引き抜きを諦めろ。そして2度とこの学園で変な新カリキュラム(人体実験)を行うな"とそこまで言っているんだよ?」




 「・・・人体実験だと?」


 天理は小声でそう呟き、筵を睨む。


 しかし、筵はそれに対していつもの様に笑い返して見せた。


 「ええ、今回のカリキュラムも、あるいは、ゆとり教育なんかも言ってしまえば人体実験さ。数年後にどんな弊害があるかわからないのに本人達の意志とは無関係に無理やり行われてしまう。・・・例えば、これを機会に1度持ち帰って、マウスで実験でもしてみてはどうかな?」

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