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裏工作と平常授業 1

 「これ、どう思うフラン君?」


 筵はいつもの倉庫でフランとともに1つのパソコンに向かい、宇宙主義から譲り受けたデータを確認しながら尋ねる。


 「・・・まあ一言で言うなら、宇宙主義(かのじょ)の能力の前に、この情報社会で安心出来るものなど何も無いということですねぇ。能力者協会の幹部や上位能力者の情報、それにこの実験の資料は相当上の人しか見ることができない軍事機密ですからねぇ。私も何回かやってみましたが、セキュリティが強固過ぎてだいぶ最初の段階で断念しましたよ」

  

 「まあ、それもそうなんだけどさ。ここだよここ」


 フランの返答を笑顔で返した筵は、斎賀天理のプロフィールの部分を指さす。


 そこには、それなりに衝撃的な、そして"使えそうな"事が書かれていた。


 「ああ、これですか。・・・なるほど斎賀天理は偽名だったって事ですねぇ。それにこの苗字は・・・つまりそういうことですか?」


 「ああ、でも今ある資料だと、まだどう使えるかは分からないかな。取り敢えず、てふてふにも協力してもらってどうするか決めようか。あとフラン君にもいくつか手伝って貰うかもしれないから宜しくね」


 「・・・まあ少しくらいならいいですがねぇ。あの忌々しい学園のために思考を巡らせなくてはならないと言うのは些か不満ですね」


 「まあまあ、今度どこかに連れて行ってあげるから許してよ。そうだな〜、遊園地とかでいいかい?」


 「はあ?なぜ私がそんな所に行かねばならないんです?」


 「そうかい?ここに君の輝かしい経歴も書かれていたから、これを見るともしかしたらって思ったんだけど」


 筵は協会の重要人物のプロフィールから茶川風土の画面を選択肢して指を指す。


 すると、フランは無理矢理に筵の手からパソコンのマウスを奪い取りその画面を閉じる。


 そして数秒間硬直した後、筵の方を振り返る。


 「勝手に覗くのはやめて下さい」


 数秒間の硬直の時に色々と整理したのか、振り返ったフランの表情は比較的冷静であった。


 「よく鈍感過ぎる方は周りからウザがられますが、あなたほど人の心を察する事が得意だとそれはそれで鬱陶しいですねぇ。・・・まあ今回は外れでしたがね」


 「うん、そうなんだよね〜。よく近しい子達からは空気が読めすぎて逆に空気が読めていないと言われてしまうよ。何事も"過ぎたるは及ばざるが如し"って事なのかな。とにかく反省するよ」


 筵は後頭部に手を当て、上辺だけで申し訳なさそうに振る舞いながら半笑いを浮かべる。


 「・・・」


 「?」


 「・・・まあ、あれですね。少し落ち着いたらそういうのも気分転換にはいいのかもしれませんねぇ」


 筵の方を一切見ることなく画面を凝視した状態でフランは何気なくそう呟き、それを聞いた筵は神妙な面持ちでフランを見る。


 「フラン君・・・君、今回で死ぬ気なのかい?」


 そして、筵は再び上辺だけで驚いた様な表情を作りながら尋ねる。


 「・・・はあ、死亡フラグなどではありませんよ。それに死ぬ事などあなたが許さないのではないですか?」


 フランは筵の首から服の下に向かって掛かっている何かを見ながら呟く。


 その首飾りの名は裏口輪廻(ヘテロドキシー)


 100人の命と引き換えに1人に最上級の回復効果をもたらす秘宝であった。


 「ああ、これか・・・。まあ、いざとなってら使うけど、出来れば使いたくは無いね。フラン君も出来れば、僕にこれを使わせない様に行動してほしいかな」


 「ええ、元よりそのつもりですよ。・・・だって私は痛いのが嫌いですからねぇ」


 何人もの人間を実験台にして苦痛を与えて来たマッドサイエンティストはそう言うと、整った顔で邪悪に笑って見せた。





 「お邪魔します。てふてふが来ましたよ。おやおや男性2人で随分と楽しそうですね。エッチな動画でも見ているんですか?それとも、お2人はアレなんですか?」

  

 蝶蝶は倉庫に入って来るなり、1つのパソコンを2人で覗いている筵とフランを見つけ、無表情で冗談を言い放つ。


 「それは2つの意味で健全な男子高校生の青春の様で素敵だとは思うけど、残念ながら違うよ」


 蝶蝶の問に筵も冗談で返えすと、パンパンの状態のコンビニの袋を持った蝶蝶に目を向ける。


 「それでてふてふは何をしていたんだい?」


 「まあワタシは学校には通ってないのでね。普段は警察に補導されないように気をつけながら、遊び歩いているのですよ。それはもう、"菜の花に飽きたら桜に止まれ"とばかりにね」


 蝶蝶は再び、無表情のままにそんな冗談を言うと筵達の近くまで来て、パソコンを覗き込む。


 「これは宮前(かえり)さんの情報ですか?」


 「ああ、場所も分かったからこれでいつでも会いに行けるけど、僕にも少しだけ事情が出来てしまってね。もう少しだけ待ってくれるかな?」


 「ええ、いいですとも」


 筵の要求を二つ返事で了承した蝶蝶は直ぐにパソコンの元を離れてソファーに腰掛けると手に持っていたビニール袋を机の上に置き、中から手軽なお菓子を取り出して食べ始める。


 「よかっはら、たへまふか?」


 そして、棒状のお菓子を口に加えた状態で首を傾げながら、筵とフランに尋ねる。


 「いえ私は・・・」


 「おにひりもありまふよ?」


 誘いを断ろうとするフランに対して、蝶蝶はビニール袋をひっくり返し底の方に埋まっていたおにぎりを発掘してフランに向かって差し出す。


 「・・・」


 「じゃあ、頂こうか?」


 筵は、なぜか二の足を踏むフランの肩を軽く叩くと2つあるソファーの蝶蝶の対面(といめん)に座わる。


 そして、フランも含めた3人で今後の計画を話しながら、食事を楽しんだ。

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