引き抜きと平常授業 4
それから数日後。
筵は、天理や協会のやり方に対しての不満が高まりつつある学園内を宇宙主義と共に歩いていた。
スチュワートたちは、まず学園全体の意見を改革に反対の方へと誘導する為に、最近、学園内でも人気である笑の新聞を利用していた。
その協力の要請に対して、最初は笑の方も二つ返事でオーケーはしなかったものの学友騎士団についての密着での取材を許可し、可能な限りそれに協力するという条件を出された瞬間、ジャーナリストの血が騒いだか、三つ返事位には了解してしまっていた。
「どうだい?新聞の方は順調かい?」
「ええ、笑さんの持つ人の心を掌握し、自身の求めるプロパガンダを形成するテクニックは大したものです。学ぶことも多い」
「確かにそうだね」
そう笑の新聞とスチュワートたちに隠れて行っている噂作りが着実に効果を出している事は学園の様子を見ても明らかだった。
しかし、それ故に心配な事も多い。
「まあ、学ばせてもらっているなら、その分、ちゃんと守ってかあげてね。もしかしたら蛭間さんが斎賀くんの標的にされるかも知れない。・・・特にハーベストとの戦闘中のゴタゴタしている時とかはよく見守って置いてあげてね。もし僕だったらそういう時を狙うからさ」
「ええ、分かっていますよ。我々の友人には決して手出しはさせませんから・・・あと筵、これを頼まれていたものです」
宇宙主義は筵に向かって手を突き出す。すると、その手のひらの上にメモリーカードの様な物がどこかから転送されてくる。
「ああ、ありがとう。さすがに仕事が早いね。つい5分前に頼んだのに」
「こんなものは一瞬です。しかし、気をつけた方がいいかも知れません。我々にとって見れば有って無いようなものでしたが、貴方達の文明レベルで言えば、かなり厳重と呼べるロックがかかっていました」
「なるほど、まあそうだよね〜」
宇宙主義からメモリーカードを受け取った筵は頭の中で状況を整理して小声でそう呟く。
そして、改めて宇宙主義に笑顔を向ける。
「ありがとうポリたん。このお礼はいつか必ずするよ」
「・・・」
「?」
「お礼など結構ですよ。我々はただ、あなたがこの学園から居なくなると不利益が多いと"分析"しただけですから」
宇宙主義は口調こそ淡々した感じにそう言うと、筵から目をそらす。
「流石はポリたん。魔王級のツンデレ・・・では無く、分析力だね。色々な意味でありがたい限りだよ」
「ん?なんですか?今、馬鹿にしましたか?」
何かの感情と多少の怒りが同居した様な筆舌に尽くし難い感情を覚えた宇宙主義はジト目で首を傾げる。
「いやいや、あまりに愛らしくてさ。馬鹿にするどころか、思わず告白してしまう所だったよ」
筵は、冗談のような口調で紛うことなき真実を恥ずかしげも無く口にする。
「・・・ふっ・・・はあ、機械の身体を持つ我々にですか?」
そして、それを受けた宇宙主義は最初にクスリと笑うと、自分だけ例えようの無い感情を覚えている事が馬鹿らしくなったのか皮肉混じりに尋ねる。
「ああ、人間の心を持つ君にね」
「・・・それならば、せいぜい我々をガッカリさせないでください。では我々は笑さんが心配なので帰ります」
「ああ、ありがとうね」
そうして、早歩きで自身の教室の方へと向かう宇宙主義を見送った筵は、再び自身の手のひらの上にあるメモリーカードに目を落とす。
「さあ、では僕もやれる事はやらないとね」
そしてメモリーカードを一旦ケースの中に入れポケットにしまうと、筵もZクラスの方へと消えていった。




