引き抜きと平常授業 2
「で先輩?先輩の考えている作戦っていったい何をするんですか?」
「まあ、いくつか案はあるけどね〜・・・」
淵の問に対し、いつもの半笑いで答えた筵は、そのまま流し目にかぐやたちの方を見る。
「何よ?はやく言いなさいよ」
「んー、まあ、じゃあ怒らないで聞いてね。・・・まず一つ目は相手に引き抜く価値がないと思ってもらう事かな?例えばFクラスの生徒達を模擬戦で再起不能なほどにボコボコにするとか、不純異性交遊しまくって社会的にヤバい立場になるとかだね。・・・まあ、何にしろ彼は僕みたいなやつも引き抜くつもりらしいから結構な事をしないと考え方を変えてくれなそうだけど」
筵はそう言いながら指を空中で動かし、左手でかぐやと刀牙、右手でスチュワートと刀牙を交互に指さす。
「ふざけた事を言わないでください!」
「ふざけてないで真面目にやって」
筵の言葉にスチュワートは机を軽く叩きながら抗議し、かぐやは呆れた様子で頭に手を当て冷静に返す。
そして、その2人の対応の差を見た筵は、かぐやが自分に対する立ち振る舞いに慣れて来ていることを伺い知り、それに対して少しだけやりにくいと感じつつも、仕方なく、そしてわざとらしく言葉を続ける。
「だから怒らないでって言ったのに・・・あと君達。目的を履き違えてはいけないよ?君達が引き抜きを断わりたい理由はここに残される者達の殉職率が自分たちが居なくなったせいで増えない様にする為なんだろ?だったら例え、自分達が汚名を被ってまで助けた者達に性の乱れた奴らだとか、力で学園を支配する独裁者たちだ、とか思われても良いんじゃないかな?だってそうだろ?君達の目的は彼らから感謝される事では無いんだから」
「□□□・・・」
「刀牙待って」
立ち上がり、筵に対して抗議の言葉を言おうとする刀牙をかぐやが止める。
「怒ってくれるのは嬉しいけど、こいつはわざと挑発しているだけよ。理由は多分、私達から自分じゃ出せない類の意見を捻り出すためとかでしょ?」
「・・・そこまで分かっているなら、逆に黙っていて欲しかったな〜。人間て言うのは追い詰められないと真の力なんて出せないものなんだからさ」
「それもそうかもしれないけど、今回はそう言うのは無しで行きましょう。・・・スチュワートも刀牙も受け入れるか入れないかは別として、取り敢えずこいつの意見を聞くこと、いいわね」
かぐやが刀牙とスチュワートをそのように説得すると、刀牙も納得したのか椅子に座り直す。
「で、あんた?他にはなにか無いの?」
「ん〜、他の意見となると、ハニートラップとかで不祥事をでっち上げるとか、彼の家族を誘拐して脅すとか、いっその事、暗がりで襲撃して退場してもらうとかかな〜」
「「・・・」」
「ま、まあ、取り敢えず一つの意見としておきましょ?絶対に採用はしないと思うけど」
次々と出てくる、筵のちょっとアレな意見に皆押し黙ってしまっているのを見たかぐやは必死に周りをなだめる。
「後はやっぱり、彼の秘密を調べて揺する事かな?さっきも言ったけど、もしかしたら、それに値するかもしれない情報があるんだよね」
「・・・それ位ならいいかもね・・・」
筵の言葉を受けて、そう小声で呟くかぐや。
「□□□」
「あ、あの?かぐやさん?」
「えっ?・・・ち、違うわよ。あくまでも最終手段としてよ。人の命には変えられないって事」
かぐやは驚いたような表情で自分を見る刀牙とスチュワートに対して、両手を振って必死に否定する。
一方、筵はそんなかぐや達を無感動に眺めた後、彼女らが少し落ち着いた所で再び口を開く。
「さあ、僕の思い付くのはこんなものだね。・・・では次は君達の意見を聞かせてくれないかな?」
筵は軽く首を傾げながら、淵やれん子を含めた全員に尋ねた。
そして、そこから話し合いは、次々に展開していき、使えそうな意見や使えなさそうな意見、彼ららしい正義感に溢れた意見やその逆の意見など、その質や内容は様々であったが、中々に多くの意見が出揃い、結果だけで言えば、その会議の収穫は清濁併せ呑んだ様な悪くない集計結果となった。




