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引き抜きと平常授業 1

 あの集会が行われてから数日が経ち、AからFクラスまでの生徒たちは新しいカリキュラムでの授業を何日間こなし、法律や社会のルールにおける全ての改革がそうであるように、皆、なし崩し的に新しい体制を受け入れ始めていた。


 そして、例えば、消費税が無かった頃の事を今では想像すら出来ないように、この問題の多い新しいカリキュラムが当たり前の社会になって行くのも時間の問題なのかもしれないと誰もが感じていた。


 だか、少なくともこの新しい制度により、社会全体で見れば、きっと色々なことが円滑に進んで行くのかも知れない。


 しかし、それはイコール、能力者の戦死者が減ることでも、非能力者の犠牲者が少なくなるという事でも無かった。特に今回に関しては・・・。


 「筵先輩、このままだとわたし達、本当に引き抜かれてしまいますよ」


 「筵、何かいい方法はないの?」


 筵が新しいカリキュラムについて考えていると自身の両隣に座る淵とれん子が小声で喋りかけてくる。


 


 学園の生徒会室まで来るように呼び出しをくらった筵、淵、れん子には、つい先程、天理より、引き抜きが宣告されたばかりであった。


 そして、周りを見渡すと、その場には筵達以外にも、何人かの人物が存在していて、日室刀牙はもちろん、藤居かぐややスチュワート・グレイスフィールド、それに、魔剣の使い手である名雲聖、そして、本来は筵の世話係でもある破魔野斬人の姿もあった。


 しかし、いくら確認しても、そこに居たのはその5名だけであり、刀牙の周りにいつも居る女の子たちや友騎士団のメンバーが全員引き抜かれるという訳ではないようだった。


 だが、だからと言って学園からこれだけの人間が居なくなったら、学園の戦力は大幅に下がってしまうのは火を見るよりも明らかであった。


 「全く、僕達の事なんて低く見ていてくれればいいのにね〜」


 筵はそう小声で呟くと、教卓の前に立って、色々と説明している天理を見る。


 斎賀天理という男は、筵が考えるよりも遥かに冷静な人物であったようで、自分に対してさなざまな無礼を働いた筵を個人の感情で敬遠する事はせず、自分の配下に加えるため、引き抜きに加えてきた。


 その理由が単純に"この男は使える"と考えたのか、それともZクラスをバラバラにした方が筵が嫌がる事を知っていたからなのかは分からない。


 しかし、どちらにせよ今回の事で、斎賀天理は侮れない人物である、と筵は再認識せざるを得なかった。


 さらに、能力を封じる能力を持つ淵、そして、姿を暗ます事が出来る能力で諜報に長けたれん子も選抜していることから、想定している敵がハーベストでない事も容易に理解出来た。


 「何人かの人は気づいているかも知れませんが、俺の下について戦う最初の敵はハーベスト教団の千宮司新羅となる事だろう」


 天理は両手で軽く教卓を叩き少しだけ前のめりの態勢でそう告げる。


 「千宮司新羅はつい先日、某国にて保管されていた第2の魔王型ハーベスト、恐怖の王(ディザスター)の亡骸を盗み出したという極秘の報告があった。彼らがそれを使って何をしようとしているかはまだ分からないが、奴らの次の計画が着々と進んでいるのは確かだ。故に君達には今日より学園の任務を離れ俺の下で、それらに対抗するため、独自の任務と訓練を行ってもらいたいと思っている。・・・ついでに言っておくがこれは協会からの命令だ。断る事は出来ないので、そのつもりで」


 そう言って天理は、そこに集められた者達を見渡し、最後に念を押すようにもう1度だけ筵見る。


 「質問してもいいですか?」


 「ああ」

 

 筵は天理と目を合わせた状態のまま尋ねる。


 「もしそうなったら、僕達は学園に通う必要は無くなるんですか?」


 「ああ、そうなる。心配しなくても、やるべき仕事は山とある、暇はしないはずだ」


 「・・・それは千宮司新羅の脅威を退けた後も続くのですか?」


 「ああ、もちろん」


 「そうですか」


 筵はそのような簡単な返答を返すと、早々と質問を終わらせる。


 普段の筵ならばここから屁理屈を並べて、一騒動起こす所であったが今回はあっさりと引き下がった事で、その場に集まって者達は一斉に筵に注目する。


 「ええ、こほん。ではほかの質問が無いなら今日は解散とする」


 天理はそう言い残すと、特に勝ち誇った様子など無く、生徒会室を退出していく。




 「さあ、僕達も帰ろうか?」


 椅子から立ち上がった筵は、両隣の淵とれん子に尋ねる。


 「珍しいわね。いいの?あんたこのままだと学園を離れる事になるかも知れないのよ?何時もみたいに栖さんの名前出せば良かったじゃない?」


 そんないつもと変わらない様子の筵に対し、かぐやが重い口を開く。


 「何時もみたいにって酷いな〜。でも、藤居さん?彼は母さんの名前を出しても、きっと物怖じしないんじゃないかな。いや、もしかしたらその逆かも」


 筵は顎に手を当て、わざとらしく何かを考えている風にそう言い話を続ける。


 「まあ、僕からしても、母さんにはあまり頼りたくは無いんだけど、もしそれを使うなら彼の上の人に対してがいいと思うよ?・・・そうだな〜、家庭があって、特に大学受験かなにかを間近にした子供がいる人なんかが好ましいかな」


 「・・・まあ、今回はそれでもいいわ」

  

 「これはまた珍しいことを言うね〜。どういう風の吹き回しだい?」


 「はあ、私達も今回の件は、拒否したいのよ。繭里たちだけ学園に残して置くのは心配だし、彼のやり方だときっと学園の犠牲者は確実に増えてしまうから」


 かぐやは昔の(いくさ)を思わせる新しい戦術や訓練の内容から直感的にそう察していた。


 そして、そこに招集された他の者達もかぐやと同じ意見のようで小さく頷いている。


 さらに筵は淵とれん子の気持ちを確認するために、そちらに目を向けるが2人も食い気味に頷いていた。


 「まあ、そういう事なら協力しあおうか、でもあくまでも母さんを使うのは最終手段で頼むよ」


 「ええ、わかったわ」


 「まあ、大丈夫さ。それを使わなくてもやり様はいくらでもある。取り敢えず僕は、交渉に使えそうな彼の秘密を1つ握っているからね」


 筵はそう言うと、何時もの半笑いで少しだけ強調させる。


 そして、それを見たかぐや達は何時もは敵であるその半笑いが今回は味方であることに、多少の頼もしさを覚えてしまった。

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