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天使再臨で・・・ 3

 「あの梨理先輩、ごめんなさい、僕達のせいでここに残ってるんですよね」


 「気にすんじゃねーよ、湖畔くんは悪くねーだろ。ただ、あいつらは後でとっちめる」


 梨理は片方の手でもう片方の(てんひら)を殴りながら怖い顔で言った。


 地下シェルターは街の至るところに設置されていて、今の梨理たちのいるシェルターには1000人前後の人が避難していた。

 

 最初の警報時間は過ぎて、そろそろ30分が経とうとしている。


 「まあ梨理先輩、機嫌直してください。ゲームでもやりますか?」


 「ああ、やる」


 梨理はカトリーナの貴重品らしいゲーム機を借りて地面に仰向けで寝っ転がると、ピコピコとゲームをやり始めた。





 「そろそろ戦ってる頃かな」


 「そうね、淵も無事だといいけど」


 湖畔とカトリーナは淵が戦いにおもむいているという事もあり、いつもより緊張した様子だった。


 「れん子先輩と譜緒流手先輩も心配ですね」


 「あの2人なら、心配ねーだろ。譜緒流手には物理攻撃がほとんどきかねーし、れん子はそもそも気づかれねーから範囲攻撃とかに巻き込まれなければ無事だ」


 格闘ゲームで負けてしまった様子の梨理が、持っていた携帯ゲーム機から目をはなし湖畔の質問に答えた。


 すると避難していた人たちの一部がざわざわと騒ぎ始める。


 やがてその声は周りに拡散して、シェルターの中はうるさいくらいの雑踏に包まれた。


 「ハーベストがこの街だけで4箇所同時に出現したらしい。その内の一つはこの真上だ」


 避難民の中の20代前半ほどの男が大声で全員に聞こえるように叫び、それを聞いた他の人たちはガヤガヤと噂話を始める。


 「ハーベストが4箇所同時に?」


 「そんなことありえるの?」


 「しかもこの真上だって」


 「新しい天使型ハーベストは頭が人間かそれ以上にいいって聞いたことあるぞ」


 「まさか、シェルターを狙ってきたってこと?」


 「ばかな、偶然だろ」


 シェルターの中はパニック状態で収集がつかなくなっていた。


 「いいから、監視カメラの映像を映せよ」


 避難民の言葉によりシェルター内の大型モニターに外の様子が映し出される。そこには数十体の天使型ハーベストと強靭な体を持った3mほどの大きさのゴリラのような形のハーベストがシェルターを取り囲んでいた。


 そして量産型と思われる天使型ハーベストのうちの一体が、シェルターに向かってしゃべり続けている。


 「我々は、神の使い。この世界の資源と労働力の全てを我らの世界のものとするために再臨した。そこに隠れているのは分かっている、直ちに同行しろ。さすれば家畜として我らの世界に迎えよう」


 その映像を見た避難民たち唖然とした様子いた。おそらく夢か現実か一瞬だけ理解出来なくなってしまったのだろう。しかし、それかはしばらくした後、それぞれアクションを起こし始める。


 ある者は絶望し、またある者は学園に怒りの矛先を向けている。


 それだけならまだしも、シェルターの中では仲間割れが始まってしまっていた。


 「おい、この中に能力者はいねないのか!!」


 「そうだ、あいつらと戦えよ」


 「はあ?せっかく兵役を生き抜いたのになんで戦わなくちゃならねーんだ」


 「そうよそうよ」


 兵役を終えた上、天使型ハーベストという未知の存在と戦う事を能力者は拒否して、能力者とそれ以外の人の言い争いが続いている。


 「まずいな、なんか雲行き怪しくねーか」


 梨理はカトリーナと湖畔を庇うように自分の後ろに移動させた。1年生の2人の顔を見た梨理は、少し考えた後ため息をつく。


 「ちっ、しかたねー、あたしが行くしかねーか」


 「梨理先輩、危険ですよ。やめてください」


 「そうです、無謀です」


 梨理の言葉に1年生組が慌てて止める。


 「無謀じゃねーよ。アイツらは日本語喋ってただろ、あたしの能力が通用するかもしれねー」


 「し、しかし」


 湖畔が不安そうに言うと、梨理は湖畔とカトリーナの頭の上に手を置いた。


 「あたしはお前達のことを任されてんだ。このまま連れ去られる理由にはいかねーだろ」

 

 そう言うと梨理は今度、その場にいた全員に向かって大声で叫んだ。


 「おい、あたしが行ってやるから、少し黙ってな!!」


 梨理は能力を発動してはいなかったが、そのドスの聞いた声はその場にいた全員を黙らせた。


 そしてそれと同時に湖畔とカトリーナにも梨理の決意が本気であることが伝わった。


 梨理は再び湖畔とカトリーナに語りかける。


 「能力使うから、あの監視カメラの映像を映らないようにしといてくれ」


 「は、はい、わかりました」


 「気をつけてくださいね。やばくなったら逃げてください」


 梨理はそのへんの男性よりも遥かに男前な背中を湖畔とカトリーナに向けて、後ろを向かずに手を振った。


 




 シェルターの出口まで階段を登る梨理の手には、避難誘導の人からパクった拡声器が握られていた。


 身体は武者震いで震えていて、今までにない高揚感を抱いていた。それは死に直面した事によって、もたらされたものかもしれなかったが、不思議と悪い気はしなかった。


 1000人もの人の命を背負っている感覚は、人によっては重石(おもし)になるものかも知れないが、梨理にはそれが力になるような感じがしていた。


 「まったく、マーベルヒーローかよ。あたしは」


 シェルターの出口が開くと、そこには数十の天使型ハーベストとゴリラの様なハーベストが待ち構えていた。


 梨理がシェルターから出るとすぐに扉が閉まる。


 「おや、ようやく現れましたね?家畜希望の方ですか?」


 よく見ると天使型ハーベストは、一体一体の顔が違うことが分かる。恐らくこちらの世界でいうところの学園のような所から派遣されたのだろう。


 「まあ、そんな所だ。それにしても日本語がお上手でいらっしゃる」


 梨理は拡声器を持って質問した。もちろん家畜になる気はなく、こちらの言葉が伝わるかを試したのだ。


 「ええ、このような簡単な言語。脳に直接書き込む我々の世界の教育システムを持ってすれば、10分ほどでマスターできます。」


 「それはすげーな。今度、あたしも英語を覚えてーもんだ。あれだけは苦手でな」


 「あなたたち家畜が覚えるのは、我らの世界の言語のみで充分ですよ。さあその扉を開けなさい」


 天使型ハーベストに能力が効くと確信した梨理は、監視カメラが作動していないことを確認すると能力を発動させた。


 「"それは、いいけどよー。おまえら手柄はどうするんだ?ここには1000人近くの家畜がいるが、手柄を得られるのは1人だけだろ?最初にお互い殺しあって、その1人決めるのは常識じゃねーか?"」


 梨理の能力はありえない嘘ほど信じさせてしまうと言うモノあり、梨理の言葉を聞いてしまった天使型ハーベストたちは一瞬だけ、思考停止した様に焦点の合っていない目になり、その後、いつもと変わらない状態に戻った。



 「そ、そうでしたわね。家畜を捕まえた手柄を得られるのは1人だけでしたわね」


 しかし、能力によりしっかりと常識は書き換えられていて、一瞬お互いを見あった後、無残な仲間割れを始めた。


 次々と殺し合う天使型ハーベストを見て、ふう、とため息をつく梨理だったが何処からか殺気を感じた。


 それはさっきからずっと動かないでいたゴリラ型ハーベストだった。


 ゴリラ型ハーベストは梨理に向かって突進を仕掛けてくる。梨理の身体能力は学園内でもトップクラスのため、それをギリギリでかわす。


 そのハーベストには梨理の能力が効かなかったようだった。梨理の能力は梨理の言葉を理解出来るものにしか効果が無い。


 このゴリラは普通のハーベストと同じく、梨理の言葉の意味が理解出来なかったのである。


 「"ちっ、お前らよく聞け。このゴリラハーベストはお前らの住む世界に災いをもたらす。直ちに排除するべきだ"」


 梨理は天使型ハーベストに新たな催眠をかけた。


 それを聞いた天使型ハーベストたちは、仲間割れをやめてゴリラ型ハーベストへの攻撃を開始する。




 


 

 「嘘だろ・・・・」


 そこには天使型ハーベストを全て返り討ちにして、雄叫びを上げるゴリラ型ハーベストの姿があった。


 そのハーベストは再び梨理に向かって突進を仕掛ける。またも、ギリギリでかわす梨理だが、そう長くは持ちそうにない。


 「くそ、こいつが一番強いのかよ」


 梨理は息切れしながら苦笑いをする。それから何回か攻防が繰り返された。梨理は相手の攻撃を直接くらった訳では無いが、転がったり滑り込んだりを繰り返し、身体中は擦り傷だらけになっていた。


 すると、ゴリラ型ハーベストはしびれを切らす・・・様な理性を持ってはいない筈だが、口元に光の様なものを溜め始めた。


 「おいおい、これはやばいだろ」


 梨理は額に冷や汗をしながら、再び監視カメラを確認する。まだ、監視カメラはオフの状態になっている。


 「はあ、しかたねー。こっちも、本気出すしかねーか」


 梨理はため息をつき、腕を前に出して構える。


 凄い光量の神々しい光が溢れ出して、その光が大きめの音叉の様な形に収束していく。


 梨理はその音叉を口元に持っていき再び能力を発動する。


 「"お前はあたしの下僕だろ、主人に下僕が牙を剥くなど許されると思ってんのか?"」


 梨理の嘘を聞いたハーベストは、レーザーの様なものを放とうとするのをやめて、その場に(うずく)ってガタガタと震えだした。恐らく許しを乞っているのだろう。


 「この音叉型の聖剣、骨刀(こっとう) 魂震(こんしん)を通して語った渾身の言葉は、どんなに知性のないハーベストの魂おも震わせる」


 梨理はゆっくりとハーベストに向かって歩いていく。


 「動物やハーベストに言葉を伝えるだけ、なんて使えない聖剣だろ。うちの神社の蔵で偶然に、本当に偶然に見つけたんだ」


 蹲っているハーベストの前までたどりついた梨理は、再び魂震を構える。


 「"お前が、あたしに許される方法は自決だ。そして、お前もそうしたいと望んでいるはずだ"」

 

 そう言うと梨理は、ハーベストに背を向けてシェルターの方へと戻っていく、数秒後、ハーベストの慟哭(どうこく)とともに地面に倒れる音が響いた。

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