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冬の初めに平常授業 6

 翌日、学園では全ての学年、全てのクラスに招集が掛り、緊急の全校集会が開かれていた。


 この様なケースではZクラスはハブられる事が多いのだが、今回に限っては例外無く全校生徒が、オーケストラの演奏会位なら余裕で出来そうな程に大きな講堂に集められていた。


 「これ何でオレ達まで呼ばれてんの?」


 講堂の一番後ろの席に座った譜緒流手が隣に座る筵に話しかける。


 「さあ、全校集会をする理由には1つ心当たりがあるけど、僕たちまで呼ばれた理由は分からないね」


 「ん?全校集会をする理由なんてわかるの?」


 「譜緒流手ちゃんも見てただろ?昨日のあれだよ」


 「あ〜、あれね」


 譜緒流手は筵の言葉に納得し数回頷く。


 そうしていると、壇上には学園の生徒会メンバーと教師陣が既に揃っていて、中心の大きな机の前には生徒会長であるスチュワートが立ち、マイクの高さを合わせていた。


 「ええ、皆さんの中には既に知っている人も多いと思いますが、今日集まってもらったのは昨日(さくじつ)、ワープホールから出現した龍型ハーベストを我々に先んじて壊滅させた謎の半機械のハーベストと小型の円盤状の軍団についての報告の為です」


 スチュワートは"さすがは生徒会長"と言える場慣れした饒舌な口調で演説をしていく。


 「知っての通り、その軍団はものの10分ほどで数百はいたと思われる龍型ハーベストを全滅させて、ふただび空へと帰っていきました。・・・能力者協会はこの件に関して、半機械のハーベストとその配下と思われる円盤にこの地球を侵略する意思があるかは不明ではあるが、それらが、この地球に大いなる災厄をもたらす程の力を持っていることは明らかであると結論付けて、それらを第8の魔王型ハーベストと仮認定し、名前を機械仕掛けの魔王軍サタンズ・エクス・マキナと呼称すると決定しました」


 そこから、スチュワートはその機械仕掛けの魔王軍サタンズ・エクス・マキナに関して今わかっている情報を説明していく。


 それによるとその機械達が何者かによって操られているという所と、ワープホールから現れた痕跡が無い事まではバレていたが、どちらとも憶測の域を出ていない事もあり、宇宙主義の正体にまでは辿り着くことは無いだろうと考えられた。


 「やっぱりこの話だったか。・・・そして祭ちゃんがポリたんの事を第8の魔王型と言っていたのは本当だったんだね」


 筵は半笑いを浮かべつつ独り言を呟くと、再びスチュワートの方へと目を向ける。


 すると、スチュワートは丁度、宇宙主義の話についてあらかた話し終わった所で、次の話題に移ろうとしていたが、その表情を見ると少しだけ浮かない様子であり、放送事故のように数秒間の無音の時間を作ってしまっていた。



 コホン。



 その静まり返った講堂に何者かの咳払いが響き、スチュワートはハッとした様子で、自身の前の机の上に置かれた原稿に目を落とす。

 

 「・・・そ、そして学園は、この新しい脅威である機械仕掛けの魔王軍サタンズ・エクス・マキナやハーベスト教団から自分達の身を、延いてはこの世界を守る為には、今のままの体制で至らない部分が多いと判断し、能力者協会の指示のもと、戦闘訓練の大幅な増強と平常授業の削減などを盛り込んだ新しいカリキュラムを来週より試験的に実施する事が決定しました」

 

 スチュワートは言わされている感が満載の様子でそう告げる。


 そして、スチュワートの言葉により、講堂の中はざわつき、雑踏に包まれる。

 

 「これってどういうこと、筵?」


 周りの状況から只事でない事を悟ったれん子が筵に尋ねる。


 「ん〜、まだ新しいカリキュラムって言うものの詳しい内容が分からないけど、ずっと前から、能力者協会は有能な能力者には兵役の後も対ハーベストの戦闘員として働いてほしいって思っている節があるからね。脅威が増えたって事に(かこつ)けて、平常授業の時間を大幅に削って、戦闘訓練を増やし、学園を言うなればハーベストと戦う事を学ぶ専門学校のようにしたいのかも知れないね」


 そして専門学校に通った人の多くが、その専門の職に就くというような事を、協会は能力者にも強要したいと思っている、という所まで筵は下衆の勘繰りを巡らすことが出来た。

 

 「まあこの学園はハーベスト教団の事件でも敵を誰一人として捕まえることが出来ていない上に、理事長もまだ万全の状態では無いから、少しばかり発言力が弱くなっているのだろうね」


 筵はその様にれん子の質問に答えると再度、スチュワートに目を向ける。


 「み、みなさんお静かに、今から詳しい話を・・・」


 どうにかして場を治めようとしているスチュワートだったが、一向に皆の話し声は小さくならなかった。


 その時。


 「いや、その説明は俺からするよ」


 落ち着いた男の声が講堂に響き、一人の白い学生服を着た男がゆっくりと舞台の中心に向かって歩く。


 そして最初は少しうるさいくらいだった周りの様子は、男が中心に辿り着くころにはすっかりと治まっていて、男の歩く足音が木霊する程であった。


 「この度、学園の改革を指揮する事になりました。斎賀天理です。短い間ですがどうぞ宜しくお願いします」


 天理はスチュワートから明け渡された机に両手を乗せて、少し前のめりの姿勢でそう言うと、どこか含みのある笑を向けた。

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