冬の初めに平常授業 5
「決めました。取り敢えず行ってみて、助けて欲しそうだったら助けるという事にします」
蝶蝶がそう結論を出したのは、筵から考える様に言われた、わずか数十分後の事であった。
そのスピードに対して筵は心の中で少しだけ驚いたものの、蝶蝶の選択したその答えに満足したのか、一度軽く頷き、返事を返すため口を開こうとする。
しかし。
「ちょっと待ってくださいよ。その娘を助ける事になったとしたら、ここに住まわせる事になるのではないですか?そんな危ない方と、同じ空間にいるなんて絶対イヤですよ」
筵に代わりフランが蝶蝶の提案に異を唱えた。
「えー、だめ筵?」
「いやー、僕はてふてふに全面協力すると言ったばかりだからねー。それに連れ出したら、ある意味では誘拐になるだろうから、民衆の目に触れる所に居させるのは、その子に対しても一般の人に対しても危険でしょう。そうなるとまあ、ここに居てもらうしか無くなるよね」
いつもの半笑いを浮べながら横目でフランを見る筵。
「フランくんには悪いけど一緒に居てもらうしか無いかな?まあ、ここは僕が借りてるんだから、あんまりわがままは言わないでくれよ?」
「・・・」
「・・・どうやらここから数十km圏内にその子はいないようだね」
筵は、複雑そうな表情で黙り込むフランに対して、わざと聞こえるようにそう呟く。
「はい?今、何を確かめたんですか!?」
「いやごめんごめん、冗談だよ。・・・それに、もしその子を助ける事になったとしたら、匿う場所はそれなりに考えるからさ。・・・何せ君は僕にとって数少ない悪友だからね。大切にするよ」
筵はまたいつもの調子で笑うとフランの肩に手を置く。
「・・・悪友ですか?趣味が悪い事ですね」
筵の手を思春期の子供のように振り払ったフランは、そう言うと筵から顔を背けるように立ち上がる。
「私はちょっと寝ますから、勝手に計画でも進めててください」
そう言うとフランはテーブルを離れ、倉庫の奥に置かれたソファーの元へ向い、背を向けた状態で寝転がった。
「じゃあ、てふてふ詳しい話を聞こうかな?」
蝶蝶の調べた情報によると、呪いの被害者の少女を研究資料として捕らえているのは能力者協会側の能力について研究しているグループであるとの事で、フランがその存在を知らない様子だったことから、同じ研究員の間でも情報が秘匿されている事が推測できた。
「なるほど、また能力者協会か」
「ええ、それもどうやらこの人が大きく関わっているみたい」
蝶蝶はそう言って写真を取り出す。それは隠し撮りされたような写真で、その中には白い学生服を着た中々に容姿の整った男の姿が映っていた。
「なるほどこの人か」
「研究員から逃げる時に執拗に追いかけてきて、結構強かった奴なんだけど筵知ってるの?」
「ああ、最近見かける機会があって調べたよ」
筵は少し前、ワープホールの機械を破壊した時、最後に増援として出たきた者達の中の1人を思い出す。
「確か日本で6番目に強いって言われている能力者で名前が斎賀天理くんだったかな?僕達世代の能力者では間違いなく最強と言われていて、学園に通う事が禁止され、能力者協会の命令で色々な任務に就いているって話だよ」
「そんな奴がなんでそこに?」
蝶蝶が不思議そうに首を傾げる。
「さあ、斎賀くんが実験を命令しているのか、ただ護衛していたのかはわならないし、たまたまそこに居ただけなのか、中々の割合で実験に立ち会っているのかも不明だね。ただ、その子を助けるなら、彼が邪魔してくると考えた方がいいかもしれないね」
そして、その様に推測した筵は蝶蝶と共に、それらを考慮した宮前孵を助け出すための作戦を立て始め、蝶蝶が侵入したことにより、移動された恐れがある彼女の居場所を特定する事などを含めた、一通りの計画が立て終わる頃には既に時刻は深夜の12時を回っていた。




