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冬の初めに平常授業 4

 「まあ、何はともあれこれを見てよ。・・・ワタシは実際にその子に会った訳では無いけど、忍び込んだ先でこんな物を見つけたんだ」


 蝶蝶は筵の返事を聞くよりも先に、数枚の資料を取り出し、筵へと手渡す。


 「これはなんだい?」


 「・・・」


 筵の問に蝶蝶は無言で、"まずはそれを読んで"とばかりにその資料を指さすと、それ以上はなんのアクションも起こしてはくれず、そのため仕方なく、筵は流されるままにその紙に目を落とす。


 宮前(かえり)前衛的前衛の背後霊アンチェインド・ゴーストに関する研究結果。


 資料の最初のページにはそのように書かれていた。


 恐らくこの宮前孵という子が蝶蝶の言う呪いの被害者で、前衛的前衛の背後霊アンチェインド・ゴーストというのが被害の名前なのであろう。


 そう推測した筵は更にページをめくり、内容を確認する。




 前衛的前衛の背後霊アンチェインド・ゴーストは我々が保護している盲目の少女、宮前(かえり)の異能力であり、その名の通り、前衛芸術作品のようなサイケデリックな色合いをした生命体?です。


 前衛的前衛の背後霊アンチェインド・ゴーストはおそらくは、自身の主である宮前孵の意志とは無関係に動いていて、彼女を守る事を最優先とした自律的な行動をとると同時に最適な形状へとその姿を変化させます。


 そして、それは宮前孵に何らかの危険が迫った時に実体化し、それ以外の時は姿を暗ましています。


 さらに特質すべきところとして、前衛的前衛の背後霊アンチェインド・ゴーストは異能力であるにも関わらずエネルギーの枯渇がなく、無尽蔵に活動し続けることが出来ます。


 実験記録1、実験室の椅子に腰掛けている宮前孵に対して、拳銃を発砲する。


 結果、人の形を取った前衛的前衛の背後霊アンチェインド・ゴーストにより銃弾は受け止められ、その後拳銃を発砲した研究員を殺害する。


 実験記録2、密閉された部屋に宮前孵を閉じ込め、毒ガスを散布する。


 結果、宮前孵を覆う繭の様な形の前衛的前衛の背後霊アンチェインド・ゴーストが出現する。その後、どんどんと肥大化し、やがて繭から触手状のものを生やし、その触手を用いて毒ガスを散布する装置を破壊する。


 実験記録3、ハーベストにより破壊され、汚染された原子力発電所の跡地に宮前孵を放置する。


 結果、宮前孵の周りに繭のような形の前衛的前衛の背後霊アンチェインド・ゴーストが出現、特殊な器官を用いて周囲の空気や土地の除染を行うととも、枝分かれした無数の蛇のような形の前衛的前衛の背後霊アンチェインド・ゴーストが汚染の原因物質を特定、捕食する。また原因物質を捕食したにもかかわらず、繭の内部の空気は非常に安定した状態を保ち続けていました。


 その後の調査の結果、前衛的前衛の背後霊アンチェインド・ゴーストによる報復の有無には、その者が宮前孵に対して感じる敵意や殺意、あるいは劣情に起因していると判明しました。


 また、宮前孵のいる実験室から数十キロ離れた場所に前衛的前衛の背後霊アンチェインド・ゴーストが出現した事例も確認されています。


 以上のことから、大変に危険な要素は孕んでいますが、無尽蔵のエネルギーの研究資料としての価値や除染や実戦への投入などの利用が期待できます。


 報告は以上になります。



 

 ほかにも色々な非人道的に思える行いの数々が書かれていたが、大事な所をまとめると、その資料にはだいたいそのような事が書かれていた。


 筵はその資料を一旦机の上に置き、小さくため息をつく。


 「・・・まず先にてふてふに言っておくよ。今回、僕はてふてふに全面協力したいと思っているんだ。それを踏まえた上で聞いてほしい」


 「うん、なにかな?」


 「てふてふは彼女を助けて、それから面倒を見る事は出来るのかい?この資料には、その子は目が見えないとかいている。おまけに、こんな呪いも有してしまっている。・・・今回の事が捨て犬を拾って来て、ワタシが面倒見るから飼っていい?なんて事ととは訳が違うことは分かっているだろう?」


 「・・・」


 「・・・それにここに書かれていることは確かにえげつない感じだけど、この前衛的前衛の背後霊アンチェインド・ゴーストという能力のおかげで彼女には直接的な被害はほぼゼロだ。それにプラスで衣食住が揃っているなら彼女にとってそこは安住の地なのかも知れない。それでも助けたいのかい?」


 「確かにそう言われると・・・そうですね〜」


 「・・・まあとは言っても、もちろん、拘束されて自由を欲している可能性もある・・・彼女が逃げたいと思っているのか、ずっとそこに居たいと思っているか、それすら考えられない精神状態なのかは僕たちには知るよしがない。だから助けるのはそう言った事をしっかりと考えてからでも遅くないんじゃないかな?」 

 

 「・・・うーん、なるほど」


 蝶蝶は少しだけ声のトーンを落しながら呟く。

  

 「うん、でも何はともあれ今回の僕は全面的に君の味方だから、君があちら側の事情なんて関係無しにその子を助けたいと思うのならもちろん手伝うよ。・・・まあ、それも踏まえて少し考えて欲しいな、それまでこの場所は自由に使っていいからさ」


 筵はそう言って、何時もより少しだけ優しい半笑いを向けた。

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