冬の初めに平常授業 3
それから、人生ゲームにて宇宙主義が無事に勝利を収めるまで、5、6回プレイを繰り返し、パーティがお開きになる頃にはすっかり日が傾き、外は真っ暗になっていた。
筵は皆と別れると、ケーキとオードブルの残りを持って、恒例の倉庫へと向かう。
しかし、その道中、筵はある異変に気づく。
誰かに跡をつけられている。筵はそう確信し分析をはじめる。
まず技術に関しては上手くはない、だが足音等がせず、下手という訳でも無い。
もしも、そいつがハーベスト教団や能力者協会の刺客で、本気で尾行をしようと思っていたら、自分がこんなに簡単に気付けるはずがない。
しかし、だからと言ってそれらの刺客の可能性も捨て切れる訳では無い。
「仕方ないか」
筵はそう呟くと、追っ手に気付かないふりをしたまま歩き、同時に万年筆型の魔剣サンスティロを手元に呼び出して、微量の血をあらかじめ与えておく。
そしてそいつが少しだけスピードを上げて、自分に近づいて来ている事を雰囲気で察した筵はサンスティロを追跡者向けながら振り返る。
「誰だい?」
「だーれだ?・・・ってえっ?」
一端、空気が硬直する。
そして、サンスティロを向けられた追跡者の少女は軽く両手を挙げて首をかしげている。
その少女は仮面舞踏会で付ける蝶のアイマスクの様なもので目元を隠していたが、その正体は明らかであった。
「こんばんはてふてふ」
筵はその少女が、元ハーベスト教団の能力者幹部にして、一般的に言われる能力とは袂を分かつ異能、"呪い"に侵された被害者、星宮蝶蝶であると確信し、サンスティロを収納すると、いつもの半笑いで挨拶をする。
「てふてふ?それは誰です?ワタシは自己愛の怪人、3つ指輪の男ですよ。ほらほら」
少女はそう言うとこれ見よがしに自身の左手薬指の3つの指輪を見せ付けてくる。
「・・・まさかその格好で暴れ回ったり悪事を働いたりとかしたかい?」
「いや。そんな事はしてませんよ?ワタシはただ自分の為に能力者協会や教団にカチコミに行っただけだよ」
「なるほどね」
どうやら蝶蝶は、未来祭の思惑を正しく汲んでしまったようで、3つ指輪の男の名を借り、自分の為に何らかの活動をしているようだった。
「まあ、いいか。とりあえず今から隠家・・・のような場所へいくのだけど、一緒に来るかい?何か話があるならそこで聞くよ」
「いやー、さすが筵。話が早い」
筵の問に対して蝶蝶は仮面を外すと笑顔でそう答える。
そして、共にフランの待つ倉庫へと向かう。
「所でてふてふ、次に会う時は僕のピンチに駆けつけてくれるんじゃなかったのかい?」
「いやいや実はワタシは先程、"だーれだ?"で背後から筵の目を隠して、そのまま首掻き斬ってやろうと思っていたのです?つまりワタシは筵のピンチに駆けつけたと言えない事も無いのです」
「なるほど原因と結果の順番がおかしい気がするけど、まあいいか」
「ちょっと何で、この人を連れてきてるんですか?」
フランは机を挟んだ真正面で、筵の持ってきたオードブルとケーキを食べている蝶蝶を見ながら、横に座る筵に尋ねる。
「何か話したい事があったみたいだし、立ち話もなんだと思ってね」
「いや彼女がもしも、まだハーベスト教団と関わりがあるのだとしたら私の命が危険なんですよ。わかりますか?」
フランの問に腕組をして少しだけ考える筵。
「・・・うーん、まあ、大丈夫でしょう?この前千宮司さんも、てふてふがいなかった的な話をしてたし、ねぇ、てふてふ?」
「ええ、らいじょうふでふ。んん。あの事件以来ずっと逃亡してるからね。・・・それで筵、そっちの人は?」
蝶蝶は口の中のケーキを呑み込み、そう答えるとフランを指して尋ねる。
そんな嘘をついている様子の無い蝶蝶を見た2人は、お互いに顔を見合わせる。
そして、それでも渋っているフランが筵に押し切られる形で、フランが蝶蝶と同じく元ハーベスト教団の茶川風土であることを明かした。
「なるほど、この子があの茶川さんかー、人ってのは見ない内に結構変わるものなんだねー。前あった時はこんなに大きかったのに」
フランの姿を隅々まで観察した蝶蝶は、やけにあっさりと納得し、腕組をしながら数回頷く。
「じゃあ僕達の事は話したし、次はてふてふの事を聞かせてくれないかい?僕に会いに来た理由とか、どうして"3つ指輪の男"を名乗っていたかとか」
「うん分かった・・・でもその2つの議題というのは結局のところ1つの話に収まってしまうんだよね」
蝶蝶は最初にそのような前置きを言い、続けて語り始める。
「ワタシが色々な所を調べて回ってたのは理由がある・・・それは・・・何処かで研究資料として捕えられているという噂のあるワタシたちと同じ"呪いの被害者"を助け出すためなんだ。そして、ワタシは筵にその手伝いをしてほしいと思っている」




