冬の初めに平常授業 2
「では、次は我々ですね。我々の用意したプレゼントは世界の半分です」
「「・・・」」
「魔王ジョークです」
宇宙主義は少し顔を赤らめながら、そう言うと手を前に出す。
すると手元に銃のような形の輪郭が現れ、ピンクがかった銀色でシャープな形をした拳銃が現れる。
「貴方は強くなりたい様だったので、我々からはコレを」
得意げな様子で語った宇宙主義は、銃口を自分の方に向け、その銃を湖畔に差し出す。
「な、何ですか、これは?」
確かに湖畔は遺跡の奥に刺さっていた聖剣に"力が欲しいか?"と問われたら、"はい"と答える位にはそれを欲していたが、誕生日プレゼントでまさか"力"が貰えるとは思っておらず、思わず言葉を詰まらせる。
「これはキューピッド。脅威度Bの単体兵器です」
「へー、結構可愛い名前と色だね。・・・ん、脅威度?」
言葉を詰まらせている湖畔に代わり、譜緒流手がそれを隅々まで観察し質問する。
「ええ、脅威度とは文明力と効果範囲の平均の値です。この場合、文明力がAクラス、効果範囲がCクラスと言った感じです。ちなみに熱核兵器は文明力がDクラス、効果範囲がSクラスなので脅威度は同じくBとなりますね」
さらっと核兵器と同じくらいの兵器を湖畔に渡そうとしているが、その銃の綺麗で可愛らしい見た目のせいでその事はそこまで気にならず、湖畔は流されるままにその銃を受け取る。
「その銃、キューピッドは分かりやすく言うならワープ銃という感じです。引き金を引くことで、エネルギーの結晶体が発射され、銃口を出ると同時に相手の心臓の中心に直接転送されるという仕組みになっています。ああ、安心してください。ガイド機能も付いているため初心者でも外すことはありませんから」
宇宙主義の話を聞いた一同は唖然とする。
「あ、ありがとうございます。機会があったら使わせて貰います・・・」
「最後は僕かー、いやー、さっきのがインパクト強過ぎて見劣りしちゃうよ。・・・はいどうぞ」
最後のプレゼントとして筵が湖畔に渡したものは、恐らく納豆をモデルに作られた謎のゆるキャラのぬいぐるみであった。
その大きさは50cm程もあり、一般的なUFOキャッチャーで手に入るものとは2回りほど大きく感じられた。
「ありがとうございます。筵先輩」
「そういうのが、見当たらなかったから手作りしたんだ。大切にしてくれよ・・・まあ、ポリたんとは少しかぶってしまったけどね」
筵は後半、少し小声になりながら言う。
そして、今までのプレゼントの中で一番嬉しそうにしている湖畔を見て嫉妬した他のZクラスの生徒たちから、"手作りとか気持ち悪い"などの批判を受けながら、プレゼントタイムは終了となった。
「もう1回、もう1回です。我々が負けるなんてありえない。・・・さては筵、あなた何かしましたね?我々には回転数の演算をするなと言っておいて、あなたは何かズルをしていたのでしょう?」
Zクラスの教室内にだだっ子のような事を言う、宇宙主義の声が響く。
あれからまた数十分が経ち、一同はそれぞれ、テレビゲームや携帯ゲームの協力プレイなどで遊び始めていて、その中で、宇宙主義、筵、湖畔、淵、そして笑は人生ゲーム"縮図"をプレイしていた。
その中で宇宙主義は、ルーレットを回す時、力加減を計算し出目を操作することを禁止されていた。
それでも宇宙主義は最初は何時ものように自信満々にそれを了承していたのだが、1回戦、2回戦を終えて共に大敗してしまっていた宇宙主義の機嫌はみるみる悪くなっていた。
その時。
♪♪♪。
宇宙主義と笑の携帯電話が警告音のような音を五月蝿いくらいの音量で鳴らし始める。
「五月蝿い」
ピタ。
「さあ、続きをしましょう」
宇宙主義は自身の能力を駆使し、自分と笑の携帯電話の音を止める。
Zクラスのメンバーにはあまり馴染みが無いが、その警告音とは、ハーベスト出現による出動要請であり、よほどの理由がない限り、それを拒否する事は出来ないルールになっていた。
そして、この学園のある近辺では警報がなっていないことからハーベストが出現している場所は少なくとも数kmは離れた場所であると推測できた。
「ダメっすよ。ポリたん。行かないペナルティがあるっすよ」
「ペナルティなんてどうでもいいです。今はこちらの方が重要です」
宇宙主義の手を引っ張り、連れていこうとする笑だったが、宇宙主義はどうあっても席を立とうとしない。
しかし、それからも根気強く自身を説得する笑に根負けしたのか、宇宙主義はため息をもらし、その後、口を開く。
「・・・分かりましたよ。その前に我々はトイレに行ってきますので待っていてください」
妙にあっさり諦めた宇宙主義はZクラスを出て行く。
「・・・」
筵はそんな宇宙主義の行動を怪しく感じ、淵や湖畔が笑に対して"気を付けて下さいね"などと言葉をかけている中、宇宙主義の後を追ってZクラスのドアをそっと開ける。
するとそこには、窓の外を眺めながら自身の両方のコメカミのあたりに人差し指を当てている宇宙主義の姿があった。
その様子を確認した筵は、何時もの半笑いを浮べながら、ゆっくりとドアを閉める。
そう、宇宙主義が何処かと交信していた。そして、その理由は明確であった。
それから数十秒後、宇宙主義は何事も無かったように教室へ戻って来て、もといた場所に腰掛ける。
「さあ、ポリたん行くっすよ」
「ああ、それなんですけど、今、携帯電話で調べたら、どうやら行かなくても良くなりそうなんですよ。・・・カトリーナちょっとテレビいいですか?」
宇宙主義はカトリーナの許可を得ると、能力でチャンネルを変更する。
「大変なことが起こっています。皆様、ご覧いただけているでしょうか?ワープホールから現れた龍型ハーベストの大軍と、突如、上空から現れた無数の小型飛行物体、そして巨大な二足歩行の何かが交戦しています。生物のようにも機械のようにも見える、あれは一体何なのでしょうか?」
テレビには緊急ニュースの映像が映され、カメラに向かって状況を語るキャスターの後ろには、龍型ハーベストの大軍を圧倒する小型のUFO、そして二足歩行の半機械の化物が映し出されていた。
「ポリたん、あれは何かな?」
「"嚥下"という半機械の生体兵器です。脅威度でいったらSクラスなのでアレに任せておけば問題ない筈です。ああ、ちなみに何の略でも無いのであしからず」
宇宙主義は筵にだけ聴こえるようにそう言うと、仕切り直すように手を叩く。
「さあ、そんな事より早く続きをしましょう?」
それから龍型ハーベストが掃討され、飛行物体と半機械の二足歩行の化物が空へと帰って行ったと言うニュースが流れるのに10分も掛からなかった。




