冬の初めに平常授業 1
日室刀牙の2本目の聖剣覚醒、3つ指輪の男の事件、矢式凛の再びの転校。
学園内で、それらの話題についての盛り上がりが収束して来たのは、ついに暦が12月へと突入して寒さが本格化し、そろそろ暖房器具のお世話にならなければ平常授業も手につかなくなる位の、真冬と呼んでもいい時期での話であった。
そして、その暖房器具1つ取っても上位クラスとZクラスでは質に大きな違いがあり、Zクラス以外の全クラスは総じてエアコン完備なのに対し、我らがZクラスは、配管が教室の上の方へと繋がっているタイプの石油ストーブが未だに使われていて、ストーブの周りの地面には色が付いたテープで進入禁止エリアが定められていた。
現在の時刻は全ての授業が終了し、少しだけ時間が経った3時50分。
本来なら皆、帰宅を始めている時間にも関わらず、ストーブのカリカリという音が木霊している教室内ではZクラスのメンバー+宇宙主義と笑のコンビが教室の中心の、机をくっ付けて作られた大きなテーブルの回りに腰掛けていて、机の上には、いくつかのお菓子やオードブル、そしてケーキが置かれていた。
「「湖畔くん誕生日おめでとう!!」」
「あ、ありがとうございます」
と教室内に拍手とともに皆の声が響き、今回の主役である湖畔は恥しそうにしながらも、笑顔でそれに応える。
それから、ロウソクの火を吹き消すというお決まりの流れを経て、それぞれ談笑しながら食事に手をつけ始める。
「ポ、ポリタンさんは、あの・・・大丈夫なんですか?その・・・食べても?」
何食わぬ様子で、何かを食らう宇宙主義を見た湖畔は、事情を知らない笑の存在を気にしつつ尋ねる。
「ええ、内部に食物や燃料からエネルギーを抽出する機構が備えられていますから平気です。・・・まあ、そうですね、この国の人物にとって一番わかりやすい説明をするならば、猫形ロボットと同じ原理ということですね」
「わ、分かりやすいですね」
最初にあった時と違い宇宙主義の身体は、節々の機械らしい部分が無くなり、どう見ても人間にしか見えなくなっていて、その上食事まで出来るとなると、本当に宇宙主義が機械であると見分ける術は無いなと、湖畔は宇宙主義の身体を見ながら思う。
「なんすか?ポリタンの身体が何なんなんすか?」
湖畔と宇宙主義の間に座っていた笑が食べ物を口に入れたまま、特ダネの匂いを嗅ぎつけたか、前のめりになって尋ねる。
「ええ、我々の身体には食物から栄養を抽出しエネルギーに変える機構、つまり、胃と腸があるという話をしたんです」
「なんでそんな当たり前のことを?と言うか、無い方がおかしくないっすか?」
「・・・そうです。そんな者が居るとするなら宇宙人か機械とかでしょう?そんなものがそこら辺に簡単に居るはずないのですから、笑さんが気にする必要は無いんですよ」
宇宙主義は笑の疑問をそのように一蹴し、再びエネルギーの補給に取り掛かる。
「さあじゃあ皆、そろそろ今回のメインイベント。プレゼントタイムと行こうか?」
パーティを初めて数十分間が経ち、そろそろ頃合になったと感じた筵は手を打ち鳴らし、そう切り出す。
「じゃあ最初はウチから、どうぞ受け取って下さい」
「ありがとうございます。カトリーナさん。えーと、これはなんですか?」
「ん?シューティングゲームだよ?それで一緒にオンラインして、調子に乗ってる小学生をボコろう」
「ボ、ボコる?」
包装紙に包まれた長方形で比較的薄い物を渡された湖畔は、少しだけ動揺した様子を見せる。
「馬鹿だな、カトリーナ、湖畔くんはそういう人と競う系のゲームはしねーよ。ほら、あたしからはこれだ受け取ってくれ」
続いて、梨理がカトリーナの頭を数回軽く撫でながらそう言うと、6冊ほど束になって透明なシートに入っている漫画を手渡す。
「あたしセレクトの面白い漫画の第1巻詰め合わせだ」
そう語る梨理は得意げな様子であった。
しかし、その漫画のラインナップを見た譜緒流手はため息を1つもらし、異論を唱える。
「梨理は分かってないな~、湖畔くんはデスゲーム系とかグロイシーンが有るのは読まないよ。ちょっと自分の趣味を押し付けすぎだよ」
「って譜緒流手、そう言って渡そうとしている、その洋楽のCDは何だよ。湖畔くんそんなの聴かねーからな」
「これをきっかけに好きなってもらえばいいし」
「それならあたしもそうだから」
譜緒流手と梨理は立ち上がりお互いの主張をぶつけ合う。
「ちょっと、二人とも止めなよ」
それを見兼ねたれん子が仲裁する為に二人のあいだに割って入る。
が、しかし。
「「れん子のその服が一番無いから!!」」
さっきまで口論をしていた2人は共通の敵の前に一致団結し、れん子の持つ昭和のアイドルが着ている様なお洒落な服を指差す。
「そ、そんな」
二人に指摘され意気消沈するれん子。
「はあ、先輩方は皆、湖畔くんの事を無視しすぎです」
自分の趣味のものを選び、尽くプレゼントに失敗するZクラスの他のメンバーを見て、淵が最後の砦として立ち上がる。
「プレゼントとは本来その人の喜ぶものを贈るものなんですよ。湖畔くんの好きな物と言ったら納豆と歴史ですからね。納豆はアレなんで歴史に関するものを選びました」
「あ、ありがとうございます」
湖畔は淵にお礼を言い、手渡された紙袋を開ける。
"せつない偉人図鑑"。そこにはそう書かれた本が入っていた。
「・・・嬉しいです。本当にありがとうございます」
湖畔はおそらく誰にでも分かるくらいに一瞬だけ固まり、それから立て直すように淵に笑顔を向ける。
「おい淵、分かってると思うけど、湖畔くんあれ持ってるみたいだぞ」
「・・・言われなくても分かってます」
「それにちゃっかり自分の好きな要素も取り入れてるし」
「それも分かってますから・・・」
Zクラス1の常識人と呼べる淵もプレゼント選びに失敗し、それを梨理、譜緒流手に指摘されがっくりと肩を落とす。
「で、でも、気持ちだけでも本当に嬉しいですよ」
「うん、ありがとね。でもその優しさが今は辛い」
湖畔の必死のフォローも虚しく、淵は自身の読みの浅さにさらに落ち込んでしまう。
そんな少しだけ重い空気の中、笑は自身のプレゼントの封筒をカバンから取り出し、おもむろに立ち上って湖畔の元へ行き、小声で話しかける。
「椎名くんの好きな物、というか者、もう1つだけあると聞いてますっすよ。どうぞコレを、数は少なかったっすが、出来るだけカッコイイのを用意しました」
「あ、ありがとうございます。何ですかこれは?」
湖畔は手渡された封筒を観察しながら尋ねると、笑は何も言わずに"封筒から中身を取り出せ"という趣旨のジェスチャーをする。
それを見た湖畔は恐る恐る中身を取り出し、それを少しだけ確認し、疚しいものを隠すように、直ぐにまた封筒にしまう。
「・・・ありがとうございます」
「ご使用は計画的にっすよ?」
湖畔と笑が何か密約を交わすようにコソコソとしながら笑い合う。
「え?なに!100万円でも入ってたの?」
今までの、どのプレゼントよりも嬉しそうに笑う湖畔を見た譜緒流手は驚きながら訪ねる。
「そ、そんな感じです」
「「・・・」」
一同は湖畔の返答から、入っていた物が100万円と同等の価値のもの、或いは100万円が入っていたと思われた方が好都合なものであると察し、驚愕すると共に、湖畔からプレゼント部門での今日一の"ありがとう"を引きだした笑がこの時点でのプレゼント王暫定1位となった。




