テロ事件、後日談
数日後。
能力者協会が襲撃されたら事件は、ニュースやネットで報道され話題になっていた。
事件の内容については、テレビ、ネット共に隠蔽されること無く報道されていたのだが、やはりと言うべきか、テレビではワープホールの装置の不具合については極力少なめに報道され、コメンテーターなどからはテロリストの強行についての否定的なコメントが目立っていた。
一方でネットではテロ事件の犯人である"3つ指輪の男"の多重人格のような独特の喋り方と雰囲気が話題となると同時に、もしかしたら、ワープホールの危険性を知った上でその行動をとったのではないかと、英雄視する声も上がり、すでにグッズを真似して作るものも存在してた。
因みに、最初に公開された"3つ指輪の男"の映像は何者かにより匿名でネットにアップされたもので、その再生回数は聖剣、魔剣、能力者同士の戦いも見れることもあり、あっという間に数百万を超えた。
そして、その事件は笑と宇宙主義の新聞により、学園でも中々に流行ってしまい、刀牙や学友騎士団の新たな失態として学園を駆け巡ってしまうのではないかと危惧していたが、実際は刀牙が生み出した新しい聖剣と"3つ指輪の男"のインパクトに周りの目は行き、意図的かそうでないかは分からないが論点は見事にずれてしまっていた。
そんな噂の真っ只中、筵が学園の廊下を一人で歩いていると、背後から声がかけられる。
「あの"3つ指輪の男"ってあんたでしょ?」
「ん?なんのことだい藤居さん?」
筵はゆっくりと振り返り、珍しく一人で行動しているかぐやを何食わぬ顔で見る。
「最近話題のあの変な奴よ。みんな多重人格だの言ってるけど、あれ普通にあんたでしょ?」
「あ~、またその話かい?さっきまで、Zクラスの子達にも雰囲気が何となく似てるって散々冗談を言われていたよ」
「・・・しらを切るつもりね?」
「いや、しらを切るも何も証拠はあるのかい?藤居さん」
「身長、身体付き、主張辺りかしら、それにあんた、凛の親にあの装置の説明を受けてたんでしょ?ワープホールの概要について知っていた数少ない人物だわ」
「なるほどね。でも確かネットでは前々から政府がそう言う装置を開発しているって噂があったよね?それにプラスでワープホールの新技術、なんて言葉を、例えばハーベスト教団の人が聞いたとしたら、あんな感じの装置が開発されているって想像できるんじゃないかな?」
筵は秘密の暴露に気をつけながら、淡々と述べていく。
「それに残念ながら、僕にはアリバイがあるんだ。その事件があった日は駅の近くのショッピングモールで朝はゲームセンター、昼頃から夕方にかけてはボーリングをしていたよ」
「へー、1人で?」
「ああ、1人で。・・・だから証人は居ないけど監視カメラとかには映っているんじゃないかな?」
「・・・ボーリングのスコアは覚えてるの?」
「ああ、確か187、193、178、202だったっけか?」
「・・・よく覚えてるわね。不自然な位に」
「知っているだろ?僕は記憶力がいいんだ」
筵は表情だけは得意げな雰囲気を出しつつそう言い切った。
しかし内面では、祭に協力して貰い、自分自身がZクラスの子達を誘って一緒に遊んだ方が自然だったと、今更にして思い、少しだけ後悔の念を感じていた。
だがこの言い訳は、仮にも表面上では完璧に見繕えていたため、かぐやは疑いつつも、引き下がる。
そして、その様子を見た筵は再び質問される前に、すかさず、喋り続ける。
「何にせよ、許せない奴だよね。"3つ指輪の男"だっけ?例えどんな理由があったとしても、暴力的な手段に訴えるの何て、きっと性根の腐った相当なクズに違いないよ。ネットなんかで持上げられて調子に乗らなければいいけどね」
「本気で思ってる?」
「ああ、もちろん」
嘘偽りなどない言葉と態度でかぐやの質問に答える筵。
その彼の態度と言動は本当に嘘偽りが無いからこそ出来たものであると言えた。
「もう、いいわ・・・ああ、そうだ。そう言えば凛がまた転校する事になったわよ。今回の事件でお父さんが転勤になっちゃって、それについて行くんだって、今度は自分でそう決めたみたいね」
「うーん、察するに日室くんが何か言って、あの家族を仲直りさせたんだろうね。全く名人芸としか言い様がないよ」
「・・・あんたはそれでいいの?」
「ん?良いも悪いもないよ。彼女がそう決めたなら尊重するしかないだろ?・・・それに8年前、いやその更に前から僕には、彼女のヒーローである資格なんてないんだよ」
いつもの半笑いのままそう言った筵は、それから数秒開けて、再び語り始める。
「皆勤賞は皆勤でなくては意味が無く、1度失敗した者には何の賞も与えられない。100%という数は1度でも負けたり、間違えたりしてしまったら、二度と100という数字に戻る事は出来ない。僕はそういう事に悲しみを覚え、そうなってしまった途端にすべてがどうでもよく思えてしまう、そんなどうしようも無い人間なんだ・・・と彼女に伝えて欲しい。なにせ僕には直接会ってサヨナラを言う権利なんて無いからね」
「・・・それだけでいいのね・・・」
「ああ~、じゃあもう1つだけ、もし暇があったら"超次元勇者ブレイブスリー"と言うアニメの第3話を見るように言ってくれないかな?そこに彼女の信じていたハリボテの正体がある。それを見れば、きっと彼女は自分の気持ちにケリをつける事が出来ると思うからさ」
「・・・"本当"にそれでいいのね」
「ああ、よろしく頼むよ」
かぐやは筵の返事を聞いてからも、数秒間、筵の顔を見ていた。
「分かったわ、伝えとく」
しかし、筵の答えが変わることは無いと悟ったかぐやは、ため息混じりにそう言うとそれからは何も言うこと無く、振り返り行ってしまう。
そして筵は、歩き去るかぐやが角を曲がって見えなくなるまで見送ると不意に口を開く。
「あの約束の言葉は、当時好きだったアニメの、好きだったキャラクターの台詞を言っただけなのだけど・・・まさかそれが此処に来て、僕を苦しめることになるとは・・・はあ、また1つ得難き教訓を得てしまったね」
そう呟き筵は昔の事を思い出す。偽物と本物の入り交じった若き日の約束を。確かにあった憧れを。
そして、それらを一頻り鑑賞し、かき集めて、まるでタイムカプセルでも埋める様に、記憶の奥底に置き去りにした筵は、数年後、あるいは数十年後の自分へとそれを託し、学園の廊下をかぐやの向かった方向とは反対に歩き出した。




