テロ計画で休日を・・・ 6
それから2人は数回、魔剣と聖剣をぶつけ合い、その後、一旦距離を取るために、お互いに後退し数メートルほど離れた位置に立つ。
「□□□□□□□」
刀牙は自身の聖剣、叢雲写しを再び構えると、侵略を仕返すという事には自分も疑問を憶えるが、それでも筵たちが取った行動は間違っているという趣旨の発言をする。
そのあまりに彼らしい、真っ直ぐ過ぎるお利口な言葉を受け、筵は仮面の中で顔を少し引きつらせながらも、関心にも似た感情を同時に憶える。
しかし、それは筵の心を変えさせるほどのものでは、当然なかった。
「君が僕にどんな言葉を吐くのか、少しだけ楽しみだったけれど、予想通りと言うか、なんと言うか。まあ、そう来るだろう・・・って感じだね」
「□□□□□□」
「ん?どういう意味もなにも・・・おっと、いけない。僕とした事が・・・」
なかなか無い状況に少しだけ舞い上がり、自分が身分を隠しているのを忘れた様な発言をしている事に気づいた筵は、後半、小声になりながら自分を戒める。
そして、自分が本田筵だと疑われない為に、ある人物を装い、更に祭がやっていた様に3つ指輪の男の特徴である、定まっていない一人称を遵守する。
「どういう意味って、そりゃあ、私が君をその生き方へ導いてしまったんだから、分かるに決まっているだろう?」
筵はそう言い首を傾げると、続きを話し始める。
「君はきっと、仲間を、世界を、そして自分を守れてきたのだろう。だから、そんなにも真っ直ぐで居られた。だが、これからもそう上手くいくかは分からない。例えば、それは今日で終わりかもしれない」
今の筵は髑髏の仮面を付けているものの、着ているマントは筵が子供の頃の刀牙を助けた時と同じものであり、さらに筵が言った「仲間を世界をそして自分を・・・」という憧れの人と同じ言葉。
刀牙はそれら2つを加味することで、目の前の人物が命の恩人であり憧れの人であると気づいてしまう。
「□□□□□□□」
「残念だけどそれは違う。俺はこの装置のせいで異世界がどうなろうと一向に構わないと思っているし、これが欠陥だらけの代物で、いつ事故が起きてもおかしくなかったという事も、これを破壊したかった本当の理由の大義名分に過ぎない。俺がこれを破壊したかった理由は、もっと自分勝手で、世界がそれを認めないような、超個人的なものさ」
驚愕しながらも、筵を庇う様な発言をする刀牙に、筵は堂々とした態度で現実を突きつけると、殺心ノ剱を構え、すかさず間合いを詰めて刀牙へと斬り掛かる。
そして、この時点で筵は察した。この、祭により仕組まれたであろう演出の意図を。自分自身の役割を。
そうして再び剣を打ち合う2人だが、動揺によるものか刀牙の斬撃は明らかに先程よりも軽くなっていて、さらに数回の打ち合いの末、筵は剣を持った刀牙の腕を剣ごと上へと弾き飛ばし、それにより生まれた隙をつき、鳩尾に蹴りを加える。
「□!!」
刀牙は一瞬苦しそうな声を上げたものの、すぐに態勢を立て直し、少し下がった所で筵を睨み返す。
「少年、君には荷が重すぎた。私程度に勝てない者がどうやって世界を守る?君も私の様に止めてしまえばいい。その力は自分の為だけに使えばいいんだ。・・・確かに世界の平和はとても大事な事だ。だが、それは一番ではないのだから」
そう言って、少し離れた所にいる刀牙へ手を差し伸べる筵は、そのまま黙って刀牙の返答を待つ。
その時。
「刀牙!!」
「日室!!」
ようやく、パーティ参加者たちの波を退けたスチュワートと学友騎士団3年、海堂が壇上へと駆け付け、それぞれ聖剣と能力を用いて筵に襲いかかる。
しかし、スチュワートの聖剣、ガラドボルグによる雷と海堂の能力により生み出された気で作られた魔人は寝首掻きの一刺しにより消滅する。
そして、2人は攻撃が突然消されるというあまり経験したことがない感覚により、生じた隙をつかれ、逆の手に持っていた殺心ノ剱で斬り捨てられる。
「へぇー、流石は学友騎士団だ」
筵は先程の黒服たちにしたのと同じ要領で斬ったはずであったが、スチュワートと海堂は跪いてはいるもののしっかりと意識を保っていた。
「この殺心ノ剱は文字通り心を殺す剱。そして能力は心に宿る。故に心を殺す事は能力を殺す事なんだ。・・・ああ、でも安心してくれ、峰打ちにしておいたから一日もすれば戻るだろうし、今、君たちが感じているであろう倦怠感も直に消えるはずさ」
「まさか、そんな・・・」
筵の言葉を聞き、スチュワートは能力を発動させようとするが、その言葉通りに不発に終わってしまう。
「僕は僕の為に人を殺さない。そう決めている。しかし、自覚するんだ。この2人は君のせいで、今、死んだかも知れないという事を」
筵はそう問題を提起し、殺心ノ剱の剣先を少し離れた所で立つ刀牙へと向けた。




