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テロ計画で休日を・・・ 5

 そして、装置からゆっくりと寝首掻きを引き抜くと、先程の床同様、不自然なくらいに呆気なく崩れ去る。


 しかし、会場に集まっていた者達は、突然起こった一連の出来事に理解が及ばずにいる様で、危ないかも知れないとは分かっていても逃げる様子はない。


 「あれ、おかしいな。ここでパニックが起こって、会場の収集が付かなくなるっていう筋書きだったんだけど?」


 筵は首を傾げながら、死に対して鈍感でことなかれ主義な者達とほんの数秒の睨めっこをしていると、ようやく主催者である矢式格が焦った様子で髑髏の仮面の男を指差し、声を荒らげる。


 「な、何をやってる、早く取り押さえろ!!」


 その声により、舞台の横にいた黒服の警備員たちはようやく自身の職務を思い出し、それぞれ能力を発動させながら筵に襲いかかる。


 「そうそう、それで良いんだよ。おっと、これではまずいか」


 右手に持った寝首掻きを見て呟いた筵は、すぐさまそれを左手に持ち替え、右手に白い日本刀型の魔剣を呼び出す。


 そして、敵の能力によって生み出された炎やエネルギー波などの攻撃を左手の寝首掻きで受け、無に帰すとすぐさま右手の刀で斬り掛かる。


 「この刀は殺心(さつじん)(つるぎ)と言うんだ・・・まあ、安心してくれ峰打ちだからさ」


 筵の召喚した殺心ノ剱なる魔剣で峰打ちされた警備員たちは次々にその場で跪き、激しく痛がるでも、恐怖に怯える訳でもなく、糸が切れたマリオネットのような虚ろな目でただ一点を見つめ、微動だにしなくなる。


 そして、筵は自分を捕まえようとする警備員を一人残らず斬り捨てると、再び参加者の方を向き直し、無言の圧力をかける。

 

 

 「きゃああぁーー!!」



 ようやく状況を理解してくれたようで、参加者のうちの一人の女性が叫び声を上げ、それを皮切りに、会場の参加者達は一斉にパニックとなり、人々は逃げ惑って出口の方へと流れ込む。


 「皆さん、落ち着いてください」


 スチュワートを初めとする学友騎士団のメンバーは、我先にと逃げるパーティ参加者のお偉方に落ち着いた避難を呼び掛けるのだが、彼らは聞く耳を持たない。それどころか・・・。


 「お前達、私を守るんだ。安全な所まで護衛しろ!」


 「いや、私が先だ!!」


 と、その様な事を言って、スチュワート達が、仮面の男の元に向かう事を邪魔する始末であった。


 「おおこれは、意外なファインプレーだね」


 筵は会場の出入口でのいざこざを見てそう呟くと、近くで腰を抜かしていたワープホールの開発者である大瀧に近づき、一枚の紙を渡す。


 「えっ?」


 「これは、私の協力者が書いたものです。貴女ならこの意味、分かりますよね?」


 大瀧は怯えながらも、反射的に紙を受け取り、そしてその紙に書かれた内容に目を向ける。


 そこには小さく下手くそな字で、ワープホールの装置に関する問題点が上げられていて、根本的なシステムの見直しが必要であるという結論が書かれていた。


 「こ、これは・・・」


 大瀧はそこに書かれている内容が間違っていない事を理解し、そして同時に見覚えのある癖字に驚愕する。


 そうしていると、突然、壇上に狼のマスクをつけた人物が上がってきて、放心状態の大瀧に声をかける。


 「貴女は頭も悪くないし、理解力もありましたねぇ。・・・しかし、圧倒的に発想力が、そして絶望的に科学者としてのプライドが足りない。そうでなかったら、人の発想を自分のものとして世に出す、などという屈辱的なこと、出来るはずありませんからねぇ」


 フランはいつものねっとりとした口調でそう言い、その喋り方を聞いた大瀧は目の前に現れた狼のマスクの人物が茶川風土である事を感覚的に理解し、そして完全に言葉を失った。


 「じゃあ、フランくんせっかく彼らが学園の人達を足止めしてくれているからこのスキに帰ろうか?」


 「ええ、もう一暴(ひとあば)れしたい気持ちもありましたが、まあいいでしょう」


 装置の危険性の提示と破壊という、今回の目的を完遂した2人は混乱に乗じて姿を消そうと試みる。


 しかし、そう上手くは行かなかった。


 緊急事態に駆け付けて、全てを解決する学園の英雄、正義の味方であるあの男は、今回も例外にもれずに、悪・・・と言うにはあまりに小物な男の前に立ちはだかった。 


 「□□□□□」 


 聖剣を呼び出し、筵に向かって走る刀牙は一瞬で筵との間合いを詰める。


 「はあ・・・やっぱりこうなったか。嫌だなー」


 深くため息を吐いた筵はそんなことを呟き、刀牙の斬撃を殺心ノ剱で受ける。


 しかし、嫌だと思った反面、刀牙と真剣に手合わせする事が、初めてであるという事実にふと気づいた筵は、図らずも感慨深く思って、仮面の中で小さく笑をこぼしてしまった。

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