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テロ計画で休日を・・・ 4

 その装置は何かの土台の様になっていて、大瀧の説明によると作動させることで、その上空にワープホールを出現させる様な仕組みになっているとの事であった。


 「なるほど、見た目や構造は私が考案したものと、ほぼ同じ様ですねぇ」


 装置を観察したフランは、それから様々な感想の行き交っている会場を見渡し、最後に繭里をどこか楽しそうな様子で上目遣いに見る。


 「お姉ちゃんどうしたの?大丈夫~?」


 「う、うん。少しだけ驚いただけだから、平気」


 繭里(まゆり)は見るからに具合が悪そうであったが、目の前の少女に心配を掛けまいと平然を装う。


 だが、その行為がさらにフランの加虐心を煽ってしまう。


 「・・・ねえ、お姉ちゃん。3匹の子豚ってお話知ってる?」


 「えっ?」


 「あれも酷いお話だよね~。最初の藁と木の枝で家を作った2匹は狼に食われてしまって、最後の1匹は時間を掛けてレンガの家を作って狼を返り討ちにするってやつだけど・・・ちょっとご都合主義が過ぎないかな?3匹目の豚は、もしもレンガの家が完成する前に狼に襲われたりしたら、それこそ逃げ場なんてなかった筈だし、逆に藁の家でも、もしかしたらカモフラージュになって狼に襲われなかったかもしれない。狼が子ヤギやおばあさんを丸呑みにする事件が多発する世界観なのだとしたら、時間を掛けて家を作ってその間は野宿するなんて、それこそ自殺行為と言えるよね?・・・ああ、話が脱線してしまったけど、つまり私がこの話から何を教訓として得たかというと、成功を手にするには才能と同じ位に、きっと運も(あわ)せ持たなくてはいけないということなんだよ・・・現実でもそうでしょ?才能や運の無い被験体は使い捨てられて、才能のあった最後の1匹は見事に狼を殺して幸せに暮らして行く。そう、狼に喰われた家族の事を忘れて・・・ね」


 「フ、フランちゃん?何を急に」


 「ひ、ひひ、くひひ」


 動揺する繭里に対して、フランは演技する事を忘れて、何時もの気色の悪い笑い声を上げ、表情もその年頃の少女がしていいものでは無くなる。

 

 そして、繭里もその特徴的な笑い声には嫌な思い出があった。


 ハーベスト教団の事件以降、陰ながら消されたとも噂されていた自身のトラウマの象徴である、あの人物。


 そう思うと、目の前の整った可愛らしい容姿の少女が似ても似つかないあの男の顔と重なる。


 「あ、貴方はいったい・・・」


 「分かりませんかぁ?酷いですねぇ。私ですよ私。くひひ」


 「ま、まさか茶がわ・・・へ?」


 そう言いかけた所で繭里は謎の体の火照りと痺れにより、膝から崩れ落ちる。


 その様子を確認したフランは更に気色の悪い笑みを大きくしながら近づいていく。


 「さっき飲み物に薬を盛らせてもらいました。なにか分かりますかぁ?ほら、○○さんに打ったのと同じやつですよぉ」


 フランは繭里の耳元で囁き、研究所にいた時に仲良くしていた少女の名前を上げる。その少女は以前ハーベスト教団の事件の時、フランがハーベスト化させ、繭里が殺してしまった者の名前だった。


 そして、繭里にはその薬と言うのが人をハーベスト化させるものであると想像出来た。


 繭里は喉に手を当て、嗚咽にも似た声をだしながら恐怖に満ちた表情でフランを見上げる。


 「なんですか?・・・彼女と同じになれて嬉しい?そうですかぁ、それは良かったですよ"お姉ちゃん"、ひひひ」


 「・・・っ!」


 「良い。良いですねぇ。その表情で最高ですよぉ」


 少しだけ前傾姿勢で繭里に顔を近づけたフランは、片手で股の辺りをおさえ、下衆な笑みを浮かべながらその顔を上目遣いに覗き込む。




 「あー、フランくん、そう言うのは、またの機会にお願い出来ないかな?今は作戦に集中して欲しいのだけど」




 その時、再び筵の声がハーベスト教団の事件の時同様に空気を読まずに割って入ってくる。


 「・・・はあ、全く貴方は本当に空気の読めない人ですねぇ」


 「ごめんね。第二次性徴期位からずっとこんな性格なんだ。・・・ああ、あとタイミングとしてはそろそろだと思うけど準備が出来たら合図を頼むよ。それともちょっと待った方がいいかい?」


 「心配しなくても大丈夫ですよぉ、(おさ)まりましたから」


 「そう?それは良かった。では、よろしくね」


 筵との会話を終えたフランはその後、一度ため息をもらすと、もう一度、繭里の方を見る。


 「今の仕事仲間(パートナー)からお叱りを受けてしまいましたので、この位にしておきます。・・・ああ、心配しなくても大丈夫ですよぉ?さっき盛った薬はただの痺れ薬ですから」


 そして、困惑している繭里をよそにもう一度、気色の悪い笑みを浮かべる。


 「それに今の私は以外にも、近い将来、この星に降りかかるかもしれない災難を未然に取り除こうとしている正義の味方、なんですよぉ?」


 「何を・・・言って・・・いる・・・」


 バタッ。


 薬の効果に耐え、必死にこられていた繭里だったが、遂に跪いてもいられなくなり、その場に倒れ込み意識を失う。 

 

 「さあ、お待たせしました。こちらの準備完了ですよ」


 「ああ、それじゃあ始めようか」


 会場の上の階の筵はフランのゴーサインを受け取ると、小太刀型の魔剣、寝首掻(ねくびか)きを召喚し床に向けて突き立てる。


 するとその床は支えていた何かが外されたように、あっけなく崩れさり、筵は轟音と共にちょうど下の階、パーティ会場の壇上の上に降り立つ。


 壇上は煙が立ち込め、パーティの参加者は何が起こったのか理解出来ずにいると、その煙の中からボイスチェンジャーで変えられた声が響く。




 「え~、宴もたけなわでは御座いますが、楽しいパーティはこれにて終了とさせて頂きます。皆様、土へお(かえ)りの際はお忘れ物、そして今世への未練などなさいませんよう、どうぞお気をつけください。えー、最後になりましたが、今後の貴殿らのご健勝、ご活躍を心よりお呪い申し上げます」




 髑髏の仮面の男はそんなことを言い、頭のイカれたテロリストを演じながら、立ち込める煙の中から姿を表し、一度、唖然としている人々を見渡すと、ゆっくりと装置の前まで行き、寝首掻きを突き刺した。

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