テロ計画で休日を・・・ 1
「では筵兄、がんばってください。陰ながら応援してます」
筵を倉庫の前まで送り届けた祭は不敵に笑いながらそう言うと、洗脳のテクノロジー"ヘイトスピーカー"なるアイテムを回収して姿を消した。
時刻はワープホールの新技術に関する報告会兼立食パーティが執り行われる数時間ほど前であった。
だが、筵たちは下準備もあったため、開宴よりもだいぶ前に会場に潜入する必要があり、そろそろ倉庫を出発しようとしていた。
「で、その姿はなんですかぁ?」
「ははは、どうだい?かっこいいだろ?変装だよ変装。3つ指輪の男と言うんだ。君もちゃんと顔は隠しておくれよ」
フランの問に、マントを羽織り顔にデフォルメではない髑髏の仮面を付けた状態の筵が答える。
「はあ、まあいいですがね・・・」
フランはしぶしぶと言った様子で、狼のフェイスマスクを手に取り、筵に見せる。
「最終確認だけど、ワープホールを発生させる装置はそのパーティ会場に来るんだよね?実は研究所からの生中継でした。とかは嫌だよ?」
「ええ、その様ですよぉ。会場で試しに実演してみるんではないですか?それで失敗して会場が抉り取られ、まるごと異世界に飛ばされたりしたら面白いんですが」
フランは邪悪な笑みを浮かべそう言うと、その直後、少しだけ真面目な顔に代わる。
「まあ、彼らがどうなっても構いませんが、私がそんな失敗作を考案したと思われるのは、非常に度し難いことです」
フランが小声で呟いた、そんな天才としての誇りから出てきた言葉を聞いた筵は、しかし、それには返事を返さず、少し間を開け、口を開く。
「さあ、それじゃあ、そろそろ行こうか?・・・様々な思惑を、集めて煮詰めてそして固めて、煮凝りにしたようなあの場所へ」
筵たちの作戦は単純明解であった。
それは、正面から堂々とある程度の所まで侵入し準備を整え、最後は強行突破。
まず、その為には能力者協会に身元をばらさずに上手く潜入しなければならない。
因みに能力者協会のビルは1階までなら、誰でも入ることが出来る。しかし、問題は2階以降への侵入であった。
1階より上の階に上がるには特別な許可を必要としていた。
そして、その許可を得る為のデータ改竄は可能であったが、自分が本田筵である事をばらさずに、受付を突破するのは少しばかり酷であった。
しかし、そんな状況でも筵がとった作戦は単純なものであった。
「いや、だから俺らショーをする事になってるんすよ?知りません?俺ら2人組、ほら見覚えないすか?この髑髏と狼。こんなの一度見たら忘れないでしょう?リから始まるほら・・・あの有名なバンド、リンカーネ・・・って。えっ?マジで知らないんすか?」
先程の装いにギターとベースを持った2人組は受付の女性の前に堂々とした態度で乗り込みそのように述べる。
「ああ、でもこの曲聞いたら絶対分かりますよ。今から演奏しますから。・・・ほら、あれ聞かせてやろうぜスネーク・・・ああ、こいつスネークっていうんすよ。狼なのに、超ロックっしょ?」
筵はそう言ってギターを取り出し、それに釣られ、多少焦りながフランも準備を始める。
「それじゃあ聞いてくれ、"君は結婚詐欺師だろう?"」
筵はその様な適当なタイトルを口にすると、そこだけ練習していた前奏の部分を弾き始める。
手先の器用な筵は本当に冒頭部分のみではあるが、プロ顔負けの演奏を披露した。
そして、練習していた部分が終わり、演奏が止まってしまう直前、運良く、受付の女性が止めに入る。
「わ、分かりましたからお客様!今、お調べします。ですので、ほかのお客様の迷惑になりますから、演奏は止めてください」
筵の少しだけ様になっていた演奏を受付の女性は、髑髏と狼の2人組を、頭は少しおかしいが、ちゃんとした音楽家の人達であると認識したようで、筵の演奏を辞めさせながらも、自身の前にあるパソコンを操作し、そのような来客があるかを調べる。
そして、フランがハッキングして作った偽の予定を発見する。
「はい、確かにありますね。・・・どうぞ、こちら入館証です。これを常に首に掛けていてくださいね。あと、出来ればそのマスクを外して欲しいのですが・・・」
「ちょっとそれは無理っすね?分かるっしょ。こういうスタンスでやってるんすよ。外す時は引退の時だと思っているんで、すんません」
筵はそう言うと、受付の女性から入館証を食い気味に受け取り、相手に反論される前に奥へと進んでしまう。
「よくもまあ、あのような口からでまかせを次から次へと言えるものですね。本当に尊敬しますよ」
「まあ、それで人生やり過ごして来た、みたいな所あるからね、僕は」
そして入館証を首に下げてた2人はそんなことを話ながらエレベーターへと乗り込む。
「では計画通りにお願いしますよぉ?」
「ああ、お互いに頑張ろうか」
エレベーターが上へと動き出すと、フランは狼のマスクを一旦外し、マントを脱ぐ。
そして、フェイスマスクのせいで潰れた髪を少しだけ整えると、そこには綺麗に整えられた長い髪、可愛らしい女児用のドレスを着込んでいる少女が姿を現す。
フランのその変装は休日に行われている、このワープホールの報告会兼立食パーティに着いて来た、どこかのお偉いさんの娘というイメージであり、結果、バッチリと成り済ますことが出来ていた。
「くひひ、どうです?この完璧な変装は?」
「うん、とても可愛いと思うよ」
「い、いや、変装のカモフラージュ率について聞いんたですけどねぇ?」
フランは複雑な心境で苦笑いを浮かべる。
すると、エレベーターはフランの降りるパーティ会場のある階で止まる。
「では、行ってきますよ」
「ああ、頑張ってね」
フランは普段の少し猫背気味の背骨を伸ばすと、育ちのいい令嬢のような堂々とした面持ちで一歩踏み出し、エレベーターを降りた。




