若気の至りと・・・ 6
「驚いたね。これは予想外だった。クイズは僕の負けだね」
「なんと!?思わぬ所で筵兄から初勝利を勝ち取ってしまいました」
筵は今まで憩が受けていた年上から兄や姉呼ばわりされる事への違和感を感じながら目の前の大人版祭を再び観察する。
予想では中学生の祭が何らかの方法で男と間違われるほどに身長を高く見せているのかと考えていたが、目の前の現状を見るに実際はそうでは無いようだった。
「所でどうして3つ指輪の男が私だと分かったのですか?だってこれですよ、これ、指輪を3つも付けてるんですよ。どう考えても筵兄でしょ?」
「・・・まあ、理由はいくつかあるけど、そのどれも確たるものじゃないよ。総合的に見てって感じかな?・・・まず1つに今までおつかいを全て君にさせていた未来の僕が今回に限って現れるとは思えないこと。そして第2に、前に祭ちゃんが言っていた通り、タイムマシン的な能力や道具が未来永劫現れないなら、未来の僕がここに来るためにはやっぱり祭ちゃんの力を借りないといけないから、それなら尚更、祭ちゃんにおつかいを頼むのが自然な流れということ・・・だけど、もちろん秘宝や魔剣は別だから、祭ちゃんに隠れて未来の僕がそう言うものを所持している可能性もある。確たるものじゃないというのはそういう事さ」
筵は半笑いを浮かべそう言い、少し時間を開け、何か思いついたように手を打つ。
「ああ、あともう1つ。君が僕に"3つ指輪の男"の正体について聞かれた時、"世界の認めぬ超個人的な愛"の化身で怪人だと言っていたね。僕はそれについて、最初は、答えをはぐらかされたのだと思っていたけど、でも、あれは実は大まじめで、"3つ指輪の男"はただ一人を表すものでは無く、何かの象徴なのかもしれないともとれた。そして、もしそうなら、3つの指輪に囚われなくていいから、正体が未来の僕でない確率はぐんと上がる」
「・・・さすが筵兄だ・・・その通りですよ。"世界の認めぬ超個人的な愛"のために行動を起こす時、誰もが"3つ指輪の男"の名を借りて戦うことが出来る・・・3つ指輪の男とはそう言うシステムなんです」
関心と尊敬という感情に、隠し味の如く、ほんの少しの悔しさを混ぜた内心の祭は、その事実を伝え、突然に話を切り替える。
「ところで筵兄、家宝のパラドックスというものを知っていますか?」
「いや、知らないな」
「はは~、まあと言ってもこれは、今から更に未来で考えられたものなんで、知らないのも無理はないですがね。・・・え~、こほん、家宝のパラドックスと言うのはですね、例えば先祖が誰かから譲り受け、それ以来ずっと大切に保管されてきた家宝をその子孫がタイムマシンを用いて過去に行き、先祖にそれを譲り渡すとすると、その家宝の出処が不明になるという考えです」
「・・・」
「これは物だと少し分かりにくいですが、情報だと途端に現実味を帯びて来ます。例えば、この家宝を画期的な発明に置き換えると分かりやすい。画期的な発明をした人の子孫がその発明をした人に何らかのアドバイスをする。もちろん子孫は先祖の発明ありきで語っているから、その情報の出処は不明となります」
「うん・・・」
「という事で、これを筵兄にお渡しします」
大人版祭はそのような意味深な事を言った後、自身の指に付けていた3つの指輪を取っで筵に放り投げる。
「おっとと・・・あれれ?という事でって、これいいのかい?さっき言ってたのに引っかかりそうな気もするけど」
「はい?なんの事ですか?」
小悪魔のような笑みを浮かべた祭はそう言って首を傾げ、少しだけ間を開けて、続きを話し始める。
「・・・まあまあ、さっきのは机上の空論ですし、そんな疑問に一々ツッコミを入れていたら、そもそも能力なんてもの自体がなぞでしょう?気にしてはいけないのですよ。気をつけなくてはいけないのは確定した未来を変える行動を取ることだけです」
「へぇ~、まあ、君が言うならそうなんだろね・・・と言うことは、これはつまりそういう事かい?」
筵は投げ渡された指輪に目を下ろす。
「そうなりますね~。だってそうでしょ?、この場に"世界の認めぬ超個人的な愛"のために戦おうとしている人がもう一人いるんですから」
「なるほど、確かに」
筵はそう呟くと、自身の左手の薬指に指輪をはめる。
「祭ちゃん。一つだけ聞いていいかい?」
「いいですよ。いくつでもね」
「今回、君は沢山の仕事を任されていたみたいだけど、それは一旦置いておくとして、君はその姿、つまり3つ指輪の男となって僕に会いに来た。いったい君にとっての"世界の認めぬ超個人的な愛"とは何だったんだい?」
「・・・うーん、一言で言うなら"自己愛"なのかな?今回、私が笑さんにヘイトスピーカーを渡したのも、筵兄を過去に連れてきたのも、そして、3つ指輪の男について教えたのも、お願いされたからではあるけれど、全て私がやりたいように、私が面白ければいい、という考えの元で行動しましたからね。もっとスマートなやり方はあったと思うけど、譜緒流手姉と凛さんが戦うのを見たかったし、これから起こることも、とても楽しみにしています。そんな周りをある程度、無視した自分だけ良ければいいという考えが私を3つ指輪の男たらしめているのだと思いますね」
「なるほど・・・うん、納得したよ」
筵と祭は見つめ合い、お互いの性格が似ている事を改めて確信する。
そして、いい頃合になった所で、筵はそろそろお開きとばかりに口を開く。
「それじゃあそろそろ、元の時代に戻してれるかな?何せ、これから僕は愛の為に戦わなくてはならないからね」
「ええ、ではあの倉庫までお送りします」
祭はそう言うと筵へと手を伸ばした。




