若気の至りと・・・ 5
男に教えられた施設の外見はそこまで壊れてはいなかったが、1つだけ、3m程の何かが壁を突き破ったと思われる大きな穴を見つけることが出来た。
「取り敢えずここから入るか」
筵は今までの傾向から、その先に自分の助けるべき人物がいるのだと悟る。
そしてそのまま、ハーベストが開けたであろう穴から施設に侵入する。
そこにはおとぎ話のような世界観の展示が広がっていたのだが、電気系統が故障しているのか、中は薄暗く普段なら愉快な音と共に動いているであろう展示も完全に停止し、気味の悪さを醸し出していた。
さらに観察すると、道には線路が引かれていることが分かり、この施設がおとぎの話の世界を見て回る的なアトラクションであると理解する。
それらから、ハーベストが原因による故障のせいで途中で乗り物が動かなくなり、中でアトラクションに乗っていた人々が取り残されているというのが全貌だと推測できた。
さらに、地面や壁には何かが物を壊しながら進んだ形跡があり、筵もそちらの方向へと脚を進めると、少しだけ物音が大きくなっていくことが分かり、さらに、しばらく行くと、横倒しにされ脱線したこのアトラクションの乗り物を発見する。
「・・・」
筵はその様子を見ると、少しだけ嫌な予感が頭を過ぎり、早歩きになる。そして、線路に沿ってカーブを曲がり、開けた場所に出ると、ついにそのハーベストを発見する。
そのハーベストは一言で例えるなら、トカゲ人間と言った感じで、恐らく目が悪いのか、約3mほどの目の前にいる壁際に追い詰められた何人かの人々にもいきなり飛び掛かる事はせず、探るようにじわじわと躙り寄っていた。
そして、その光景を見た筵は確信する。
追い詰められている人々の中に自分の守るべき少女がいる事を、その少女はトレードマークの瓶底眼鏡こそ掛けていなかったものの、それでも筵はハッキリと認識できた。
パキッ!!
その時、少女が一歩後退りし、何かを踏んだ事で生じた物音がこだましてしまう。
それにより、少女の存在を完全に認識したトカゲ人間型ハーベストは迷いなく少女に襲いかかった。
次の瞬間。
少女に牙を突き立てる寸前で動きを止めたトカゲ人間型ハーベストはゆっとりとその場に倒れ込み、こと切れる。
そして、筵は倒れこむハーベストの心臓部分から大皿喰らいを引き抜くと、フードを深めに被り、表情が伺いにくい状態で、半笑いを浮かべた。
「大丈夫だったかい?もう安心だよ」
筵は少女に向けて声をかける。
しかし。
「は、はい!!」
その質問に答えたのは少女ではなく。少女を庇うようにして、少女とハーベストとの間に立ちはだかり、現在は筵の真正面に立っている少年であった。
その少年は、最初は驚いていたものの、次第に状況を理解していくと、筵に対して感謝と、そして尊敬という感情を含んだ視線を向ける。
「あ、あのお兄さんは学園の、学友騎士団の方ですか?俺、ずっと能力者に憧れてて、まだ能力には目醒めてないんですけど、絶対に絶対に学園に入学したいと思ってて、そしたら学友騎士団に入って・・・それでいつかお兄さんみたいに誰かのピンチに駆けつけられるヒーローになりたくて・・・」
ハーベストが倒されてから数十秒が経つ頃には、少年はだいぶ落ち着いて、そのような私的な話を口にする。
そして、言葉を言い終わると、何か言ってほしい言葉があるかのように、筵の方を少し上目遣いで見る。
「なるほど、こっちが本命か・・・」
筵は、その視線とこの状況から判断し、小声でそう呟くと、これから自分が一世一代の大嘘を吐かなくてはならないのだと悟る。
それから、筵はフードをさらに下に引っ張り、顔をなるべく隠すと心にも無い事、いや、無くしてしまった事を吐き出し始める。
「なれる。君は絶対にヒーローになれる。強い心には強い能力が宿る。強くなりたいと願う心があれば必ずそれに能力は応えてくれる筈だ。・・・少年、強くなれ、全てを守れ。仲間を、世界を、そして自分を。全てを救い取れ、君にはそれだけの力がある。・・・そして、力には義務があり、義務には責任がある。だから君は正義のヒーローになるのではなく、ならなくてはならない」
「は、はい!!」
そう言葉を交わし、数秒間、見つめ合う筵と少年。
それから筵はもう1度、少年に笑いかけ、最後まで少年の憧れの人を演じるため、大皿喰らいを壁に突き立て、そのまま貫き、出口を確保すると、全員を外に出して、安全な所まで避難させた。
「じゃあ、他の困っている人を助けに行かなくちゃいけないから」
「はい、俺、絶対に学友騎士団に入りますから!!」
筵はそう言葉を交わすと、走ってその場を跡にして、少年達が見えなくなったところで、走るのを止めて歩き出す。
「お疲れみたいだね?」
「ああ、おかげさまでね。これでミッションは全部クリアかな?」
「そうだね。まあいいだろう。・・・さあ突然ですが、ここで問題です。僕の正体はいったい誰でしょうか?」
再び突然に現れた、3つ指輪の男はそんな問題を提示し、首を傾げる。
「"世界の認めぬ超個人的な愛"の化身だろ?ねえ、"世界の認めぬ超個人的な愛"の化身さん」
「あらら、さっきの事、根に持っているのかい?あれは悪かったよ。だから頼むよ。どうせ、もうネタばらししないといけないから最後に問題を出させてくれよ」
「・・・」
"3つ指輪の男"の問に仕方なく、筵は顎に手をあて、少しの時間思考する。
そして十数秒後、答えを出す。
「祭ちゃんだろ?おそらくは・・・」
「ふーん、変えるなら今ですよ?」
「ああ、いいよ」
「・・・本当にいいんですか~?」
「ふふ、語るに落ちるたね祭ちゃん。本来、質問に対してそれで本当にいいのか聞く行為は、2つの理由が考えられる。1つは考えを変えて欲しい時、そして2つ目は、考え直すチャンスを上げたのに間違えたと嘲笑し優越感を得たい時、しかし、後者の理由なら2度聞き返す意味は無い。よって君は本田祭ちゃんだ」
筵は自分の答えに確信を持っているようで、考えを変えさせる事が出来ないと覚った"3つ指輪の男"は残念そうにため息をつき、ゆっくり仮面を外す。
「はあ、正解ですよ。流石は筵兄ですね。答えは祭ちゃん(年齢禁則事項)でした~」
仮面を外しローブを脱いだ祭を見て、筵は柄にも無く唖然としてしまう。
そこには筵の想像していた祭とは違う、グラマラスな身体つきになり明らかに筵よりも年齢が上で、おそらく大学生ほどと思われる本田祭の姿があった。




