若気の至りと・・・ 4
「これでやるべき事は終わったのかな?祭ちゃん、そろそろ許してくれないかな~?」
廃墟を後にした筵が、遊園地を破壊し尽くしている鬼や竜などのハーベストたちを他人事のように眺めながら呟く。
「いや、まだ終わっていないよ。君にはまだ仕事が残っているんだ」
突然、背後から加工された声が響き、筵は後ろを振り向く。
「・・・あなたは?」
「ふふ、僕は、こういうものさ・・・」
筵の背後に突如現れた、長身でデフォルメされたドクロの仮面とローブを羽織った人物は、筵の問に対して左手を前に出して薬指に付けた3つの指輪を見せることで自己紹介とする。
「なるほど。蛭間さんを唆した占い師の方ですか?」
「ええまあ、そうなりますね。私の事は”3つ指輪の男”、とでも呼んでください」
自らを”3つ指輪の男”と名乗ったその人物は、そう答えると首を傾げ、仮面のなかで笑う。
「・・・想像はできますが、敢えて言わせてもらいます。貴方の正体は誰なんでしょうか?」
「うーん、俺の正体か~・・・その答えは簡単なようで難しく、深いようで浅い。まあ、ざっくりと言うなら”世界の認めぬ超個人的な愛”、その化身であり、怪人が俺という存在・・・的な感じかな~」
”3つ指輪の男”は身ぶり手振りを交えながら、砕けた感じでそう語る。
「なるほど・・・」
自分の質問の趣旨とは少し違う返答が帰って来たため、筵は仕方なくその疑問を飲み込み、その事について深く聞く事を諦めて本題に切り込む。
「では、僕がしなくてはならない事とは一体、何なんですか?」
「それは自分で考えてくれ・・・と、言いたいのですが、君の性格上、自らやってはくれないと思うので、ヒントを出しましょう。・・・取り敢えず、ここのハーベスト達を皆殺しにして下さい」
大きく両手を広げ、天を仰ぐようなポーズで”3つ指輪の男”は言う。
「そうすれば、あなたを元の世界に帰れるでしょう」
「・・・はあ、まあ仕方ないか」
主導権が自分に無いと悟った筵はため息をもらすと仕方なく、自身の手元に日本刀型の魔剣、大皿喰らいを生み出す。
「ああ、あと多くの人に見られるのはさすがにまずいから、フード付きのマントは着てくれよ。持って来ているだろ?」
「なるほど、何もかもお見通しって感じなのかな・・・」
何時もの半笑いを浮かべた筵は、計画のために用意していたマントを羽織り、頭にフードを被ると、大皿喰らいを成っていない構えで持ち直し、絶えずワープホールから出現するハーベストの群れの中へと向かった。
一体何匹のハーベストを葬っただろうか?
筵は辺りに散らばるハーベストの骸を横目に見ながら考える。
この行為になんの意味があるのかは分からなかったが、唯一、1つだけ分かることは、この行為をヒントと言っていることからハーベストの殲滅が最大の理由では無いと言うことであった。
「はあ」
さすがに少しだけ疲れた筵は、一度、死ぬことで疲労をリセットするか悩んでいると、物陰に隠れていた一人の遊園地のスタッフと思われる男が筵の健闘を見て駆け寄ってくる。
「す、すみません貴方は学園の方ですよね?・・・む、向こうの屋内の乗り物に取り残されている子達がいるんです助けに行って貰えませんか?」
その男は大量の汗を流しながら、筵にすがり付く。
男の表情からは後ろめたい気持ちとそれによる罪悪感が見てとれ、その事から男が此処にいる経緯を伺い知る事ができる。
「分かりました・・・」
筵は成り行きに身を任せることを決め、男の依頼を了承し、そちら側に向かおうとする。
しかし、不意に先ほどの男が気になり、気まぐれに途中で立ち止まると、背中を向けたまま喋り始める。
「これは皮肉ではない、と思って聞いてほしいのですが、僕は命とは所詮、自分の命と他人の命に分けられてしまうのだと思っています。もしも他人の命が1つ減ったとしても世界は何時もの通りに回っていく、しかし、自分の命が1つ減ったなら世界はそこで途切れ、潰えてしまう。少なくとも自分にとってどちらが重要かなんて目に見えていると思いますよ」
それだけ言い残した筵は振りかえることなく、男に説明された屋内のアトラクションの方へと向かって走った。




