天使再臨で・・・ 1
あれから、さらに数日がたった。
天高く馬肥ゆる秋、という言葉があるように、空は青く澄み渡り、陽気は暖かく過ごしやすい日が続いていた。
しかし、日室刀牙は未だに、この地球には帰って来ていない上、いつ"晴れのち天使"の天気になるか分からない状況が続いていた。
ハーベストの出現情報は、ワープホールが出現する10分から30分ほど前に分かり警告音が流れることになっているが、その正確な位置までは今のところ分からない。
天使型ハーベストは、この世界の能力者を全て駆逐して、残りの一般人と資源を全ての略奪することが目的らしく、再びこの学園に出現することが予測されていた。
そして淵の能力は、捕らえていた天使型ハーベストの能力を打ち消すことに成功したようで、淵をメインとした戦術が考えられているようだった。
現在、淵の行動は制限されているらしく、電話での会話はあるものの、あれから一度もこの教室を訪れていない。
「あの、筵?さっきからウザイんだけど」
譜緒流手は、そわそわと黒板のあたりを行ったり来たりしている筵に対して、呆れた様な眼差しを向ける。
今は本来なら、ロングホームルームの時間だが、決めることも特にないため、自習ということで、皆、おもいおもいの事をしている。
「送り出した日はあんなにカッコつけてたのに、その次の日からずっと、この調子だもんね」
れん子もファッション雑誌を読むのを中断して苦笑いを向ける。
すると、筵はれん子の読んでいるファッション雑誌に何となく目を落とした。
「冬を先取りコーデだって、あれ、この服、絶対に淵ちゃんに似合うと思わない?今度、プレゼントしよ」
筵は自身の発言によりZクラス全体を少し引かせた。しかし、尚も筵の奇行は続く。
「Zクラスの髪型はおさげ固定のはずでしょ?みんな、なにやってんの?あと、自習時間は文庫本を読まなきゃだめでしょ?」
「キモッ!!遂に、ここまでおかしくなったか」
今まで無視して寝たフリをしていた梨理も、この言動にはさすがに触れざる負えなかった。
しかし筵は梨理の罵倒に対してため息をついた。
「はあ、後輩に敬語で罵倒されたい」
筵はそう言うと教卓に突っ伏した。
「・・・しかたねー、湖畔くんやってやれ」
梨理は、鈍空淵ロスにおちいった筵に、絡むのがだるくなったのか湖畔に話を振った。本来なら女子のカトリーナの方がいいのだろうが、彼女は寝たフリではなく、持参の枕まで取り出してガチの寝息を立てていた。
湖畔は少し慌てて、言葉を考えた後しゃべり出した。
「あ、あの、とりあえず一度、死んだ方がいいんじゃないですか?」
湖畔の言葉に一同が唖然とする。
湖畔は筵信者なので話を振っても絶対に筵の事を罵倒しないと、みんなが思っていたからである。
湖畔は周りの様子に気付き、ハッとして訂正する。
「い、いや、違います。死んだ後に復活してスッキリした方がいいのでは?という意味で、あの、すみません」
少しの静寂の後、筵を抜いた2年組が笑い出した。
しばらく笑った後、梨理が立ち上がった。
「いやー、湖畔くんの言う通りだぜ、筵、お前冗談抜きで一回死んどけ」
梨理の言葉にも、筵は無反応のまま教卓に沈み込んでいる。
その様子に少しキレ気味になった梨理は教卓の筵の隣まで行こうとした。
その時、学園の校舎中に天使型ハーベスト襲来を知らせる警告音、まさに新約聖書で言うところの天使のラッパが鳴り響いた。