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若気の至りと・・・ 3

 ハーベスト襲撃のサイレンが鳴り響いてから、実際にハーベストが出現するまでの間には通常で約3~7分ほどの時間がある。


 しかし、ハーベストが現れる場所の予報も半径1kmは誤差と言われてもいた。


 そして、それ故に警報を聞いた人々は、よくある怪獣物のパニック映画のエキストラの如く、遊園地の外の地下シェルターへ向かい、逃げ惑っていた。


 「ちょっと、す、すみません。僕はそっちに行きたいんです」


 少年は少女の向かったお化け屋敷に自身も向かおうとするが、逃げ惑い、お化け屋敷とは反対の方向に逃げるものたちに押し返されてしまう。


 「す、すみません通してください」


 少年は尚も回りに声をかけ、通り抜けようとするが回りは聞く耳を持たない。その時。


 「きゃあっ!」


 一人の、少年よりもさらに年下の少女の声がその場に響き、少年が声の方向に目を向けると大人とぶつかって転び、足を擦りむいてしまっている少女を発見する。


 「っ!」


 その光景を目の当たりにしてしまった少年は鬼気迫ったような表情でその少女とお化け屋敷の方を数回交互に見る。


 そして。


 「大丈夫、立てる?」


 少年は転び怪我をした少女に駆け寄る。駆け寄ってしまう。


 そんな優しい笑顔の仮面を着けた少年の問に対し、少女は首を横に振る。


 その、来ないでほしいと願っていた返答を聞いてしまった少年の仮面には、僅かに(ほころ)びが生じる。が、しかし、少年はその仮面が崩れ落ちないように必死で押さえ込むと少女に背中を向けてしゃがむ。


 「さあ、乗って」


 「・・・ぐす、う、うん」


 少女を背負った少年は、最後にもう一度、お化け屋敷を見るが、心を決め、そちらに背を向ける。


 「すみません。この子のご両親はいませんか?」


 そして、少年は絶えずそう叫びながら、人の流れに沿って遊園地の出口へと向かった。





 「◯◯ちゃん!!」


 「ママ!!」


 出口付近まで約3分ほど少女を背負いながら、走っていた少年は、必死の呼び掛けの効果もあり、ようやく母親と巡り合わせる事が出来た。


 「はあ・・・」


 そして、心の底からの安堵のため息をもらした少年は、深々と頭を下げる少女とその母親に、心此処に有らずと言った様子で返事を返し、もときた道を駆け戻る。




 そうして、息絶え絶えに元来た道を駆け戻った少年は、人の気配が全くしなくなった遊園地の道の真ん中で苦笑いを浮かべる。


 「凛、今行くぞ・・・」


 少年は呟き、お化け屋敷へと手を伸ばした。その瞬間。



 ぐしゃ!!



 突如出現したワープホールから出てきた8mほどはあろうかという腹の大きく膨れた醜悪な姿の鬼型ハーベストがお化け屋敷の上へと落下し建物を踏み潰す。


 そして、その光景を目撃した少年は、まるで車に轢かれたときのような衝撃と思考が加速したと思える、あの感覚に襲われる。


 自分の近くで誰かが死ぬはずなんてない。これは夢ではないか?いや、そうでなくても凛はすでに避難している筈だ。そうに違いない。


 そんな事を考えて少年は固まっていると、鬼型ハーベストは一度、少年の方を見たかと思ったら、すぐに興味をなくし、動き続けているメリーゴーランドに向かい走り出す。


 そして、知能が極端に低いと予測できる、そのハーベストがメリーゴーランドを破壊することに夢中になって居る事を確信した少年は廃墟となったお化け屋敷に向かって走った。






 同時刻、一足先に廃墟に入っていた筵は、瓦礫に埋もれ血まみれになっている凛を発見していた。


 「ごめんね。決まっている歴史は変えられないんだ・・・」


 筵はぐったりとしている少女にそう語りかけると、右手を前に出して構え、万年筆型の魔剣、サン・スティロを呼び出す。


 そして、自身の血をサン・スティロの血を保管しておく部分が半径10cm程になるまで与えると筆先の部分から血を分泌し、適当な模様を描く。


 「凛!!」


 その時、人一人が入れる位の隙間から黒髪の少年が叫びながら入ってくる。


 「り、凛・・・」


 そして、瓦礫に埋もれぐったりとしている少女を目視で確認する。


 「凛は大丈夫なんですか?」


 少年は後ろを向いている状態の筵が先ほどのジュースの一件の人物だと気づいていない様子でそう訪ねる。


 「ああ、無理やり大丈夫にしてあげたよ」


 筵は少年の顔を一度伺うと、自身の血を消費して能力を発動させる。


 すると、みるみる内に少女の傷は癒えていき、ついでに少女にのし掛かっている瓦礫を退かすと、少女を抱き抱え、そのまま少年の前まで行き、その少女を渡す。


 「僕は反省していたり、落ち込んでいたりする子供には、それ以上、叱らない主義なんだ」


 筵はそう言葉を残すと、少年の横を通りすぎ、そして、しばらく行ったところで半身で振り替える。


 「・・・ただ僕は、今にして思えば、これに懲りる必要も無い・・・とも思うんだ」


 筵の、そんな気まぐれから出た言葉は、しかしながら絶望する少年の耳には届かず、そして、この瞬間、その運命は、どうしようもなく揺るぎない今へと、収束を始めた。

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