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若気の至りと・・・ 1

 「ここは一体どこだろうか?」

 

 気づくと筵はベンチに座り、人の行き交う道を眺めていた。


 行き交う人々は皆楽しそうな様子で特に子供の声がイキイキとして、風船を持っている子供やファンシーな装飾品を身につけている者達が多く見受けられた。


 続いて1周周りを見渡すと、少し遠くの方に観覧車やジェットコースターのコースがあり、どうやらそこが遊園地である事も分かる。


 そして、筵はその遊園地に見覚えがあった。


 「ここは懐かしい所に来させられたものだね」


 そこは、筵が子供の頃に家から車で30分も行かない所にあった遊園地であり、現在は潰れてしまっているものであった。


 そして、催眠系の能力が効かない筵には、ここまで来ると、犯人が誰なのか、だいたい想像が着いた。


 「祭ちゃん?いるかい?」


 筵は周りの人々に不審がられない程度の声で話しかける、がしかし返事は無い。


 「自分で考えろという事か・・・」


 そう呟いた筵は、もう1度状況を整理する。


 肌寒さが和らいでいる事から、などから、季節は元の場所よりも秋よりということが分かり、さらに、この遊園地が閉園したのは、元々、経営的にあまり良くなかったのが、ある事件により、大きな打撃を受けたことによるものだった。


 更に目の前を行き交っていく、恐らく、遠足で訪れたと思われる小学生達の群れに目を向ける。

 

 そして、それら情報から推測できる、筵がここに連れてこられる心当たりは1つしか浮かばなかった。


 「これはあの時か・・・」


 自分の置かれた状況を察した筵は、立ち上がり適当に歩き出す。


 祭は以前、過去を変えても現在は変わらないと言っていた。それは、筵がこの時代で何をしても、何をしなくても歴史に影響を及ぼさないということであった。


 「とりあえず自分を探すか」


 遊園地に設置された時計を見ると時刻は10時半、記憶力に自身がある筵でも、あの事件の正確な時刻に関しては、弁当を食べる前だったという大雑把な記憶しかなかった。




 そのままさらに歩いていると、楽しそうな園内の雰囲気の中、一人つまらなそうに、フードコートの丸い机の前に腰掛ける小学3年生ほどの長い黒髪の少女が目に入る。


 筵はどうしてもその少女が気になり、放っておく事が出来なくなって、もう1度、時計を確認し、売店でお金の製造年に気を付けながら、買い物を済ませるとそのまま少女の元に向かう。


 「ここいいかなお嬢さん」


 「・・・」


 少女は突然話しかけてきた筵を黙ってジーと見ると、そのまま席を立とうとする。


 「ああ、ちょっと待って、僕はある任務を決行する為に未来から来たんだけど、その時間まで暇なんだ。だから話し相手になってくれないかな?」


 「・・・お兄さん、私に何をしようとしてるかわからないけどもっとマシな嘘思いつかないの?」


 「いやいや、僕は一つ足りとも嘘なんかついていないよ。まあ、確かに確たる証拠は無いんだけどね」


 筵はそう言い少女に笑いかけると、手に持っているアイスクリームを手渡す。


 すると少女は、筵の一風代わった様子を見て本能で誘拐などの目的で自分に近づいて来た訳では無いことを感じ、警戒しつつもアイスクリームを受け取り、元の場所に座る。


 「じゃあ、何か面白いことして」

 

 「うーん、面白いことかー、随分な無茶振りだね。・・・じゃあ、占いをしてあげよう。僕は未来人だから、未来の事ならだいたい分かるよ?将来どんな事件が起こるか〜とか知りたいでしょ?」

 



 「・・・じゃあ、私の、と、友達はいつ現れるか、占ってみてよ」


 少女は小声でそう呟き、筵はその返答に一瞬だけ固まる。


 そして、その様子を見た少女は少しだけ残念そうな、しかし、それを悟られないように何も期待してなどいなかったと言わんばかりの表情で筵から目をそらす。


 「分かってる。占いなんて出来ないんでしょ。いいよ別に」


 「・・・いや、出来るよ。逆に一番得意な質問が来て驚いていた所だよ。えーと、ごめん今日は何月何日かな?」


 「10月12日だけど・・・」


 「うん、今日から数えて、きっちり176日後だね」


 あまりも堂々と語る筵に少女は驚き、そして、小さく笑う。


 少女にとっては例えそれがデマカセだとしても、嬉しいことだ。


 「ふふ、来年はうるう年もあるけど?きっちりなんて言って大丈夫?」


 「もちろん、それも計算に入れたよ」


 「ははは、嘘つけ」


 少女の鋭い返しにも、堂々とした表情を崩さない筵。


 そんな筵を見て少女はおかしくなって、今度、さっきよりも大きく笑う。


 そして、それから、アイスクリームを食べ終わるまでの間、少女と無駄話に花を咲かせ、20分ほどが経つと不意に少女が今更な質問を投げかける。


 「お兄さん、そう言えば名前は何ていうの?」


 「んんー、秘密かな。未来人だから、そういう所は厳しいんだ」


 「ふーん、じゃあ、私の名前も教えてあげない」


 「・・・まあ、僕はずっと昔から、君のことを知っているんだけどね」


 「えっ?やっぱりお兄さん不審者?」


 「いやいや、それは誤解だよ。・・・現にもう仕事に向かわなくちゃいけないからね。これでバイバイだ」


 再度、時計を確認した筵はそう言うと椅子から立ち上がる。


 「・・・最後に一緒に観覧車とか乗・・・」

 

 そんな筵に、少女はもじもじとしながら、かなりの小声で言う。


 普通なら聞こえない位の声の大きさだったが、類まれなる地獄耳の持ち主である筵には、しっかりと届いた。


 そして、再々度時計を確認し口を開く。


 「よし、じゃあ一緒に乗ろうか?」


 筵はその少女の手を取り観覧車の方へと向かった。





 「まあまあ、楽しかったよ」


 「そうかい?僕なんかがお役に立ててよかった」


 1周約10分ほどの時間を景色を見て、それについての感想を言い合ったりなど、本当の友達のようにして過ごした筵達は観覧車を降りて少し離れた所で立ち止まる。


 「はあ、176日後か〜、遠いな〜」


 「・・・君ならきっと待てるさ。僕が保証するよ」


 「そんなの、何を根拠に言ってるの?」


 「ん?だって僕は知っているからね。君は、君の名前の通り”強い”女の子だって事を」


 筵はそう言って親指を立てて、ほがらかに笑い合う。


 「まあ本当は”強い”じゃなくて”強く”だけどね」


 「ははは、折角いい言葉を言ったんだからそこはスルーして欲しかったな」


 そのまま更に少しの間、笑い合い、そして、他のやるべき事をこなす為に話を切りだす。


 「じゃあ、僕は本当に行かなくちゃ。・・・ああ、あと、ここはこれから危険な状態になるから、君には園の外のシェルターの近くまで逃げていてほしいんだ?いいかな?」


 「くす、まあ、未来人の言う事には素直に従っておいた方がいいか。分かったよ。でも、それが嘘で、後でもし先生に怒られたら、お兄さんの事、不審者って言って先生に報告するからね」


 「うん、それで構わないよ」


 筵が嘘を付いていないと表情などを見て、感じ取ったのか少女はその後は疑うこと無く門の方へと駆けていく。


 「じゃあ、お兄さん、未来でまた」

 

 「・・・ああ、未来でまた」


 少女は元気よく走りながら振り返り、筵に向けて手を振り、筵もそれに答える。


 そして、少女が見えなくなるまで見送ると、再び歩き出した。

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