幼馴染と・・・ 3
筵は半ば無理矢理に格の部屋を退出してしまったため、仕方なく、電車を乗り継ぎ、自分たちの街に戻り、日課の食料を買い揃えるといつもの倉庫へと向かう。
倉庫に入ると、そこにはすでに最初の頃の殺風景な様子は無く、いくつかの電子機器設置され、ちょっとしたラボラトリーとなっていた。
「やあ、フランくん」
「遅いですよぉ。私を餓死させる気ですかぁ?」
「ごめんごめん」
筵は、ネットリとしたそれでいて声変わり前の少年の声に答えると、持っていた食料を渡し、話を続ける。
「それで、例の蛭間さんが持っていたものの分析は出来たかな?」
「いや全然。まあ、辛うじてこれがどう言う性質のものかは分かりましたが、原理などは全く意味不明です」
「へぇー、君にも分からないことはあるんだね。それで?どんな性質のものだったんだい?」
再び質問する筵に対して、フランは食料の中からおにぎりと飲み物を取り出し、早速1口、おにぎりにかぶりつく。
「くちゃ、くちゃ、んん。・・・ええ、これは持ち主の願望を周囲に伝染させ、自分の主張を主軸とするプロパガンダを生成するものと言った感じですかねぇ。そして、これの驚くべきことは、この物体は異能と言うよりは、どちらかと言うとオーバーテクノロジーに近い、つまり、秘宝では無く、科学的な何かという事ですねぇ」
「完全洗脳のテクノロジーという事かい?」
「完全と言うには、まだ遠いですが、まあ大体合っているでしょう」
フランの話を聞き、完全洗脳という言葉が頭を過ぎった筵は、聞き覚えのあるその言葉を不意に口にする。
それは、いつか祭より聞かされたタブーテクノロジーなる代物の中の一つであった。
「ああ、それと、今日、能力者協会に行ってきて、異世界を侵略するっていう計画を聞いたんだけど、フランくん、もしかしてワープホールの研究所とかもしてたかい?」
「ワープホールぅ?ああ、あの暇潰しにやってたやつですか・・・なるほど、地雷を踏みましたか」
「地雷と言うと?」
「私も、原理を考えていただけで、実際に作った訳では無いですが、もしも、何も考えずにあの設計図のまま作ったとしたら、確実に失敗するでしょうねぇ。まあそれでも二度と戻れなくなったり、装置の周り一体を刮ぎ取ってそのまま異世界転移させたり、まあ最悪でも、この星に向けてのワープホールが開きっぱなしになったりする程度のものでしょうね」
フランの言葉を聞いた、筵は腕を組み少しだけ真剣な顔に変わる。
「・・・図らずも、大義名分が出来た訳か・・・」
「大義名分ですかぁ?」
「ああ、あの声の大きなお偉いさんに何かされる前にこっちから先手を打つための大義名分さ?まあ、そんなもの無くても動くつもりでは居たんだけどね」
「ん、ん、ごくん、・・・状況は何となく把握出来ましたよ。なるほどぉ、人から押収した研究資料を我が物顔で使うとは、中々に腹立たしいですねぇ。・・・それに、彼らには、分からさせなくてはいけないかも知れません。捨駒にした者は、将棋の世界では相手の駒となり牙を向いてくるという事を・・・」
口の中のおにぎりを飲み物で流し込んだフランは強い怒りからではなくそう語り、筵に対して協力の意思を見せる。
恐らくフランの感情は、お腹を痛めて産んだ我が子を連れ去られた様な強い怒りではなく、沢山のオモチャを持っている子供が、けれど一つも違う子には貸したくないと思う、そんな”何か嫌だ”というくらいのものであった。
「問題は何処にあるか、だよね?うーん、ポリたんに頼めば一発かも知れないけど、最近頼りすぎで愛想を尽かされてしまったら嫌だからな〜」
「・・・いえ、彼女に頼まなくとも向こうから来てくれるみたいですよぉ?」
フランは不敵に、そして意地悪そうに笑い、筵に操作していたパソコンを見せる。
そこには、今日から数日後にワープホールの新技術に関する報告会兼立食パーティを開催するという旨が、能力者協会のお偉方や後援者に向けて書かれていて、そのプログラムの中にはしっかりと実演という言葉が存在していた。
「このくらいのハッキングなら私でも出来るんですよぉ」
「・・・ここに乗り込むってことかい?」
「くひひ、楽しそうではないですか。ああ、安心してください無闇に人は殺しませんから」
「んー、まあ、あまり長い時間待てないというのもあるか・・・」
筵はそう呟くと、メリットとデメリットについて頭の中で思考を巡らす。
メリットは何より最速である事、格を野放しにしていると、Zクラスに対してどんな嫌がらせをするか分からない。そして、実験が失敗した場合、大量のハーベストが出現し、国の防衛が各所手薄になり、通常の防衛が行えなくなる事でZクラスにも被害があるかもしれない。
そして、デメリットはやはりバレることだが、フランは容姿が変わっていて、筵もZクラスに攻撃を仕掛けらる前ならワープホールの装置を破壊する理由がない。そして何より、ワープホールの意味合い上、ハーベスト教団に罪を擦り付ける事が容易であると思われた。
さらに最も重要な事として、バレるというデメリットよりも宇宙主義と対等の関係で居続けることが出来なくなる方が心情的に嫌だと思えた。
「よし分かったよ。ではその日に顔と身体全体が隠せる物を持って集合という事で」
「ええ、了解しましたよ」
それから、筵とフランはテロまがいの、というか、テロそのものの計画を練った後、別れた。
そして、計画実行の日。
フランの待つ倉庫へと向かう途中、後ろから何者かにより抱きつかれた筵は、突如その場から、いや、この地球上から姿を消した。




