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幼馴染と・・・ 2

 「なるほど・・・うん、いいんじゃないですか?・・・確かに非暴力不服従の精神はとても素晴らしく知性的ですが、相手が話の出来る者でないのならば、こちらがいくら倫理的に振舞ったところで意味を成しませんからね」


 「お、おお!!分かってくれるか」


 筵の返答を聞き、格は少しだけ嬉しそうな、そして、感心したような表情で数回頷く。


 「ええ、出来る事は現状のようにひたすら防衛に務め、届かぬ声かけ続ける理性的な愚か者になるか、こちらからも侵略を行い、奪い取る、野蛮な利口になるかのどちらかですからね〜」


 「?」


 野蛮な利口という言葉に少しの違和感を覚えた格だったが、それらは言葉のあやだったと受け流し、続けて筵を呼んだ理由について語りだす。


 「えー、こほん、それで私が君を呼んだ理由というのは、君にその部隊に参加して欲しいと思っているからなんだ。・・・私は君にずっと前から注目していた。そして今日、確信した。君という存在、君の持つその能力は、あの社会的脅威になり得るかも知らないもの達を監視しておくだけのごみ溜のようなクラスには相応しくないと・・・どうだ?本田君、共に部隊の一員として戦ってくれないか?君の力は、あんな役立たず共の巣窟で(くすぶ)るようなものでは無いんだ。どうか、その力をこの世界の為に役立ててはくれないか」


 格はそう言うと椅子から立ち上がり頭を下げる。


 社会的に見た筵の評価は、最強の能力者から生まれた出来損ないの息子であり、格の言葉は、筵の事を今まで誰からも認められた事など無い承認欲求に溢れた人物、と仮定しての口説き文句であった。


 そして恐らく、そのやり方は定石であり、どちらかと言えば本田筵という人物の方が例外と言えた。


 「・・・まあ、あれですね。報酬によりますかね?」


 「?」


 筵から返ってきたあまりにも意外な返答に格は困惑する。


 「後は、拘束時間とか、残業手当とか、家から近いか〜とか、そう言った事も聞いておかないと・・・ああ、あと僕、サービス残業だけは絶対に嫌なんで、その辺も宜しくお願いしますね?秘書さん」


 腕を組み、普通の就活の会社選びの様な事を言った筵は、格の隣で表情を崩さずにいる矢式兄に尋ねる。


 「そういった事が正確に守れるかは分からないが、少なくとも部隊での活動が始まったら、数週間から数ヶ月は行ったっきりだろう、私達のワープホールの技術はそこまで発達していない上、費用も莫大だ」


 「ええ!?という事は、Zクラスのみんなと楽しく過ごす予定のクリスマス、大晦日、ああ、それに12月10日の湖畔の誕生日なんかにも参加出来ないってことですか?それは困るな〜。僕は仕事が立て込んでいるとかいう理由で、みんなで行う、そういった記念日やイベントに参加出来ない親には絶対になりたく無いんですよね」


 と、そんなことを気にする筵に格は更なる動揺を与えられると同時に少しずつ、その嘘の仮面が剥がされていく。


 「なっ?・・・こ、これはそんな事よりも大切な大義であっ・・・」


 「家族や友人よりも大切な事なんてこの世に無い。・・・と僕は思うのですが、まあ考え方は人それぞれですからね〜」


 そう言って筵は自身の周りにいる歪な家族を見回す。


 最初から、遠慮がちに下ばかり見ている娘、無表情を演じる息子、復讐に取り憑かれ視野の狭くなった父親。


 それらを数秒間観察した後、筵はゆっくりと立ち上がる。


 「だから、せっかく、心のこもっていないお褒めの言葉を頂き、持ち上げて頂きましたが、今回はお断りさせて貰います。・・・もし、僕がこう言う性格じゃなかったら本田家が手に入ったかも知れないのに、ごめんなさいね。まあ、日雇いの給料のいい仕事があったらまた、声をかけてくださいよ」


 喋り終え頭を下げた筵は振り返り、下を向く凛に小声で謝罪し、そのままドアへと向かう。


 そして、取っ手に手を掛けた時、格が机を叩き、先程よりも少し強めの声で筵を呼び止める。


 「待て・・・家族や友人が何よりも大切だと?では、お前にその大切な家族をハーベストにより奪われた者達の気持ちが分かるのか?そういった者達の気持ちはどこに向かえばいいと言うのだ?答えてみろ!」


 「・・・まあ、想像はできますよ?もしも、名も無き侵略者に大切な者を奪われた時の男の行き用のない怒りと絶望を30文字以内で書けという問があったなら、まあ10点中8点位は取れるんじゃないかな。そして、もちろん、それが原因で復讐なんて事を考えてしまうのも、まあ、理解出来るつもりです。でも、こんなことを言ったら貴方は逆に怒ってしまうだろうし、本質はきっと取りこぼした2点の方にあると思うのでね。・・・だから、僕はこう言葉を返させてもらいますよ、分かるわけ無いさと・・・そう、僕があのクラスをどれだけ大切に思っているのか、貴方に分からないように」


 最後にそう言葉を返し、半笑いを浮かべた筵は今度こそ、その部屋を退出していく。


 


 筵が退出し数秒が過ぎ、立ち上がっていた格は気持ちを落ち着かせ、椅子に座り直す。


 「くっ、出来損ないが・・・まあいい、こうなれば外堀から埋めて、言う事を聞かせるしかあるまい。(れい)準備させろ」


 「わかりました」


 格は息子に命令を出すと、感情を押し殺し小さく笑った。

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