幼馴染と・・・ 1
宇宙主義と笑が上手くいったのを微笑ましく見送った筵は、Zクラスに戻り、その日の授業を終え、帰路に付くため学園を後にしようと門を出た。
「筵、待って。・・・この前、困った事があったら相談に乗るって言ってくれたわよね。一緒に行って欲しい場所があるんだけど・・・いい?」
後ろめたそうな表情で筵を呼び止めたのは、矢式凛であった。
筵は、この前の譜緒流手と凛の喧嘩の最後に、確かに相談に乗るとは言ったが、本心では、後は学園の英雄がこの案件を解決すると考えていた為、呼び止められた事に少しだけ驚く。
「ああ、もちろんさ。ネットワークビジネスと変な宗教の誘いじゃない限りは何処へでも」
しかし、筵はそれを直接顔には出さず、何時もの半笑いを浮かべ、彼らしい皮肉を織り交ぜながら、その誘いに答えた。
「これはまた珍しい所に連れてこられたね」
学園の前で待っていた専用の車に乗せられた筵は、学園から車で30分程離れた場所にある高層ビルの前で下ろされ、そのビルを見上げる。
そこは、日本の能力者協会のビルであり、日本における能力者の情報の管理、ワープホール、ハーベストの観測、技術開発などが行われていて、日本にある6つの学園はその傘下でもあった。
「こっちよ。筵」
筵とともに車を降りた凛は慣れた足取りで、協会の中へと進んでいき、愛想笑いを浮かべながら、接待するように筵を案内する。
凛は車の中でも、まるで筵の機嫌を取るように、絶えずこの愛想笑いを浮かべていて、会話が途切れないようにあれこれと話を続けていた。
筵は、何故、凛がそのような振る舞いをしているのか何となく察しがついたが、言及すること無く、その表面だけの会話に乗っていた。
「なるほど、ここか、子供の頃母さんに連れられてきた以来だね」
少しだけ懐かしい雰囲気に周りを見渡す筵。
そして、その間に凛は受付の者と話して、何者かに連絡を取ってもらい、自分たちが到着した事を伝えていて、その事から、筵をここ連れてきた理由もその何者かに会わせる為である事が分かった。
一通りの手続きが終わると、エスカレーターやエレベーターを駆使し、上の階へと登っていき、見るからに協会の偉い人が、使っているであろう専用の部屋の前で立ち止まる。
それから凛は扉を数回ノックし、中から返事が返って来たことを確認すると、扉を開ける。
「筵を連れてきました。お父さん」
「ああ、ご苦労」
凛はその部屋に入室すると、部屋の奥の椅子に腰掛けて机に肘をついている50代程の男に軽く頭を下げる。
「お兄様もお久しぶりです」
そして、その部屋には凛の父親と思われる男の横に、その秘書であろう人物が立っていて、凛は続けて、その20代後半ほどの見た目の男にも挨拶する。
しかし、秘書から凛に対する返事はなかった。
「こほん、ああ、はじめまして本田筵君、私は能力者協会、執行委員、矢式格だ。まあ、立ち話もなんだから座ってくれ」
そう言うと、自身の使っている大きな机の前にあるソファーを差す。
「ええ、では失礼して、・・・それで、僕は一体どうしてここに連れてこられたんですかね?悪事がバレるようなヘマはしていないと思いますが?」
「君を呼び出したのは、聞いてほしい事があるからからだ」
格はそう切り出すと、秘書であり、凛の兄である男にアイコンタクトで指示を出し、筵に数枚が束になっている紙を手渡す。
その紙の一番最初のページには他の文字よりも1回り大きな字で”プロジェクトハーベスト、収穫者計画”と書かれている。
筵はその紙の束をパラパラと捲り、そこに書かれている事にざっと目を通し、同時に秘書の男がそれについて10分ほどかけて説明する。
ざっくり話されたことを要約すると今まで、地球が受けていた多くの星からの侵略行為を今度はこちら側から仕掛けると言うものであった。
そして、筵が計画の趣旨を理解したところで、説明を秘書から格に交換し、さらに付け加える。
「今までの私達はハーベスト共の侵略をただ防衛することしか出来ず、攻めるにしても、奴らの開いたワープホールを無理矢理にこじ開け、戦闘員を数十名送り込むのが精一杯だった。しかし、ある男の残した発明により、資源の回収が可能なほど大きなワープホールをこちら側から開くことができる技術を得ることが出来た」
格はそう語り、さらに。1拍置いたあと、先程少し力を込めながら続きを話す。
「そう、今まで、常に損害を与えられ続けてきた私達がついにプラス転じる時が来たんだ。このプロジェクトハーベストは、かつて屈辱とともに与えられた数え切れないほど多くの被害を取り返し、敵の暴虐に倒れた者達に報いる為の正しき戦いでもある」




