人の噂と平常授業 2
数分後、学園2年Cクラス。
「うわーん、ポリえもーん、カメラをハッキングする機械だしてー」
そこには、有言実行で地面に跪き、宇宙主義もとい美宇宙シュギにしがみついた筵の姿があり、その体勢のまま、棒読みで懇願していた。
それに対して、宇宙主義は少し動揺しながら、抱き着いてくる筵をうざったそうに引き剥がそうとする。
「なっ、急に何ですか貴方は?」
「出来ないなら、涙腺からわさびを摂取しろって梨理ちゃんが言うんだよー」
「えっ?ひどっ!?」
宇宙主義は筵に続いてCクラスに入室して来た、梨理たちZクラスのメンバーを見る。
「・・・じゃあ、出来なかったら本当にやってもらうからな」
梨理は筵を指差すとあたかも普通のことを言っているように呟く。
「うわーん、ポリえもーん。涙腺からわさび摂取する機械だしてー」
「そんな機械ありません。それによく考えたら貴方ならそのくらい、素でできそうじゃないですか?」
「いやいや、いくら僕でもちょっと無理しないと出来ないよ?」
「ああ、出来るんですね」
遂に筵を引き剥がすことに成功した宇宙主義は呆れたように呟く。
「それでカメラをハッキングでしたか?何でそんなことがしたいんですか?」
「いやー、それがねー・・・」
筵は最近の噂やそれが過激化している事とその影に黒幕のような者がいるかも知れないことについて語り、その為に学園の監視カメラをハッキングする必要がある事を伝える。
「はあ、黒幕ですか?・・・しかし、それは単に自分に都合の良い噂のみを聞き入れ、立場の危うくなった人間に対しては、上から叩く、愚かなる人間の性質ではないですか?」
「確かにそうかもしれないけれど、それなら時間とともに無くなるだろうからいいんだ。でも、もし裏で糸を引いているやつがいるならそれは何とかしないといけないんだよね」
腕を組みため息混じりに呟くと、何時もの半笑いで笑う。
「なるほど、目的は分かりました。ただ我々がそれに力を貸すメリットなどないと思いますが?」
「えー、ポリたんのメリットならあるよ?だってポリたんは僕が困っていたら、心配でたまらなくなって心とは何か考える事になんて集中出来なくなってしまうだろ?」
「・・・何言っているんですか貴方は?調子乗りすぎです」
「ええーじゃあ今度、侵略を手伝ってあげるからさ」
「それも結構です」
宇宙主義は筵の提案をキッパリと断わる。すると、それを聞いた筵はあまりにもあっさりと受け入れ、宇宙主義に背を向けた。
「・・・まあ、それなら仕方ないね。無理強いは出来ないし、僕はわさびを買ってくることにするよ」
「おい、ちゃんと摺る奴も買ってこいよ」
少しわざとらしいく誇張したようなに悲しげな笑を浮かべる筵に梨理が条件を付け加える。
「うわー、摺りたての良く効くやつかー、嫌だなー」
筵はそう笑いながら梨理に応え、宇宙主義のほうを何かを期待している様にチラチラと振り返りながらゆっくりと歩き出す。
すると、その様子を見た宇宙主義は、驚くほどゆっくりと離れていく筵に向かって手を伸ばして呼び止める。
「・・・ちょっと待ちなさい、冗談です。ちょっと”ツンデレ”というものをしてみたかっただけです。貴方を手伝う事は吝かではありません」
「さすが、ポリえもんだ。ありがとう」
宇宙主義の返事を聞くなり、すぐさま旋回した筵は宇宙主義の機械とは思えない柔らかい手を握ると調子よく笑ってみせる。
「き、切り替えが早いですね」
宇宙主義は、いきなり手を握られた事に不思議な感覚を覚え、言葉を一瞬つまらせながら答える。
そして、能力を発動させ、集中しているのか一瞬だけ身体を硬直させハッキングを行うと、続けてSFに出てきそうな、空間にモニターを映し出すタイプのパソコンを呼び出す。
その後、ハッキングしたデータをそのパソコンに次々と送信して、1分と立たない内に全てを送り終えると、そのパソコンごと筵に手渡した。
それから、宇宙主義の席に座らされ少しだけそのパソコンの操作法についてレクチャーを受けていた筵はふと周りを見渡す。
「あれ?そう言えば蛭間さんの姿が見えないけど?」
「ああ、彼女なら上位クラスの何人かの人に連れていかれました。この国の言葉ではあれを焼入れと言いうようですね」
「ふーん、そうかい。それで君はどうしたの?」
「心配しなくていいから教室に居てと言われたのでその通りにしましたけど?関わると、ろくな事に成らなそうですから」
「はあ、ポリたん、それじゃあ60点だよ。僕がこの前言ったこと考えてくれなかったかな?」
筵はまるで小学生ほどの子供を優しく諭すように言う。
すると、宇宙主義は少しだけムスッとした様な顔になり、パソコンを取り上げると自分の胸に抱え込む。
「ああ、ごめんごめん。全てポリたん様が正しいですから」
「・・・どうすればよかったのですか?」
「?」
「どうすれば良かったか教えてくれないと、これは渡しません」
子供の様に意地を貼っている宇宙主義はさらに強くパソコンを抱く。
そんな様子をある意味で懐かしく、そして少し微笑ましく見た筵は先生のような優しい口調で話し始める。
「何が正しいかなんてないよ。さっきの君の行動にだって僕は60点をあげている。これがもしも大学なら無事に単位を取得出来て万々歳のはずだよ。ただ君が人間の心とは何か知りたいなら友人というものは必要不可欠だと思うから、その点でマイナスさせてもらったんだ。勿論、その友人が蛭間さんでなければならないという訳ではないから、ここで見限ってしまっても構わないと思うよ。だけどねポリたん、誰に頼まれた訳でもなく、転校生にこの広い学園を隅々まで案内してくれる子なんてなかなか居ないんだよ?例えばそう言う所も、僕がこの前言った力や能力だけでは無い”何か”なんじゃないかな?」
「・・・」
「僕から言えるのはここまでかな、これ以上は僕が言ったからそうしたという事に成りかねないからね、後は自分で決めるべきだよ」
「・・・どうしたらいいか教えてくれないのでこれは返しません」
先ほどよりも柔らかい表情になった宇宙主義は子供の悪戯のようにパソコンを抱き抱えたまま、筵とは反対側の斜め上の方を見上げ、筵に見えないように小さく笑う。
「そんな、ポリたん、そこを何とか、・・・あっ、そうか。蛭間さんともっと仲良くしたほうがいいと思う。それと友人を虐めるような奴は社会的に半殺しにする方がいいよ。だから、それをください」
そうして筵は必死に懇願し、手のひらを返しまくることで、監視カメラの映像を手に入れた。




