天使戦でも平常授業 6
「申し訳ありませんでした。筵様!!」
学友騎士団が淵を連れていってから少し時間が経った今、筵は電話を受けていた。電話の向こうの男は、土下座しているのではないかと思われるくらいの勢いで筵に謝罪している。
電話の相手はもちろん、斬人であった。
「気にしなくていい、それどころかファインプレーだったよ。学校では、君と僕は顔見知りでは無いことになっているからね」
「なんと寛大なお言葉、有難うございます」
斬人は感動の涙を流さんばかりの様子で感謝の言葉を口にする。
「なんだか今、義経と弁慶の、あの有名な話を思い出したよ」
「私が弁慶などとは恐れ多いです」
「おいおい、それを言ったら、僕が義経だなんて、歴史ファンから袋叩きにされるよ。まあ、僕を叩いても叩いた方の手が痛いだけなんだけどね」
筵は笑いながら話を続ける。
「淵ちゃんには君のことを古い友人で、困ったら頼れって伝えちゃったから、それなりの演技をよろしくね、あと話相手にもなってあげてね」
「かしこまりました。鈍空様のことはお任せ下さい」
「君には苦労をかけているね」
「いえ、栖様のご子息である。筵様の補佐をすることが私の与えられた使命ですので」
「それは良かった。ああ、それと人型のハーベストと戦うのには抵抗は無いかい?」
「同じ人型のハーベストでも、住んでいた世界が違いますので問題ありません。私は、栖様の支配する世界の民ですから」
「なら良かった。それじゃあ淵ちゃんと藤居さんをよろしくね。もしヤバそうなら2人を連れて逃げてね」
「はい、お任せ下さい」
その後、筵は斬人に感謝を述べた後、電話を切った。
「筵がよく許可したよな」
梨理は数学の問題集をやりながら、筵に語りかける。
Zクラスでは、基本的には時間割通りの授業を行われる。文化祭を終えた後、平常授業に戻る感じは普通の学校と大差無い。
「過保護過ぎるのも良くないかなと思ってね。淵ちゃんが自立する、いいチャンスだと思ったんだよ。君たちもZクラスにいる理由がなくなったら、出ていってもいいんだよ?」
「そうだな、気が向いたら出ていくよ」
皮肉ではなく本心から出た筵の言葉に、梨理は笑いながら答え再び、問題集をやり始める。
「筵先輩、ここがわかりません、教えてください。ていうか、代わりにやってください」
カトリーナは問題集を持ちながら机に突っ伏し、バタバタとしている。
「はいはい、じゃあ、代わりにやっちゃおうかな」
筵は席から立ち上がりカトリーナの席まで行った。蜂鳥がいないZクラスでは、筵が先生役をしている。
「いや過保護過ぎるだろ、教えるだけにしなよ」
譜緒流手は呆れたような顔でカトリーナと筵を見た。
「次は私もお願い、筵ー」
「あの、先輩、ぼくも・・・・・」
れん子と湖畔も数学の問題集に敗北して、筵に助けを求める。
淵の居ないZクラスでも、普段通りに平常授業が行われる。
淵を送ったことに誰も後悔はしていなかったが、ぽつんと空いた淵の席に少しの切なさを抱いていた。
Zクラスの全員が、まるで娘を嫁にやった父親のような喪失感を抑えながら普段通りを演じているようだった。