人の噂と平常授業 1
「ある男は、友人から飲み会の席で聞いた、その地域で有名な、白い服を着た女の霊が現れるという心霊スポットに、後日、一人で訪れてみることにした。そこは麓から車で30分程もかかる閑散とした山道の奥にあるトンネルであったが、やはり人気のスポットなのか、夜遅い時間にも関わらず、対向車がいて道を譲るのも一苦労であった。そんな苦労もありつつ、男はようやくトンネルの前までたどり着き、車から降りるが、しかし、いざ来てみると男はその雰囲気に圧倒されてしまい、数分周りを観察した後、怖気ずいて、引き返すことにした。男が車に乗りこみ、最後にもう一度、怖いもの見たさでバックミラーを覗き込むと、さっきまで誰もいなかった筈のトンネルの前に噂通りの白いボロボロのワンピースを着た身体中傷だらけで頭から血を流した女が立っていて、男を見るなり、凄い形相とスピードで駆け寄ってくる。それに恐怖し、男はエンジンを掛けて逃げようとするが、何度やってもエンジンは掛からない。焦った男はとっさに車の鍵をロックし、運転席の横に立ち車の窓を叩き続ける女に怯えながら、エンジンを何度もかけ直し続けて、ようやくエンジンを掛けること事に成功すると、その場を一目散に後にした。その数週間後、男は噂の提供者である友人と再び会う機会があり、この体験について語ると、その友人は大声で笑い出しこう言った”お前マジで行ったのかよ、あそこは有名だけど遠くて誰も行かねんだぜ。ただ噂はガチだからな、あそこには白装束を着た女の霊が出るんだよ”」
「んー、8点かな」
「それは、10点中だよね?」
「って、なんで、意味が分かると怖い話してるんですか?」
荒らされた教室から出たゴミを捨てに行っていた淵達がZクラスに戻るとそこには、ここ数日間見られなかったいつも通りの仲の良い筵と譜緒流手の姿があった。
「やあ、淵ちゃんこれは、知り合いから聞いた実話を僕が面白くなるように改変した物語なんだけどね」
「いや完全なる作り話じゃないですかそれ?」
「この話には人の噂を信憑性を確かめること無く、間に受けるのは良くないという今回の一連の噂でも他山の石とすべき教訓もあってだね・・・」
「なに突然、怖い話しだした事への辻褄合わせしようとしてるんですか?全然上手くまとまってませんよ?」
「・・・ごめん、なんか思いついたから話したくなっちゃった」
「白状するのはやいですね!?」
と、淵は筵には対して、あらかた突っ込んだあと、少し真面目な表情になり言葉を続ける。
「・・・はあ、まあ何はともあれ、お2人が仲直りしてくれて良かったですよ」
淵はいつもよりほんの少しだけ距離の近い筵と譜緒流手に安心した様な笑顔を向ける。
「ああ、お陰さまでね」
筵が笑い返し、数秒後見つめ合っていると、淵と共に教室に帰ってきた梨理が筵の肩を叩く。
「で、筵?この事件の元凶は分かりそうなのか?」
「いや、まだ全然。ただ、やっぱり元凶を見つけるには、まず教室荒しの犯人を見つける事が先決だと思ったよ」
筵が方針を伝えると、湖畔が申し訳なさそうに小さく手を上げる。
「で、でも、筵先輩?この教室からは証拠となるものは何一つ見つかりませんでしたよ?」
「うん、ただ証拠は無くても、無くなったものはあっただろ?そして、それがAクラスに置かれていた事からほぼ間違いなく、Zクラスを荒らした者とAクラスを荒らした者が同一人物だと言うことが分かり、何故そんなことをしたかと言えば・・・」
「はいはい、はいはいはい!!」
湖畔とはうって変わって、普段ダウナー系なのにゲームやクイズなどの競うものに関しては、やる気のあるカトリーナが勢いよく手を挙げる。
「うん、じゃあカトリーナちゃん、どうしてかな?」
「AクラスとZクラスで争わせる為ですね。うちらはもちろんの事、Aクラスを嫌っている生徒も少なくないですから」
「ああ、そういう事か」
「なに、譜緒流手?なにかわかったの?」
カトリーナの意見を聞いた譜緒流手は筵が何か言うよりも先に小さく呟き、それを聞いたれん子は詳しく尋ねる。
「だから、さっきオレがAクラスの矢式さんと模擬戦場で戦っていたのを見てた人の中に犯人が居る確率が高いって事だろ?まあ、もっとも完全に何者かに操られていたなら別だけど・・・」
「って戦ってた?譜緒流手何やってんの?」
「喧嘩だよ。ああ、安心してほぼ勝ったみたいなものだから」
何気なく言われた譜緒流手の言葉に驚いた様子のれん子。
しかし、そんなれん子に対し、譜緒流手は不思議そうに首を傾げている。
「いや、そういう事では・・・」
「いや、 ならば良し!!」
「梨理!?」
譜緒流手に詳しい話を聞こうとするれん子の言葉を遮り、グッと親指を立てた梨理が割って入る。
「コホン、まあ、とにかく譜緒流手先輩と矢式先輩の喧嘩を観戦していた人の中に犯人がいる確率が高いからそこを調べるって事ですよね。それはまあ分かりましたけど、筵先輩その人たちの顔、覚えているんですか?」
淵は話が脱線しかけていたのを上手くまとめると、筵へと疑問を投げかける。
「いや、全然?・・・でも、あそこには確か監視カメラが配置されていた筈だろ?つまりここはポリえもんに泣きつくのが最善の手じゃないかな?」
そう言うと筵は何時通りのZクラスの会議を懐かしく、そして微笑ましく感じながら、何時通りの半笑いを浮かべた。




