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スキャンダルと平常授業 8

 譜緒流手と凛は、お互いに呼び出そうとしていた剣を収めると自分たちに向けられ放たれた、その強い声の方へと目を向ける。


 その先には、かぐやを初めとする学園の1軍の面々が揃っていて、その中には、勿論日室刀牙の姿もあった。


 「あー、そこにいるのはかぐやさんじゃないか。いや聞いてくださいよー、この人がオレの事を、Aクラスであった教室荒らしの犯人だって言って聞かなくてさー。それでこっちもカッとなって、つい大海って奴を教えてやりたくなっちゃったんだよ」


 譜緒流手は、らしからぬ事を言って、再び挑発するように凛を横目に見る。

 

 「だ、だって、かぐや、これが教室に落ちていたのよ」


 負けじと凛はポケットから譜緒流手のものと思わしき携帯ゲーム機を取り出す。


 それを見たかぐやはため息をもらすとゆっくり、凛に近づき、そのゲーム機を受け取り全体を隈無く観察する。


 そして再びため息を付くと、譜緒流手に向けてそのゲーム機を投げ渡す。


 「ちょっと、かぐや!」


 「凛、少し頭冷やしなさい、どんな噂聞いたか知らないけど、クラスを荒らしたのはコイツらじゃないわ。コイツらは確かにハーベスト戦には参加しないで遊んでいるだけかも知れないけど、他のクラスを荒らすようなつまらない事・・・いや、面倒臭い事はしない。そんな事するくらいだったら、それこそ不謹慎に内輪で盛り上がるはずよ」


 「ふーん、よく分かってるじゃん」


 投げ渡されたゲーム機を受け取った譜緒流手はかぐやの言動に少し驚き、関心した様子で言う。


 「・・・譜緒流手、アンタもアンタよ。こういう時、何時ものアンタだったら自分の能力と同じ様に軽く受け流すでしょう?」


 「だから、理由はさっき言ったでしょ?それにオレの愛機が人質にとられてたからね」


 「・・・その、自分の物全てに名前を書く癖、治ってないのね」


 「えっ、治す必要あるかな?別に悪い事ではないと思うけど」


 譜緒流手はかぐやから返却されたゲーム機の裏返し、そこに貼ってある自身の名前が書かれたシールを見る。


 「そんなに取られるのが嫌なんだったらアイツにも名前書いておいたらどう?」


 「・・・はあ?なにそれ、どういう意味?別にオレのとかじゃないけど」


 譜緒流手が喧嘩を買った本当の理由を察したかぐやは軽い小言として言ったつもりだったが、その言葉は思いの外、譜緒流手のかんに触ってしまい、譜緒流手は声のトーンを落とし、睨みつける。


 それにより、せっかく収まりそうだった諍いが再び、再加熱し、今度はかぐやも巻き込み次のラウンドへと進みかけていた。




 「えー、譜緒流手ちゃんの物にして貰えるなんて、ただのご褒美だと僕は期待しちゃったのに、違ったのかい?」




 争いが静かにヒートアップして出来た、凍りついた空気を引き裂くように、緊迫感の無い声が響く。


 そして、その声の主である筵は悠々と観覧席から飛び降り、そのまま、譜緒流手達の方へと近づいていく。


 そんな厄介者の登場に譜緒流手以外の表情は強張り、譜緒流手の表情は少しだけ緩む。


 「はあ?そんなのこっちから願い下げだよ?百歩譲ってZクラスの備品がいい所じゃないかな?」


 「なるほど、備品ね。だってさ、藤居さん。何なら今ここで”Zクラス”と名前を刻もうか?」


 筵は何時もの半笑いでかぐやに笑いかけると、腕捲りをし、取り出したサバイバルナイフの刃では無い方を腕にあてがい数回叩く。


 その時の筵の表情には躊躇や恐怖と言った感情は感じられず、その様子にかぐやは息を飲み押し黙ってしまう。


 「いやいいよ。床とかが汚れるだけだから、心にでも刻んどけし」


 「ははは、僕よりも床の心配とは流石は譜緒流手ちゃんだね」


 そのままでは有言実行しかねなかった筵だが、ここは大人しく譜緒流手の言葉を受け入れ、サバイバルナイフをしまうとそのまま、凛の方に目を向ける。


 「・・・と言うことでごめんね矢式さん。僕はZクラスの備品となったから、Aクラスの君とはどうともなれないんだ。・・・だから、そこにいる日室くんに乗り換えるって事で、どうか1つ、快く即諾(そくだく)してくれないかな?」

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