表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/256

スキャンダルと平常授業 7

 「いったい、どうなっているの」


 「この程度かい?・・・とか言った方がいいかな」


 「どちらでも結構!!」


 少し息切れした様子の凛だったが、譜緒流手の挑発にも似た言動を聞くと、再び光で出来た剣を構え直す。


 凛の能力、光輝物質(ライトマター)は光を硬質化した物質を生成し、それを成型して様々な形を成し武器とする能力で、同じ様な性質の能力、暗黒物質(ダークマター)と同系統の能力であった。


 そして汎用能力ではあるものの、この光輝物質(ライトマター)の能力者の中で凛程の使い手は世界でも他には居らず、努力により勝ち取ったと自負する、その地位を凛自身も誇りに思っていた。


 だがそれ故に、攻撃を全て受け流してしまう譜緒流手の能力に対する凛の困惑は計り知れなかった。


 「くっ、これならどう」


 剣での斬撃が譜緒流手に対してして効果が無いと悟ると、凛は上空に手を掲げ構える。


 すると、凛の周囲に光が集まり十数体ほどの天使の輪の様なものを付け羽根の生えた光の球体が出現する。


 「これだけの数を操れるようになるまで私がどれだけの努力をしてきたかあなたに分かる?毎日毎日練習して、1つずつ操れる数を増やして行ったの」


 「はあ、まあオレは貴方が努力していない、なんて言った覚えはないんだけどね・・・」


 譜緒流手はうんざりという様子で、少しずつ動きながら浮遊する天使型の光の球体を見ながら呟く。  


 「・・・重症を負っても恨まないでね」


 凛は上空に掲げた方の手の指を譜緒流手に向けて曲げる。


 するとその指示に従うように光の球体の半数が譜緒流手に向かい高速で飛び立ち、至近距離に到達すると次々に爆発する。


 数発の爆音と立ち込める煙、その威力に試合を観戦していた野次馬たちは唖然としてしまい、少しの静寂がその場を包む。


 そして、その数秒の静寂は凛に自分のした事を再認識させる時間を与えた。


 「・・・っ!、だ、だれかこの中に治癒能力者はいない!?」


 我に返った凛は、自分よりも圧倒的に力の劣るものに対して、本気を出してしまったことに気付き、周りの観客に呼び掛ける。


 だが、


 「ちょっと、ちょっと、何勝手に勝った気になってんの!」


 爆煙の中から譜緒流手の声が響くと同時に、黒く小さい影が凛に向かって飛び出す。 


 「!?」 


 突然の事に凛は、残っていた光の球体に指示を出し、自身に向かってくる譜緒流手に攻撃を仕掛けるが、譜緒流手はその爆発をものともせずにどんどん距離を詰めていき、そして凛の目の前まで到達すると、右手で相手の服の襟を左手で相手の右腕を掴む。


 「ちょっと油断しすぎじゃない?」


 「くっ!・・・」

 

 必死に抵抗し、空いている方の左手で譜緒流手の頭を掴もうとする凛。しかし。


 「へ?・・・」


 まるで立体映像に触れているかのように凛の手は譜緒流手の顔をすり抜けていった。


 先程も光の剣での攻撃を同様の方法でかわされていたが今回は、話が少し違っていた。


 何故なら、凛の腕が譜緒流手の頭をすり抜けている最中も、胸ぐらと腕は常に譜緒流手に掴まれていて、譜緒流手から引き寄せられる力を受け続けていたからである。


 そして、呆気に取られている凛はいとも容易く、空中を一回転して地面に叩きつけられた。




 そう、それはいわゆる一つの背負い投げであった。



 

 「あー、あれだよ。オレだってこの能力と組み合わせる戦い方を自分で考えて編み出したんだよ?まあ、やっている事は難しくないけど、1から自分で考えるって言うのはちょっとばかり苦労もあったし、・・・”努力”ってのもしたと思うんだよね?」


 背負い投げによるダメージで今だ立ち上がれない凛に向かい、問いかけると、続けて、見てはいけないものを見てしまった時のように絶句する観客を少し得意げな顔で見渡す。


 「・・・私はここでも負けるの・・・」


 「ん、ここでも?」


 悔しそうな表情を浮かべながらゆっくりと立ち上がる凛の言葉に引っかかりを感じ聞き返す譜緒流手。


 しかし、凛は譜緒流手の問いには答えず小さく深呼吸をすると、手に光輝物質(ライトマター)ではない神々しい光が集まっていく。


 それは(まさ)しく聖剣の光であった。


 しかし、その(ただ)しく光る聖剣の輝きも、ただの意見の相違による喧嘩であるこの模擬試合の意図を考えると、酷く場違いで空気を読めていないと言わざるを得ないものになってしまっていた。


 そして、この状況での最悪な所は、今の譜緒流手の精神状態では凛の聖剣に対し魔剣を持って対峙しかねない事であった。


 「はあああ!来なさい、エクス・・」


 「・・・」


 凛の手元の光が聖剣の形を成し初め、それと同じ位のタイミングで譜緒流手の手にも黒い闇の煙のようなものが微かに集まっていく。


 そしてその間、お互いに睨み合っていた凛と譜緒流手からは本気である事がヒシヒシと感じとられ、このままでは危惧していた最悪の状況が現実のものに成りかねなかった。


 そんな色々な意味での危機的状況に、これまではずっと傍観を決めこんでいた筵もようやく動き出そうと観客席の前の手すりに手をかける。

 


 しかし、その時。



 「貴方達何をやってるの!!」


 その場に2人の昔馴染みの放つ、強い声が響いた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ