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スキャンダルと平常授業 6

 人の噂も75日とは言うが、実際の噂というものは、もっともっと短いスパンで流れゆくものであり、そして噂の盛り上がりが頂点を迎えるのは案外一瞬の事でそこからは収まるまでのなだらかな下り坂に過ぎない。


 しかし、今回のそれの異常性は翌日、さらにその翌日と、日を重ねる毎に噂が大きく、そして辛辣(しんらつ)なものになっている事にあった。


 それらは既に最初の三角関係云々(うんぬん)という噂を逸脱し、”実はハーベストとの戦闘中に気に入らない奴を見殺しにした”などの笑えない話にまで発展しつつあった。


 さらにこのパンデミックの特徴として、下のクラスに行くほど影響が大きくなる傾向にあり、逆にAクラスの生徒達は殆どその噂に惑わされてはいないというものがあった。


 しかし、前提として能力は心に宿り、高レベルの能力を持つということは強い心や信念を持っているということでもあった。


 それ故に、上位クラスの者達が噂に惑わされぬ心をもっていたから影響が無いのか、はたまたこの前の天地堕としと同じ様な理由なのかは現段階では判断がつかなかった。




 と筵はそんな事を考えながら、何者かによって、酷く荒らされたZクラスの教室を眺める。


 中では既に、雑に倒された椅子や机、バラバラに散らばっていた漫画などの娯楽品などを湖畔や淵が片付け始めていた。


 最近はいい噂も聞かれるZクラスではあるが、やはり学園全体で見ると今だに根強い不人気さを誇っている。


 そんな所に、最近の根も葉もない噂が生んだ火種をホウセンカの如く拡散させられては、歪んだ正義感を持った者たちによって私刑を加えられるのは必至だったかもしれなかった。


 そんな状況にもかかわらず、筵は思いのほか冷静に荒らされたZクラスの中を眺め、顎に軽く手を触れると思考を広げる。


 この時の筵の中に、クラスをめちゃくちゃにされたことに関する怒りは小さく、それよりもどちらかと言うと、その奥に黒幕のような存在の影がチラつくことがどうにも気になっていた。

 

 「まさか、敵の精神攻撃とかじゃねーよな?」


 筵が思考を巡らせていると、筵の横で箒を片手に教室を眺めていた梨理が無理矢理に肩を組んでくる。


 普段こんな状況を見たら真っ先にキレて、心当たりに片っ端から殴り込みにでも行きそうな梨理だが、最近の異常と言える学園の雰囲気から、この嫌がらせが、ハーベスト教団ないしは、新たな知能の高いハーベストによる攻撃ではないかと疑い、怒りはさほど無いように見て取れた。


 「攻撃かはわからないけど、普通では無いね」


 「ちっ、はあ・・・まあ、しかたねー、今回は犯人を社会的に殺すのは止めておいてやるか・・・だからよー筵、さっさと原因突き止めろよな」


 頭を軽く抑えながらため息混じりに言った梨理はそのまま、大人しく荒らされ教室の片付けに合流する。


 それから筵も梨理の後に続こうと歩みを進めようとした時、Zクラスのドアが勢いよく空いて、慌てた様子で笑が駆け寄ってくる。


 「ほ、本田さん大変です。筒崎(つつざき)さんが・・・」


 筵は笑の様子を数秒間、何時の半笑いで見つめた後、梨理達の方へと目をやりアイコンタクトにて外出の許しを得ると、笑に連れられZクラスを後にした。

 

 



 「どうしてこんなことになっているんだい?」


 模擬戦場に連れてこられた筵は、その中心のフィールドの上に立って睨み合う譜緒流手と凛を眺める。


 さらに、周りの観客席を見渡すと噂を聞きつけ集まった数名の生徒が、面白半分に譜緒流手達を見ているのが確認できた。


 筵はそういった野次馬達にも目を向けつつ、この状況について笑に訪ねる。


 「ええ、今日、Aクラスの教室が荒らされるという事件があったらしいんすよ。そこにZクラスの正確には筒崎さんの私物が落ちていたようでして・・・」


 「ふーん。これは絵に描いたような展開だね。それで譜緒流手ちゃんの方も前回の諍いと今回のZクラスが荒らされた事件でのイライラが合わさって逆に挑発し返して、今に至るって所かな?」


 「そこまでは分かりませんすが・・・って、Zクラスも荒らされたんすか?実は私の机もだいぶ荒らされたよ、本当に何なんすかね?」


 「うんまあ、君の机は別の案件だろうけどね。・・・さあどうしたものかねー」

  

 取るべき選択に迷い頬ずえを付きながら、筵は再び模擬戦のフィールドへと目を下ろした。





 「本当に良いの?はっきり言って勝負にならないと思うけど」


 「それはこっちの台詞だよ。Zクラスの存在理由、他の人に聞かなかった?今、謝って、ゲーム機を返してくれれば色々とゆるして上げるけど」


 譜緒流手はそう言って、凛の制服の膨らんだポケットを指さす。


 「くっ、・・・そもそもあなた達は、こんなものを学園に持ち込み、皆が命を掛けてハーベストと戦っている時に遊んでいるのですか?そう考えただけで・・・」


 凛は制服のポケットから譜緒流手の私物のゲーム機を取りだし、上空に掲げ、地面に叩きつけようとするが、やはりそこまでするのは気が引けたのか、腕は上空からゆっくりと下がっていく。


 「ちょっと、壊したらちゃんと弁償して貰うからね。あと、流石のオレ達も警報がなっている時は、文明レベルをしりとりにまで下げて大人しく待っているよ。ん、それとも何?皆様が戦っておられる時は常にお祈りを捧げるのが正解だったかい?」


 「・・・」


 譜緒流手の言葉に一瞬、苛立ちを顕にした凛だったが、深呼吸を1回して、持ち直すとゲーム機を再びポケットに入れ、戦闘の構えをとる。


 「・・・忠告はしましたからね」


 「うん大丈夫、何処からでもどうぞ」


 対して、譜緒流手も先程までの言動から比較的冷静には見えたものの内心はイライラが溜まっていたようで、少しの殺気をチラつかせながら、睨み返す。

 

 「では、行きます!!」


 凛はそう叫ぶと、何も構えない構えを取っている譜緒流手に向かって走り出した。

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