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スキャンダルと平常授業 4

 その翌日には、(えみ)の新聞と昨日の筵と凛、並びに譜緒流手のやり取りはさらに大きな学園の噂になり、その上、それらには尾鰭やら背鰭やらが付きに付いて、学園中を1匹泳ぎしていた。


 「いや~、本当にゴメンなさいっす。まさかこんな事になるとは」


 「気にしなくてもいいよ。今回、譜緒流手ちゃんは自分から巻き込まれただけだからね。・・・それに君、顔が笑っているよ?」


 「い、いや、これは、そういうんじゃなくてっすね・・・」


 昨日とだいたい同じ時刻辺りに、丁度、昼食を取り終え、Zクラスに戻ってきた筵を呼び止め、謝罪した笑だったが、筵にある意味での図星をつかれ、言葉を詰まらせる。


 「良いんだよ。人間なんてものは最初から他人の不幸を本気で悲しめるようになんて出来ていないんだからね。仕方の無いことさ」


 「だから誤解っすよ〜。不幸を喜んだ訳では無いっす。・・・ただ、今まで見向きもされなかった私の新聞が、たくさんの人に読まれている事が嬉しかったってだけで他意はないんすよ」


 首を必死で横に振り、誤解をとこうとする笑。


 そんな状態の笑を何時もの半笑いで見ていた筵は不意に笑の隣にいる少女に目を向ける。


 すると、筵のその視線に気づいた笑は気を取り直すと、その少女の方へと手をむける。


 「ああ、そうそう、こちら美宇宙(みそら)シュギさんです。・・・ほらほら昨日話した可愛そうな転校生っすよ」


 笑は後半の部分を筵にだけ聞こえるように耳打ちし、笑いかける。


 そして笑の紹介したその少女はというと、筵から気まずそうに若干目を逸らして、居心地が悪そうにしていた。


 「へー、”美宇宙(みそら)”さんね。初めまして、僕は本田(ほんでん)(むしろ)です。困った事があったら何でも言ってね」


 「・・・ええ、手始めに貴方のその変な笑いが最高に腹立たしいので何とかしてください・・・なんですか?我々の名前に何か文句でもありますか?」


 「いや、特にないよ。ただ名前をどうするか試行錯誤している君を思うと、とても微笑ましいなーと思うだけさ」


 その少女の腕や足の関節に機械特有の節目は無く、見た目は普通の人間の女子そのものであったが、筵はその少女の容姿や雰囲気から、それが友人であると察し笑いかける。


 「なんすか、なんすか?お2人は知り合いだったんすか?これはあれっすか?本田筵を巡る三角関係に新たな火種っすか?」


 筵と宇宙主義(コスモポリタン)の様子を興味深そうに見ていた笑は、メモ張を取り出すと鼻息荒めに2人に詰め寄る。


 「いやいや強いて言うなら、強敵と書いて友と読む間柄だよ。そして今では互いの健闘を讃え、認め合い、家族ぐるみの付き合いをする程度の仲さ」


 「なるほどー、親公認の仲って事っすねー」


 さらに筵に詰め寄り目を輝かせる笑。


 すると、それを横目に見ていた宇宙主義がため息を漏らす。


 「はあ、いやまあ、間違ってはいないんてすが・・・何で、小さな火種を自分から大きくするような真似をするんですか?我々の方まで飛び火するとかは本当に勘弁して欲しいんですけど」


 昨日今日での一連の騒動を知っている様子の宇宙主義は筵に釘を指す目的でそう告げると、学校や外出先で兄妹と出会った時の様な素っ気のない態度で筵に対峙する。


 しかし、筵はそんな宇宙主義の対応とは裏腹に尚も馴れ馴れしく、例えるなら、母親と買い物に来ている所を友達に見られてしまって、嫌がっている思春期の息子に対する親の様な馴れ馴れしさで喋りかける。


 「ポリたん知ってるかい?1度焼き尽くされ焦土となった森にはもう火はつかないんだよ?」


 「・・・はあ、まあどうでもいいですが、炎上するならせめて対岸でお願いしますね。我々は学ぶべき事を学ぶ為にこの学園に来ただけですから」


 「流石はポリたん、見事な危機管理能力だね。まさに”火”の打ち所が無いと言った感じかな?」


 「それを言うなら”非”の打ち所でしょう・・・」


 宇宙主義はため息混じりに疲れた様に力無くツッコミを入れた。


 


 「ああ、そうだ。今日はついでに譜緒流手さんにインタビューしたかったのですがいいっすかねー?」


 笑は拳をもう片方の掌にトンと打ち付け、白々しくそう言うとZクラスの中を背伸びでのぞき込む。


 「譜緒流手ちゃんがいいって言うならいいんじゃないかな?僕は譜緒流手ちゃんが嫌がっているのに執拗く付きまとったりしない限り何もしないよ」


 「どうもっす」


 筵に感謝の言葉を述べた笑はいそいそとレコーダーなどを取り出しインタビューの準備に取り掛かる。


 「君もAクラスやらZクラスやら東奔西走で大変だね。たまには自分のクラスをネタにすることとかは無いのかい?」


 筵の不意な問に笑は準備する手を一瞬止めて、コンマ数秒後再び準備を再開する。


 「いやいや、うちのクラスの連中なんて何の面白みも無いっすよ。あれらは自己同一性を欠いたドラマ無き者達っす。良くも悪くも秀でた者にしか物語は宿らないんすよ」


 笑はそう言い、含みを持たせたように笑うと、すぐに立て直し元気よくZクラスに入室して行った。

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