スキャンダルと平常授業 2
同日、昼休み。
筵達Zクラスメンバーは、登校と下校以外のタイミングで唯一、他の生徒と接する可能性のある昼食時の食堂で多くの生徒達が集まる人混みを発見する。
人混みの集まっている所は掲示板の様になっていて、筵は何故そこに人が集まっているのか何となく察しつつ、自身の注文した商品を持って席に戻る。
すると、先に座っていたZクラス1年、鈍空淵が声を掛けてくる。
「何ですか?あの集団は?」
「掲示板の辺りに集まっているみたいだから、多分戦死者でも張り出されているんじゃないかな?」
「思い出したように、不謹慎な事を言い出しましたね」
苦笑いの淵はそう言うと、残りのメンバーが戻ってくるのを待つ。
そして全員が席に座ると、最近よく感じる今までとは毛色の違う視線を感じつつも、本人達はいつも通りの様子で、取り留めのない会話を交わしながら食事を始める。
しかし、一つだけ何時もと違う事として、昨日からずっと拗ねて会話をしてくれない譜緒流手が筵とは対角線の位置に陣取っていて、筵の問いかけなどには応じないものの視線はしっかりと筵を見いた。
それはまるで野生動物の警戒にも似た行動であった。
「じゃじゃーん。本田さん早速完成させたので是非読んでみてくださいっす」
筵が食事を口に運ぼうとした瞬間、突然テーブルの横から生えるように顔を覗かせた笑は、掲示板に貼ってあるものと同じものを取り出し机に広げる。
笑の驚く程の仕事の速さから、授業をサボったのだと察しながら笑作の新聞へと目を落とす。
『能力者ランキング上位の天才、矢式凛の過去に迫る』
『浮世化異変解決の功労者、本田筵と矢式凛との関係』
『学園の光と影と矢式凛を巡る三角関係』
その新聞には、筵がざっと目を通しただけでもその様な言葉が見出しとして綴られていた。
そして、本文では、まず凛が前に通っていた外国の学園での評判や実績などが詳しく書かれ、なぜ天才能力者と呼ばれるのかが事細かに記されていた。
その後、新聞は先日異変を解決した功労者である筵との過去に触れ、さらに凛が筵と刀牙を間違えた事から、三角関係に発展するかもしれないとの憶測が言葉巧に書かれていた。
「どうすか?かなりの力作っすけど」
笑は自慢げな様子で語ると机の上に置いた新聞をZクラス全員が見える様に少し奥へと移動させる。
「ははは、なんじゃこりゃ」
「筵先輩もスキャンダルを取り上げられる様になりましたか」
梨理とカトリーナは新聞をみて冷やかす様にに笑っていて、その他のメンバーも面白半分で熟読し始める。
しかし、相変わらず譜緒流手だけは、それに目を向けることなく、自身の昼食のラーメンを先程よりも若干大きな音をたてながら啜る。
「ほらほら、譜緒流手ちゃ〜ん。見てー、刀牙くんと三角関係だって〜、読み物としては中々面白い事が書かれてるよ〜」
「読み物としてはって、酷いっすね〜」
筵は譜緒流手にもその新聞を勧めるが、やはり、興味ない風を装いそっぽ向いてしまう。
「ちょっと筵先輩いい加減仲直りしてくださいよ」
「でもね〜。淵ちゃん。譜緒流手ちゃんが僕個人に対して怒っているならまだしも今回は違うから難しいんだよ」
小声で耳打ちする淵に見た目は変化していないものの内心は困りに困っている筵が答える。
その時。
「ちょっと蛭間さんこれはどういう事ですか?」
明らかに怒っている少女の声が響き、笑の元へと詰め寄ってきたのは、今回の新聞の主役、矢式凛であった。
凛の手には笑の作った新聞が握られていて、不機嫌そうな表情でそれを笑に突き返した。
「な、なんすか?今回はそこまで過激なことは書いてないっすよ」
凛の様子に少し焦った笑は筵の後ろに回り込み盾にしつつ、聞き返す。
「私、話しましたよね。小中学生の時は能力の才能が無くて、散々普通以下と罵られていて、努力して何とかここまでになったって、それを天才なんて言葉で片付けて・・・」
人には人それぞれのタブーが存在するが、この矢式凛のそれは天才呼ばわりされる事だったらしく、今、筵たちの前に現れた凛は初日とはだいぶ印象が違った。
「とにかく、書き直すか、撤去するかして下さい」
「い、いやー、私も授業サボって頑張って仕上げたっすが・・・」
困ったように愛想笑いを浮かべる笑。やはりこの学園にはしっかりとカーストが存在していて、上のクラスの人にはどうしても頭が上がらないという風潮が根強くあった。
筵はそんな状況にため息をもらすと、仕方なく凛を説得する為、口を開こうとするが・・・。
「でも、これ結構よく出来ていると思うけどね。色も綺麗だし、仕事も細かい、これは生半可な努力では無いと思うね」
凛の前に立ち塞がったのはさっきまで筵とは反対側でひたすら食事に集中していた譜緒流手であった。
「あ、貴方は、確か譜緒流手さん?」
凛の問に対し、譜緒流手は振り向き、凛の顔をじっと見つめた後、更に一歩詰め寄って問いかける。
「あとさ、貴方のような天才が自分の事を普通以下だ。なんて宣う行為は他の人をイラつかせるのと同時に貴方以下の人間を普通以下に押し下げているということを忘れてはいけないよ。それに貴方がどれだけの努力をしたかは分からないけど、みんな少なからず努力はしているんだ。貴方は上ばかり見ていて眼中には無いのかもしれないけれど、貴方は貴方を一方的にライバル視して、そして知らず知らずの内に敗れさった者達の屍の上に立っているんだよ。そんな者達にくらいあいつは天才だから仕方ないと、言わせてあげてもいいだろう?貴方はそれさえ甘えだというのかい?例えば、全ての人間が貴方並に努力すれば、貴方レベルになれると保証をしてくれるのかい?・・・それと、よく努力は嘘をつかないって言うけど、あれは言い得て妙だよね。だって努力は才能のない奴になんて決して期待を持たせない。残酷に”お前はこの程度だ”と真実のみを叩きつけて嘘なんて付いてくれやしないんだから」
約1日ぶりに聞いた譜緒流手の声と、その言動に一同は驚きつつ、数秒間が経ち、淵がその沈黙を破り重い口を開く。
「譜緒流手先輩が筵先輩みたいな事を言ってる!」




