スキャンダルと平常授業 1
翌日、筵がいつも通り学園へ登校すると学園中は本日、本格的に転入してくる矢式凛の話題で持ちきりであり、昨日の刀牙と1件により、その矛先は筵にまで及んでいた。
しかし、筵はそんな事は何処吹く風で、その足は真っ直ぐにZクラスへと向かっていた。
そして、周りの者達も筵の事を横目に見てヒソヒソと噂話をしているだけに留まり、ただ筵の歩く道を何も言わずに開けていた。
しかし。
「本田筵さんですよね。私は2年Cクラスの新聞部(自称)の蛭間笑と申します。天才転入生との関係についてお聞かせくださいっす」
小柄な1人の少女がその空気を打ち破り、筵の歩く道の前に立ちはだかる。
因みに学園には部活動が存在しないため、恐らく彼女が独自で色々調べ、学園の新聞の様なものを作っていると思われた。
その様子に周りのザワザワの音量は1回り大きくなり、明らかに注目が集まっていた。
「うーん、向こうのプライバシーもあるから答えられる範囲でね」
「ご協力感謝するっす」
筵が何時もの半笑いを笑に向け二つ返事でそう言うと、笑は深めにお辞儀をして共にゆっくりと歩きながら、録音機器を筵に向ける。
「それでは改めて、本田さんは世界でも100位に入ると言われている天才能力者、矢式凛さんと幼馴染みで、昔、何かしらあったという情報があるっすが、それは事実でしょうか?」
「まあ、幼馴染みだったというのは事実だけど、特に何も無かったと思うよ?それに今となっては、Aクラスに編入することが確定している彼女と僕とでは釣り合わないだろ?そういうスキャンダルを取り上げたいなら日室くんと辺りがいいんじゃないかな?」
「まあ、それはそれでも別でやるとしてですね・・・」
笑は筵から一瞬目を逸らすとジャーナリストの眼光でニヤリと笑い、その後切り替えて話を続ける。
「と言うか、何を言ってるっすか?この前の異変の時に活躍した真の功労者が実は本田さんであると言うのは、学園中の噂になっていますっすよ。今や一部からは学園のルールに縛られぬ、アナーキーな裏のフィクサーとして隠れファンも少なくないと聞きます。かく言う私もしっかり能力失ってましたから、本田さんに助けられて、すっかりファンすよ」
笑はそう言うと頭の後ろに手をやって、畏まったように後頭部を撫でる。
しかし例え、彼女の言っていることが事実だとしても、今も尚、学園内にアンチの多い筵に対し、好意的な発言をするのはあまり利口なこととは言えなかった。
筵はそんな笑のリスクをものともしない、特ダネに対する熱意と人の信用を得て、懐に入ってしまうテクニックに関心しつつ周りを横目に見る。
「それでも、良くこの空気で僕に話しかけられたね」
「周りの空気なんて気にしていたら、本当に知りたい事になんてたどり着けないっすからね。そんな変なプライドなんて邪魔なだけっすよ。言うなれば、プライドなんてかなぐり捨ててでも、真実を追い求めるのが私のジャーナリズム道であり、プライドと言う感じっす」
そう言って笑は無邪気に笑ってみせる。
それから筵は笑の問に答えられる範囲で答えながら、共に暫く歩き、数分後のZクラスの教室から少しだけ離れた辺りのところでインタビューを終える。
「今日はありがとうございました。これでいい文が書けそうっす」
「それはどうも、完成したら僕にも見せてね。・・・ああ、大丈夫、変な事を書かれていないかのチェックとかじゃないから、僕は今更どんな風に言われても気にしないからね」
「いやいや、悪い様にはしないっすよ。それに真実と確認出来たものしか真実として綴らないのがモットーっすからね・・・まあ、推測としてはバリバリ書くんすけど」
笑は最後の部分を小声にしながら言ったが、類まれなる地獄耳を持つ筵には、しっかりと聞こえていた。
だが、筵は特にその事を気にする様子が無く、軽い挨拶をして別れようとする。
「ああ、そうだ。転校生繋がりで言えば、明日、また転入生が入るという話があるっすよ。なんでも、手続きはしっかりされてたのに、今日の朝までだれも知らなかったみたいで先生方は焦ってましたね。・・・でも編入先は私のクラスらしいんすよ。矢式さんの後って、少し可愛そうなタイミングっすよね?」
笑はインタビューのお礼と言わんばかりに、恐らく今朝仕入れたばかりの特ダネをドヤ顔で筵に告げる。
「そうなんだ〜、きっとその子も不安だろうから仲良くして上げてね」
「えっ?は、はいっす」
何故、筵がそんな事を言ったのか分からなかった笑は、少し驚きながら流れで返事をする。
その後、再び別れの言葉を言うと、筵と笑はそれぞれのクラスへと向かって行った。




