???と長い放課後を・・・ 2
祭が姿を消してから数十分が立ち、料理の準備も一通り終わらせた筵はリビングのソファーに腰掛け家族の帰りを待っていると、自室にいた本田家次女、憩がリビングに降りてきた。
「ああ、お兄ちゃんおかえりー、あれ?祭ちゃんは?」
「祭ちゃんなら、すでに決定してしまっている運命に抗い、自分を含めた全てを欺くべく、宝くじを買いに行ったよ」
「なにそれ、自暴自棄になって全財産宝くじにつぎ込みに行ったの?」
憩は筵の言葉が冗談だとわかった上で、笑いながら返し、冷蔵庫から牛乳を取り出し飲み始める。
「そう言えば憩ちゃん。この前、能力者が攻めてきた時、憩ちゃんも一緒に戦ったらしいね。なんで隠れてた、なんて嘘ついたの?」
「ありゃりゃ、バレちゃったか・・・」
憩はやってしまったと言う様な顔で呟き、その直後、ケロっと表情を変え、筵に少し困ったような可愛らしい小悪魔の様な顔を向ける。
「いや、でもね。一々報告する程の相手でも無かったんだよ。これは本当の話。だからお願いお母さんには言わないで」
上目遣いで両手を合わせ懇願するという、下の子にのみ許された必殺技を行使してくる憩。
この技は年の差が離れていればそれだけ命中率が上がる。そして、筵と憩の年の差は7であり、この数字はほぼ必中のラインであった。
「全く仕方ないな〜・・・でも、日室くんも負けてしまう程の相手なんだから油断はダメだよ?」
「えっ?でも、刀牙って元々、そんなに強くなくない?」
「・・・」
憩は変な事を言っている素振りなど微塵も無く、例えるなら、天才が1+1を2と答えている時の様な言い方で首を傾げる。
そこには、自分が天才である傲りも無く、ただ、誰にも自慢できぬ、当たり前の事実を述べていると言った感じだった。
しかし、それでいて表情は無邪気そのものであり、筵に笑顔を向けつつ話を続ける。
「でも、例え負けたとしても何度でも立ち上がって最後には勝ってくれればいいんだよ。漫画とかのヒーローだってそうでしょ?」
「うん、そうだね。その通りだよ。きっと日室くんは憩ちゃんの期待に応えてくれるよ」
筵の返答に憩はチャームポイントの八重歯を見せながら笑い、踊るようなステップで筵が先程作った夕飯を見る。
「へえ、美味しそうなのあるじゃん」
「もう少ししたら、楼ちゃんと父さんも帰ってくるから食べちゃだめだよ」
「はいはい、分かってるよー」
筵に摘み食いを止められた、憩は筵の座っているソファーの横に腰掛け、テレビを付け、自身の好きな特撮を再生する。
すると憩は話しかけることが、はばかられるほどに物凄い集中力でテレビに見入り、瞬き以外に身体を動かさなくなる。
当然そこで会話も止まったため、筵も少しの間、その特撮を一緒に鑑賞し、数分程が経つと、おもむろに立上り洗濯をすると言ってから1時間近く経とうとしているメリーの様子を伺いに行く。
「メリーさん?大丈夫ですか?」
「・・・」
洗面所の方へと歩きながら問いかけても返事が無く、ただ、洗濯機の稼働音だけが鳴り響くばかりであった。
「メリーさん、何かありました?」
筵が洗面所へ入ると底には世にも奇妙な光景があった。
本来あるべき場所にある洗濯機が煙をあげて壊れていて、洗面所のど真ん中にもう一つ稼働中の洗濯機が存在していた。
「メリーさん何やってるんですか?」
邪魔な位置にある洗濯機を軽く数回叩き訪ねる筵。
「いや~、洗濯機壊しちゃったから責任を取って自分の手で洗っているんだよ♪」
「だからって、洗濯機自体に成るのなんてメリーさんくらいですよ」
「ははは、ボクのあっと驚く大変身に不可能は無いんだよ」
メリーは洗濯機になった身体を更に変化させ、不自然な腕を生やし、自ら蓋を開け洗い終わった洗濯物を取り出し始める。
そうして、メリーの中にあった洗濯物を全て取り出すと、変身の合間の竜巻の状態を経て元の姿に戻る。
「後は乾かすだけだね。次は乾燥機になる?それとも太陽になろうか?」
「いや、乾燥機は生きてるみたいだからここは機械に任せよう。楼ちゃんたちが帰ってきたらご飯だからメリーさんも休んでていいよ」
「えっ、ホント?よっしゃー♪」
上機嫌で洗面所を後にしたメリーは、リビングに駆け込み、憩と一緒になってテレビを見始める。
筵はその様子を微笑ましく見ると、洗われた洗濯物を乾燥機に入れる。
そして、壊れた洗濯機のコンセントを抜き、周りを見渡すと、乱雑に放置された洗われていない洗濯物を発見する。
それは”お父さんの洗濯物と一緒に洗わないで”状態で放置された父親、根城のものであった。
筵は、そんなメリーの根城に対する姿勢から色々な事を窺い知ると、仕方無しにその洗濯物を手洗いで洗い始めた。




