???と長い放課後を・・・ 1
「筵兄、今を変えずに過去の歴史のみを変える方法を知っていますか?」
筵が帰路につき、自宅のリビングに入ると、まだ生まれていないはずの本田家三女、本田祭がソファーに腰掛けた状態のまま、無表情なドヤ顔を向けてくる。
祭は天地堕としの一件以降、本田家に居候状態で住みついていた。
そして、そんな彼女の質問に対し、筵は優しく微笑み、両手にスーパーの袋を持った状態で両手をあげる。
「突然過ぎて、まったく理解が追い付かないよ」
「はあ、筵兄にはがっかりですね」
「いや〜、不甲斐ない兄で済まないね。・・・ちなみに夕飯はハンバーグだけどいいかな?」
「さすがは筵兄、大好きです」
移り気な祭は手のひらを返し、ソファーから筵の目の前までの短い距離を自身の能力、第4軸瞬間移動を用いて移動し、筵の持つスーパーの袋をのぞき込む。
「質問の意味は理解できなかったけど、祭ちゃんがハンバーグが好きな事は分かったよ。ところでメリーさんはどこだい?」
「多分まだ洗濯をしていると思いますよ」
「なるほどね・・・」
そう呟くと筵は、一度廊下に出て洗面所の方を向く。
「メリーさん、帰りましたよ」
筵が洗面所の方へ向かって叫ぶと、数秒後、ドタドタとした音が響き、リビングのドアの前に何者かが駆けつける。
そこには服が泡まみれになってしまっている本田栖の姿があった。
「やあ、筵様おかえり♪」
その人物は本田栖の姿や声で本人が決して言わなそうな言葉を口にする。
「メリーさん。家では別に変身して無くても大丈夫ですよ」
「まあ、そうなんだけどね、ボクとしても栖様の姿で行動出来るなんて名誉な事なかなか無いから楽しんでいるんだよっ♪」
そう言うとメリーは身体を小さい竜巻の様にして回転させ、それがおさまると割烹着を着た、人間に似ているが明らかに違う種類の、デフォルメされた様な目と身体を持つ少女が姿を現す。
この少女、メリー・ホッピン・ジェリービーンズは変身能力により栖の不在の穴埋めを任されていた。
「どう?この格好。ボクはまず形から入るタイプなんだ♪これが気に入らないなら、こんなのとか、こんなのとか、あとこういうのもあるよ♪」
メリーは再び身体を竜巻の様に変え、メイド服、着物、奴隷服と順々に着替えていく。
「うーん、僕は最初のが1番好きかな?・・・ああ、それと今朝頼んだ事は何処まで終わっているかな?」
「えっ?半分くらい?」
「半分も終わってるなんて凄いじゃないか。形から入った甲斐があったね。じゃあ取り敢えず洗濯だけ終わらせてくれるかい」
「ガッテン承知♪」
メリーは筵の意見を取り入れ割烹着に着替えると洗面所の方へと戻っていく。
それを見送った筵は夕食の用意をする為、台所の方へと向かおうと振り返る。
すると少しだけ不機嫌そうに筵を見つめる祭の姿が目につく。
「筵兄、今を変えずに過去の歴史をのみを変える方法を知っていますか?」
先ほどよりも少し投げ槍な感じで同じ言葉を投げ掛けてくる祭。
「存じ上げないので、どうかご教授願えませんか?祭先生」
「うむ、いいでしょう」
筵の返答を聞いた祭は直ぐに機嫌を直し、ドヤ顔で喋り始め、筵も台所でその話を聞きつつ、料理に取り掛かった。
「そもそも大前提として、過去を変えても今は変わらないんです。例えば、私の来た時代で生きている事が確定している人間をこの時代で殺そうとしても、100%失敗します」
ソファーに座ったまま得意げな様子で語る祭は台所で食材を調理している筵にドヤ顔を向けつつ、話し続ける。
「しかし、現在を変えない事を徹底すれば改竄は可能なんです。さっきの例で考えると過去に戻りその人物を殺し、何らかの方法でその人物に変わる誰かをその人物として据えおく。そうすれば現在が変化することは無いという事になります」
「なるほど、あまり使う機会はないと思うけど興味深い話だね」
片手間ながらしっかりと話を聞き、感想を述べる筵。
「いやいや筵兄、今のは物騒な話になりましたが、これは何もそのような事にしか利用できないという訳では無いんです。・・・と未来の筵兄が言っていました。私は未来の筵兄に頼まれてこの事を今の筵兄に伝えているんですよ。そしてこれは筵兄から筵兄への伝言です。”そろそろ資金が必要になる頃だろ”だそうです」
「・・・」
「これってどういう意味ですか?私は今、筵兄に言ったことを伝えて欲しいって言われただけで詳しい内容は聞いてないんですが」
首を傾げ質問する祭に対し、筵は少し考え、ゆっくりと見解を述べ始める。
「うーん、例えば、君の知っている限りで僕は過去に宝くじで、3億円を当てているかい?」
「いえ、そんな事は聞いていませんけど?」
「なるほど、でも実は当てていたとして、それを君や社会に対し、ひた隠しにすれば、君の住んでいる世界は何も変わず、最初から僕が宝くじで3億円を当てていた世界だったという事になるよね」
「なるほど!流石筵兄!では、早速調べてきます」
「ああ、ちょっと」
祭は相変わらず無表情ながら、関心した様子であり、敬礼をすると、筵の呼び止めを聞く前に能力で姿を消す。
「まあ、実際にやるとは言ってないんだけれど、未来の僕が送り込んだと言う事はそういう事なのかね」
独り言のようにそう呟いた筵は、あまり深く考えることはなく料理を続けた。




