???と放課後を・・・ 4
同日、県内某所。ハーベスト教団支部。
「では、会議はこれにて、千宮寺、次は今回のような失敗が無いように頼むぞ」
パソコンに何分割かされて映された恐らく各支部の長と思われる十数名の人物達の内の小太りの男が言う。
「ええ、重々承知しています」
「ふっ・・・」
相変わらずの新羅の腰の低い態度に対して、違う支部の者達は気に食わなそうな表情を浮かべ、断ち切るようにブチッと回線が切られる。
「まったく、ムカつくジジイたちですね」
支部長室で椅子に腰掛け、机の上に置かれたパソコンで会議をしていた新羅に、ソファに座ってその会議の様子を観察していた結城社が愚痴をこぼす。
「それに、新羅ももっと言う事はしっかり言って、否定する所はしないと駄目でしょう?」
「ははは、すみません。昔から諍いは好まないんですよね」
「はあ?じゃな何で、テロリスト何てやっているんですか?」
「えっ?私はテロリストではないですよ?強いて言うなら革命家です」
「うわ、出ちゃったよ。言っておきますけどそれが一番やばいタイプのテロリストですからね」
新羅の相手に疲れた様子の社はため息をもらすと、会議の内容に触れる。
「学園が元に戻っていると言う事は、やはり蝶蝶さんの裏切りは確定ですかね?」
「学園側もその状況に困惑しているそうですから、恐らくは寝返った訳では無いでしょうが、星宮さんの仕業、いや御業でしょうね。・・・それにしても、半壊状態にまでした学園を1晩で直してしまうとは力を隠されていましたか」
「・・・茶川の屑野郎は今頃、捕まって拷問ですかね。ざまあみろって感じですが、アイツ、内部情報なんて簡単に売るでしょう」
「ええ、星宮さんはどうしようもないので保留ですが、茶川さんは捜索を急いでいるみたいですね。見つけ次第救出、無理そうならその時は・・・って感じですね」
新羅は額に手を当て、疲れた様子で語り少しの間、ぼーっとした後、溜まっている事務仕事を片付けるためパソコンに向かった。
新羅が長を務めるハーベスト教団の支部は、支部と呼ぶにはあまりにも狭い造りになっていて、5階建てほどのビルの一角に間借りしている状態であり、表向きは探偵事務所という事になっていた。
信者もとい従業員は新羅たちを除くと数名しかおらず、先日の戦いに参加した能力者たちも普段は違う支部に配属されていて、ここには居なかった。
「徳川さん。お客様が見えられてます」
ドアのノック音と共に従業員の1人が支部長室のドアを開けて声を掛けてくる。
「はい分かりました」
新羅は笑いながら言うと、眼鏡を外し、きっちりとセットされた髪を乱雑に乱すとその上から帽子を被る。
「徳川と言う事は探偵の方の仕事ですね。本当にこっちばっかり繁盛しますね」
「まあ、そう言わないでください社さん。これが我が支部の大切な収入源ですから」
変装が完了した新羅は立ちあがると社の横に座る。
「どうぞお入りください」
「し、失礼します」
恐る恐ると言った雰囲気で30代前半ほどの女性が入室して来ると新羅に勧められるままに向かいのソファーに座る。
「ようこそ、徳川探偵事務所へ。ああ、社さんお茶をお出しして」
新羅にお茶をお願いされた社は、立ち上がりお茶を汲みに行くと、新羅はその間で自己紹介を始める。
「私は所長の徳川蔵蔵と申します。あちらは秘書の八代(社)さんです。こう見えて働ける歳なので心配しないでくださいね」
「余計なお世話です。・・・はいお茶をどうぞ。所長にはお湯を」
「ははは、一緒にお茶を入れた方が楽なのに、わざわざ私のだけお湯を直に注ぐとは逆に愛を感じますね」
笑いながらお湯を1口飲んだ新羅はいい感じのタイミングを見計らって本題を話し始め、それから、面談で30分ほど依頼の内容を聞いた後、その依頼を引き受けた。
そして依頼主の女性を見送った後、残っている事務仕事に取り掛かり、それを一段落させた頃には日もとっくに暮れて深夜と呼ぶ方が近い位の時間になっていた。
「今から買出しに行ってきますが、社さんは何かいりまか?」
「んん、あ、え?・・・プリン・・・」
新羅の問にソファで座りながらウトウトとしている社が曖昧な意識の中で答える。
「じゃあ、行ってきますね」
コートを羽織った新羅は社にそう告げると、鍵を閉めて支部を後にした。
「まったく、一体、誰の差金ですか?あなた達」
コンビニで買出しを終えた新羅の前に顔を隠した何人もの人と、1人の屈強な男が立ち塞がっていた。
周りを見渡すと、規制しているのか、人通りがないタイミングを見計らったのかは分からないが一般人の姿は見受けられなかった。
「お金なら差し出すんで、どうか見逃してくださいませんか?さっき買ったものも、このプリン以外なら全部あげますから」
「はあ?そんなんで見逃すわけねぇだろ。お前、本当にあの千宮寺新羅か?」
「人違いですと言いたいところですが、下調べは済んでいるんでしょうね」
新羅はそれぞれ武器を構え、能力を発動させている者達を見渡し呟く。
「ここに居るのは、全員、元Aクラス級の能力者たちだぜ?いくらお前でも・・・」
ドゴッ!!
屈強な男が喋っている途中、目に見えぬ衝撃波の様なもので吹き飛ばされる仮面を被った部下。
その一瞬の出来事を唖然とした様子で眺めるしか出来なかった男は、ハッとして新羅の方を向き直す。
「私の姿無き愛猫は目に見えず、無数の鞭のような触手を持つ・・・私、争いは好まない方なんですけどね〜、・・・はあ、でもまあ、好きでない事もやらなくてはならないのが仕事というものですからね・・・どうか恨まないでください」
新羅はため息まじりに呟くと、目に見えない大きな何かを撫でている様に手を動かし、小さく笑って見せた。




